第155話 新たな犠牲者

 信勝一行が出て行った。


「思っていたより信勝はしっかりしておりましたな。普通二代目は出来が悪いと言いますが敵ながらあっぱれ」


「ええい、胸糞悪い。まあここまでは作戦通りだが、慶次郎め。痛いところをついてきおって」


 秀吉はもう1人の秀吉から前田慶次は有名だと聞いていた。何をしたかは知らないが名前は後世に伝わっていると。関白に喧嘩を売ったのかも知れないとは言っていたが、こういう事か!


「信勝は千名の兵を連れて来ています。どうしますか?」


「殺せ。慶次郎もな」


「帰りに土産を用意しました。例の沙沙貴彩と申すくノ一から聞いていた勝頼側近です」


 正信は意味深な事を言って下がった。






 信勝達は大阪城を出ようとしていた。


「慶次郎。助かった、礼を言う」


「直政が今にも殿下に斬りかかろうとしておりましたので。まあ言いたい事を言ったまでです」


 慶次郎は笑いながら井伊直政を見た。直政はずーっとブツブツ言っている。


「あんなのが関白、なんで関白、どうして関白、………」


 気持ちはわかる。だが、あれだから一代で関白になれたとも言える。


「慶次郎。どう思う、最後のあのやりとりだが」


「殿下の薬ですか?策略でしょう。確かに老けましたが病のようには見えませんでした」


「そうだろうな。あれで油断すると思われているとしたら、馬鹿にされたものだ」


「え、やはり嘘だったのですか?あの本多正信ですが、忠勝様から聞きましたがかなりの曲者のようです」


 直政が本多忠勝から聞いた事を話し始めた。真田とは違ったタイプの軍師だそうだ。戦の戦術よりも調略に優れているそうな。


 話しながら城を出ようとした時、声をかけられた。


「上様。お待ちを。殿下からお土産をお届けするように言付かっております」


 声をかけてきたのは片桐且元だった。賤ヶ岳七本槍の一人で秀吉の側に仕えている。お土産は荷車に載った長四角の箱だった。


「それはかたじけない。中味はなんでござるか?」


 直政が中味を怪しんで聞いた。


「聞いておりませぬ。殿下からだといってお渡しするようにと本多殿から」


「!!!」




 信勝は開けようとした直政を止めて、場外へ出た。本多正信からと聞いて背筋が寒くなった。駿府に寄った時、前世の歴史での本多正信の話を聞かされた。今回の騒動も正信の策略だと。中味が何にせよ動揺するところを見せたくはない。城を出てしばらくすると、高さん兄弟、戦国飛行隊が待っていた。兵と合流する前に箱を開けた。


「え!」


「なんと」


「………」


 桃はその場で号泣し座り込んだ。箱の中には拷問され生き絶えた木村悟朗の亡骸が入っていた。寅松が勝頼に知らせようとその場から離れようとしたが、信勝が止めた。まだ愛話勝アイハカツの場所は敵に知られたくはない。


 ご一行の様子は秀吉の忍びが見張っていたのである。




 一行は武田商店の者に亡骸を預けて後で骨を届けるように言って、駿河へ戻り始めた。桃はあれから殆ど喋らない。信勝は紅に聞いた。


「紅、悟朗は最後どこにいた?」


「格さんの死を見届けた後、信平様を追っていったと聞いてます。それ以降音沙汰がありませんでした。上田にいると思っていたのですが」


 越中あたりで捕まったか。利家の忍びか?


「大御所に知らせたいが、今、お主らを行かせる訳にはいかん。信綱に頼むしかないな。半蔵は来ているのか?」


「周辺を見張っている筈です。主だった者達に雪風を持たせていますので銃声がしたら危ういと思ってください」




 一行は大阪から京へ向かっていた。京から長浜へ向かう。琵琶湖畔まで真田信綱軍が迎えに来ている。とりあえずそこまで行ければ一安心なのだが、と思っていたら銃声がした。しかも連発で。


「雪風だな。狙撃しようとしていたのか。ここはまだ秀吉の領地、その上に人目も多いしな。まずは小手調べといったとこか」


 武田忍びは事前に信勝が通る周辺は調査してあった。敵が仕掛けてきそうなポイントを想定して準備していた。兵は千名だが、それ以上の者が陰の護衛、情報収集に動いている。紅と信勝の会話は続いている。


「次は京を出たところでしょうか?坂本城に兵が集まっているという情報もあります」


「それは囮、いや囮とは違うか。そこで仕掛けてくると思わせておいてもっと手前で来るのではないかな?」


 そのまま何事もなく京へ到着し長居は無用と近江へ向かった。周囲は山だ、山の中には武田忍びが警戒網を張っている筈だ。


 慶次郎は先ほどから空を気にしている。


「慶次郎、どうした。気になるのか?」


「それがしならどうするかを考えていたのです。京の街を出たところで上から攻める、琵琶湖上から狙撃、ようは不意打ちですな。こちらが備えている事は敵も先刻承知。桃殿……、おい、桃、しっかりせんか!」


 桃は心ここにあらずだった。慶次郎はいい加減にしろと怒鳴りつけた。桃ははっと我に帰り、


「なんか来る!」


 と言って走り出した。それを見た戦国飛行隊のメンバーも桃を追いかけた。何が来るというのだ?信勝は改めて前方の空を見ると大凧が上がっている。ん?


「上から来るぞ!防御だ。あとあの凧を撃ち落とせ!」

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