第148話 信長の孫で勝頼の子、信平

 その頃、岡崎ではクーデターが起きていた。石川数正が突然馬場美濃守を斬り捨て城を乗っ取ったのである。鬼と言われた猛将馬場美濃守も隙を突かれあっけなく命を落とした。


 城では石川数正につく者、馬場美濃守の仇を討とうとする者で別れたが、準備万端だった石川勢に押されて城を取られてしまった。


 馬場派の伝令が浜松、駿府へ走っていった。





 信平は岡崎の事件、また室賀が裏切り背後に近づいてきている事を知らずに進軍していた。室賀は途中の城には目もくれず信平を追っていた。兵は七千、ほぼありったけ連れてきている。裏切る以上中途半端な事をする気は無かった。


 信平と盛信軍が衝突した。数で勝る信平軍が押していたが、そこに間者の情報が入ってきた。木村五郎と格さんが信平陣に現れ、


「殿。これは罠のようです。後方から室賀殿の兵が迫っております。裏切りです。また、前方からは前田利家の軍一万が進んできています」


 信平は勝頼からこの二人を信じて進めと言われていた。格さんの武器も普段から携帯していて、信平自身も信頼していたのだが、


「室賀殿が裏切った?何故だ、わからぬ」


 信じられなかった。まだ経験不足の信平ではこの状況を冷静に捉える事は難しかったのである。

 格さんは言った。


「殿、室賀は五郎殿とそれがしで防ぎます。その間に佐々成政様と盛信、前田を抑えてくださいませ。その間に、お味方の援軍も着きましょう。源三郎殿、後をお頼み申す」


 そう言って二人は下がっていった。信平は五分間沈黙し考えた。落ち着け、今できる最善を尽くす事が出来るのがこの信平なのだ、俺には信長と勝頼の血が入ってるんだぞ。自分に喝を入れた。勝頼に教わった自己暗示強化法、メンタルコントロールである。出来ないと思うな、こうすれば出来ると考えろという現代風の教育を信平は受けていた。


 そして目を見開き、


「佐々殿に使者を!矢沢、前田が来る前に盛信を蹴散らせ。源三郎、信綱殿に前田領を攻めるように。頼康には兵を出来るだけ集めて室賀の後ろを突かせろ。上杉様、跡部殿、内藤殿にも援軍要請、大御所へも伝えろ、急げ!」


 11歳の小僧の機関銃のような指示を的確にこなす源三郎であった。




 銃の一斉射撃の後、矢沢頼綱が老体に鞭を打って盛信軍に突入し、その後を岩櫃の矢沢兵が続き敵を蹂躙していった。佐々軍も防戦から抗戦に転じ乱戦となったところに、前田軍が到着し横から突っ込もうとしたその時、上空から前田軍先鋒に桜花散撃がばら撒かれた。


 上空には五郎率いるハングライダー甲斐紫電に乗った十五機がいた。前田軍のあちこちに手榴弾式マキビシを浴びせ信平軍後方へ消えていった。


 前田軍は利家自らが出陣してきていた。空中からの攻撃を見た利家は銃で撃ち落とすよう指示をしたがその時には既に射程距離から遠ざかっていた。利家はマキビシで進軍し難くなった地面を兵に掃除させた。慌てて進軍するのではなく冷静に対処し、兵に問題の無くなった地面を進ませた。


 次に空から来ても直ぐに撃ち落とす準備をし、兵を突入させた。盛信は前田陣に逃げてきたが、兵をほとんど失った。


 戦は前田利家対佐々成政、信平連合軍の戦いとなった。


 前田利家は秀吉から信平が出てきたら必ず殺すように厳命されていた。今いる兵は一万だが、後方にさらに一万の兵を控えさせていた。戦場が山ゆえ大軍を平地で展開する戦にはならない。消耗戦になるのなら兵が多い方は有利になる。


 信平陣に怪我をした矢沢頼綱が戻ってきた。


「盛信を逃してしまいました。申し訳ございません」


「いや、良くやってくれた。休め」


 信平は頼綱を下がらせた。源三郎を呼び、


「室賀の方はどうなっている?」


「格さんが大活躍で足止めをしています。ただ時間の問題かと」


「何故だ?」


 弾薬に限りがあるとの事だった。その間に援軍が間に合えば我らの勝ち、間に合わねば負けでしょうと淡々と話す源三郎に腹が立った。


「負けてどうする?それでも昌幸の嫡男か?そなたの父上はあの織田信長でさえ恐れていた軍師であろう。この窮地を救ってこその真田の血であろう」


 父昌幸と弟信繁は考え方が似ていた。信幸はいつも意見が食い違った。だが、信幸から見ると昌幸の案は危なっかしいのだ。危険が多い。


 信平に怒られてしまった。だが考えればごもっともである。全くどこにこんな11歳がいるのだ。上司に恵まれたのか逆なのか。


 昌幸に聞いた大御所の子供の頃の話もすごくて嘘くさいと思っていたが、いやはやなんとも、武田家恐るべしだ。


 信幸は敵の作戦を読むことにした。俺なら次にどうする?前田利家になった気で考えてみた。利家の狙いは信平だ。敵の方が兵は多いが幸い山なので全軍が戦う事はできない。逃げ道は二つ、上田へ戻るか越中へ引くかだ。上田方面には室賀がいる。越中へ引けば前田軍は越中へ全方面から進軍してくるだろう。


 戦いながら越中へ下がる。援軍が来たらその時に考える事にした。だが、素直に引かせてはくれないな、隙があれば仕掛けてくる。


 武田、佐々軍は少しずつ下がり始めた。このまま藤井城まで下がればこの場は凌げる。そう思った時に敵の航空部隊が現れた。同じようなハングライダーが20機、信平の方へ向かってきた。


「よし、撃ち落とせ」


 信幸の声とともに鉄砲隊が立ち上がり銃を、弓矢隊は火矢を撃った。信幸は信平を襲う方法は狙撃か空だろうと待ち構えていたのである。信平からかなり離れたところで敵のハングライダーは撃ち落とされた。

 武田軍は、相良油田の事件以降対空防御の訓練を行なっていた。それが上手くいった。


 信平は佐々成政に言われ藤井城からさらに海側へ進んだ。どこへ抜けるのがいいのか、誰が味方なのかわからないというのだ。飛騨へ抜けるより越後へ抜けろというのが佐々の意見だった。信平は少し考え同意する事にした。


 佐々成政は信平に会ったのは初めてだったが一目で気に入ってしまった。信長の孫というのもあったのであろう。絶対死なせんと藤井城で前田軍を引き止めるべく奮戦を始めた。

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