第142話 真田城

勝頼一行は大阪城を遠目に見つつ港へ向かった。港にはお市が茜と一緒に待っていた。そのまま船に乗り、沖にいた戦艦駿河に乗り込んだ。お市が


「堺に滞在し、色々と調べてたんだけど、まず国友村は大阪城内に引っ越した見たい」


やるな秀吉。それは手が出ないぞ。次に茜が、


「それと、毛利が長宗我部と和解したようです。秀吉が関白になったという事で関白に従えと強引に長宗我部を支配下に置きました。ただ、納得している訳ではないようで、水面下に武田に付くよう進めています」


長曾我部は要になるかも知れんな。茜が続けた。


「毛利は島津と手を結び九州を豊臣のものにしようとしています。大友が抵抗していますが、長引けば不利かと」


「そうか。水軍の動きは?」


「はい、毛利は楓を分析して一回り大きい楓の改良版を量産しています。スクリュー、自転車漕ぎと従来の手漕ぎを併用しています。毛利得意の焙烙火矢も改良され、燃やす物と貫く物があるようです」


そうか。お市のあれの出番が来るのか。なんてこった。


「市。駿河、焼津と楓マーク2を連れて毛利水軍の基地を叩け。無理はするなよ。茜、すまんが頼む」


「了解!」


お市が嬉しそうに答えた。私の作った新兵器、あんなもん出番がないってずーっと言われてたけど、ほらあるじゃんね。感謝しろよ、と思いつつ作戦会議を開いた。


勝頼は戦艦富士に乗り換えて那古野へ向かった。






少し時を戻します。長浜城では足利義昭軍が長浜城の出城、真田城を攻めるべく筒井順慶、池田恒興合同軍一万五千を向かわせた。


真田城と呼ばれる出城の前には空掘があり、それを越えると竹襖が無数立っており、迷路のような通路を作っている。筒井、池田軍が近づくと竹襖の影から、紙で作ったメガホンを使い


「弱虫の池田恒興と日和見の筒井順慶ではないか、皆、笑ってやれ。ハハハハハ………」


と大声の笑い声が戦場に響いた。


「なんだと。目に物見せてくれるわ。全軍進め、そんな出城など粉砕してしまえ!」


池田恒興の掛け声とともに兵が進み始めた。武田軍の笑い声はまだ続いている。


「弱虫池田の兵など何の役にも立たんわ、ハハハハハ………」


一万五千の兵が進み始めた。先陣部隊は空掘に入り、やっとこさ登ったところに竹襖から銃撃をくらい空堀に落下していった。空堀の幅は5m程、深さは1.5mだ。兵はどんどん空堀に入ってくる、堀から登った兵は銃や矢で撃たれてまた掘りに落ちる。


黒田官兵衛は池田恒興の芸の無さに呆れていた。敵が待ち構えているところにただ突っ込んでどうする。確かに物量では勝ってはいるが明らかに無理攻めだ。池田などどうでもいいが戦力が減るのは困る。


官兵衛は一旦引くように伝令を飛ばした。


だが、散々馬鹿にされた池田、筒井は引く気がなく、


「行けー、蹴散らせ。人数で押し出すのだ。堀の外から銃を撃て、撃って撃って撃ちまくれ!」


足利軍の銃弾は竹襖に弾かれた。銃撃が続き数個の竹襖が壊れた。武田軍の笑い声が消え、武田軍からの攻撃も止まった。


「よし、今だ!突撃せよ!」


先鋒の兵が空堀を越えた。それを見た池田、筒井軍は堀に入っていった。と、その時堀の中に黒い水が流れてきた。水は2cm程の深さで止まった。真田城から、掛け声が飛んだ。


「今だ、火矢を放て!」


竹襖の後ろから火矢が20本飛んで堀の中の兵に向かった。兵は矢を切り落とした。火は堀に落ち、黒い水に引火した。一瞬で堀が火の海に変わった。


「よし、二撃を与える。堀を越えた兵を倒し、風を起こせ!」


堀は火の海だ、ほとんどの兵は全身が燃えて堀の中で死んでいった。堀に入ろうとしていた兵は何が起きたのか分からず数秒動けなかった。その間に火が燃え移り、火がついたまま戦場を逃げ回ろうとしたが、何千という兵が堀に向かって進んでいて兵は身動きが取れない、が、なんせ熱いので暴れて動き回った。満員電車で無理やり降りようとするおじさんの如くもがいた。


その火のついた兵目掛けて弓の名手が油容器を付けた特製矢を放った。火が火を呼び敵陣はあちこちで人が燃える火事になった。そこに真田城側から突然風が吹き始め、火は炎の嵐となって敵陣を襲った。


「大殿流で言うと、何でござろう?地獄業火、いや、暴嵐焔矢チョーアチー とでもいうのかな?」


真田信綱は扇風機を引き上げさせながら呟いた。そう、勝頼から扇風機なる物を預かっていた。電池を使用し、竹の羽が周り風を起こす機械だ。扇風機を30台堀の手前に起き、火の粉を敵陣へ飛ばしていたのだ。5分程で電池は切れ扇風機が止まったので引き上げさせたが、効果は十二分だった。


真田信綱は弟の昌幸から勝頼のトンデモ兵器の凄さを聞いてはいたが、凄まじいものだった。




ちなみに勝頼が扇風機を預けたのは、兵が暑いだろうから涼むように送ったのだが………。信州勢はあまり絡んでなかったから珍しい物出すと兵が喜び士気が上がるかと。

勝頼は後で聞いて、風力足りねえーよな、嵐にはならねえだろ、偶然いい風でも吹いたのかな?と驚いた。実は信州軍に格さんの弟子が三人いて扇風機の出力を大幅に上げていた。勝頼の毎度毎度無茶な要求に応える為に武田軍の技術陣はそこまで実力が上がっていたのである。





この初戦で真田側の負傷者二名、死者無し。池田、筒井側の負傷者は三千名、死者は二千名に及んだ。負傷者は一生残るトラウマを植え付けられた。そう、火が怖いのである。


空掘はコの字に掘られており正面が深く、側面は浅くなっていて、正面側に傾斜がついていた。油を流すと正面に貯まるように作られていた。ただの空掘に見せかけた罠だったのだ。





人が燃える臭いが足利義昭に届いた。義昭は軍議を開いた。


「なんという無様な結果だ。兵の数はこちらが多いのだぞ、それが一方的に負けるとは。官兵衛、策はないのか?」


「あの真田城という出城。なかなか見事な出来映えでござる。あれを避けていくこともできますが、敵の遊軍と交戦しているうちに背後を突かれるやも知れません。つまりあの出城を叩くしかないということですな」


「だから策はないのかと聞いておる。敵を褒めてどうするのだ?」


「まずはあの堀を埋めてしまいましょう。そしてこちらも火矢を放ちあの厄介な竹襖を燃やします。さすれば敵の出城を直接攻めれます。人数はこちらが上、敵が小細工できなくすればこちらの勝ちです」


長浜城南側は多大な犠牲を出した後、堀を埋めにかかった。






北側では真田城より一回り小さな出城というより砦に近い拠点に直江兼続が指揮をとっていた。同じように空掘が掘ってある。違うのは空堀が二つ並んで掘られている。一つ越えて30mのところにもう一つ掘られていた。


前田利家のところには南側で味方が惨敗した連絡がきていて、迂闊に堀に近づけなくなっていた。


「うーむ、このまま攻めるのは危ういな。やはり堀を埋めるしかないのか」


利家は悩んだ挙句、攻めるのをやめ、堀を埋めさせはじめた。

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