第128話 さらば梅雪
「長距離砲、
勝頼の掛け声で射程距離3000mの長距離大砲が用意された。前の歴史では家康が大坂城にぶっ放した外国製の大砲があったけど、数十年早く実現させたぜ。格さんが設計したのだけど、どうやら極めてアームストロング砲に近いみたい。砲身の中見たらネジみたいな溝があった。これで弾に回転がついて飛ぶのかな?弾は五発、城から2000mのところに設置した。確実に当てたいから距離を詰めた。狙いは敵大砲だ。砲撃手毎葬ってやる。撃つのは製作者、田中光吉。諏訪で試射もしたそうだ。誰でも撃てる訳ではないらしい。
「光吉、まずは最上階を狙え。穴山がどこにいるかはわからんが驚かせてやれ。撃つ前に言う合言葉、わかってるな?」
「はい。エネルギー充填120%。
最上階を狙って撃った弾は若干それて運良く3階を直撃した。敵の砲台が2機、城から落下し狙撃兵と思われる兵も数名城から落ちた。穴山は城の2階にある大広間で宇都宮国綱と今後どうするかを話し合っていた。このままでは兵糧が尽きる。秀吉が武田を攻めてくれれば勝頼も退かざるを得なくなるため、籠城し粘っていたが秀吉も手こずっているのか全く音沙汰がない。当の秀吉は織田家家臣団の中で味方を増やし、柴田勝家との戦に備えていて武田どころではなかった。
勝頼が兵糧切れを待たずに仕掛けたのは正にこの理由だ。柴田勝家との戦が終わって秀吉の目がこっちに目が向く前に関東の戦は終わらさないといけないのである。
勝頼は清須会議に乗り込む事ができなかった。ならば秀吉にこの戦に介入させない事だ。
穴山は城の上で何かが爆発したと思った。砲台が何か誤ちを犯し暴発でもしたのかと。まさか城外から砲撃を受けたとは考えなかった。
宇都宮とともに、城の上に登った。そこで目にした物は正に惨劇だった。
「どこからだ?どこから撃たれた!」
「わかりません、ただ武田陣の方向です」
穴山は武田陣を見た。人が密集している前方に何か見える。遠くてはっきりはわからないが、いや、あれは。
「下がれ、狙われているぞ」
穴山は3階を放棄させ兵を連れて2階に降りた。少し時間が経った後、4階に再び着弾した。城の壁が落ち、屋根が崩れて下に落下しいった。
勝頼は望遠鏡『見えるんです』で城の様子を見ていた。さっきのは穴山梅雪だよな。引っ込んだか。ここから狙われるとは流石に思わなかったろう。さて、どう出るか?
勝頼は20分ほど経過してから3発目を発射した。穴山はこっちの砲弾が何発あるかはわかるまい。もう弾切れと思わせてから次弾を撃つ、あーおいらって嫌な奴。
外から3階が狙われているため、城の砲台は使えなくなった。城の西側からは容易に城へ近づく事が出来るようになった。だが、まだ小山城には沢山の罠が残っている。城に入るには多くの犠牲が必要だ。だが、時間がない。多少の犠牲は止むなしと城門から突撃を命じた。
先鋒は小山田隊である。そのあとに結城勢二千が続く。外堀を越え、城門までの坂を駆け登る。城門には扉がなく、門をくぐった先は広場になっていて、二の丸へ向かうには狭い通路を通らねばならない。
門をくぐり抜けた兵は通路を通るために、広場で渋滞状態になった。
広場に渋滞している兵を穴山勢が曲輪から銃撃、矢で蹂躙する、はずだったが、それを予想していた小山田隊は曲輪に向かって防御壁を作り、最小限の犠牲にとどめた。そう、勝頼考案の簡易防御壁、
その間に結城勢が狭い通路を進み始めた。通路の両側から槍が突き出てきて兵の命を奪ったが、兵が刺さった槍を抜かずにたたき折ったため、槍を突き出す穴が埋まり次の攻撃が出来なくなった。ならばと今度は通路を進む兵に矢が襲いかかった。ただ数が違いすぎる。穴山の弓兵は武田の狙撃兵に一人、また一人討ち取られ通路は安泰となっていった。通路を抜けると二の丸入り口があり、またそこが広場になっていた。小山田、結城に続き、下野で降伏した国衆が二の丸入り口に集結した。
二の丸からは広場へ向かって銃撃の後、兵が出撃してきて混戦となった。敵の出撃は二の丸城門、それと東、南北の守備兵が二の丸広場へ側面から現れ武田軍を圧倒していった。
そこに時間差で南の城門から本多忠勝率いる三河勢が、北の城門から原勢と佐竹勢、東の城門からは信豊勢が侵入した。守備兵が減っていたので少ない犠牲で二の丸広場へ突入できた。もう弾切れと思ったのか、3階の砲台が東に向かって打とうとしていたが、そこを
穴山兵は徐々に減り、武田軍は二の丸へ突入し占拠した。そのままの勢いで本丸へ向かった。
穴山梅雪は戦況を冷静に分析して諦めた。梅雪は宇都宮国綱を気に入っていた。若い、若いが将来有望な将であった。ここで自分とともに死なすには惜しい男だ。
「どこで間違ったのだ。あと一年あれば秀吉が勝頼を攻めたであろう。小山田や北条は何をしていたのだ、伊達は?この一年なぜ耐え切れん。小山城は堅城だ、簡単には攻められないように築城した。なぜこんなに簡単に攻め落とされる?武田勝頼という男は一体?」
呟いて、宇都宮を見た。宇都宮は腹を切る覚悟のようだ。
「お屋形様。この国綱、勝頼公に刃を向けた以上生き延びる事は考えておりませぬ。お屋形様にお供いたします」
「ならん。そなたは勝頼殿の信頼も厚かった。余が間違えたのだ。生きよ、そして武田を支えてくれ」
そこに、血まみれの武田信豊、原昌胤が本多忠勝らに守られつつ現れた。信豊は、
「お久しゅうござる。このような形で再会しようとは思いませんでしたが。お命頂戴仕る」
といい、刀を構えた。穴山は懐からリボルバー雪風を出し、信豊に銃口を向けようとしたが、本多忠勝がその手に向かって小刀を投げ、銃を落としてしまった。
「もはやここまで。勝頼殿へお伝え頂きたい。小山城攻め見事でしたと。信玄公の跡取りとしてこの梅雪、お認めいたしますと、な」
「今まで認めていなかったのか?」
と、原が憤慨して叫んだ。
「頭では納得していました。真の心はどうでしたか。信玄公は偉大でした。信虎様を追い出し家督を継がれ、甲斐一国の大名から信濃を手に入られました。敗戦もありましたが、それを糧にして信玄公を頭に家臣一同一体となって進んできました。突然亡くなられ、その後既に家督を譲られていた勝頼殿が武田を導いてこられた。順調でした。順調に見えました。余も下野一国を与えられ大名になれました。ところが突然失踪された。理由はわかりません。ただ、その時にこのままお任せして武田に行く末は本当に安泰なのか悩んだのです。穴山は武田の分家です。余が武田を継ぐ方がいいのではと、悩んでいるときにそう秀吉に言われました。あの男は不思議な力を持っています。人を導く力とでもいうのか、今から思えば余も秀吉の手駒だったのかもしれません」
冷静に話を聞いていた本多忠勝は、信豊の顔を見て話していいか確認してから、
「穴山梅雪。腹を切れ」
「お願いがある。余はここで腹を切る。ここにいる宇都宮殿は有望な若者、勝頼殿へ生きたまま会わせていただきたい」
信豊は、
「あいわかった。大殿の元へ連れて行く。ただ、お会いできるかは大殿が決める事だ」
「それでいい」
穴山梅雪はその日、この世を去った。
ついてない男だな。前世でも変な死に方だったし。勝頼は穴山の最期の言葉を信豊から聞いて、武田の名を残す事を考えつつ、対秀吉に脳みそを切り替えた。
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