第47話 再び出陣

 伊賀の甚三郎は周りに倒れている部下を見た。建物や、屋根の上、周囲の森から子供の様な若い侍が15名出てきて、部下に躊躇いなくトドメを刺していた。


「さて、あんたが親分よね。どこの忍び?」


「いや、お幸。そんなんで話すわけないじゃろ。それに嘘を言うかもしれん。」


「助さん、じゃあどうすんのさ?」


「お主、助かりたくないか?」


 甚三郎の腹には銃弾が突き抜けたところからの出血もひどい。意識ははっきりしていたが、痛みがひどくとても助かるとは思えなかった。


「お主に使ったのは鉛玉ではない、鉄の玉じゃ。鉛は軟らかいから体内に残りやすい。しかも毒を出すから撃たれた者は助かりにくい。鉄の玉は貫通しやすいのでの。その位置なら手当てをすれば助かるじゃろ。」


「え、助けるの?」


「この者次第だな。さて、どこの忍びだ?」


 甚三郎は痛みで錯乱しつつあった。助かる?でも相手も忍び。騙しているのかも知れん。部下を殺されて自分だけ生き残る訳にも、でも痛い。


「まあ、そうだろう。助かりはしたいがわしらを簡単には信じる事はできんだろうな。そうだ、うなずくだけでいいぞ。織田の忍びの動きは掴んでおる。徳川の者だろ。そうだな?」


 甚三郎は助さんを睨むだけでうなずかなかった。そしてそのまま意識を失った。




 格さんは酒を持ってきて甚三郎の傷口に振りかけた。甚三郎は悲鳴を上げ、意識を取り戻した。


「勘違いするなよ、拷問ではないぞ、消毒だ。今なら助かるぞ、勝頼様考案の薬もあるしな。」


 勝頼考案の薬、そうペニシリンもどきもどきである。どこにでもある青カビを芋汁で培養し、抽出し、炭に吸着させ、水に溶かして濃縮してと、まあこんな事を繰り返してたら多少膿に効果のある液体ができた。


 勝頼は専門外だからこんなもんだ、と思いつつ、格さんには万能薬と言っている、若干効き目のある恐らくは抗生物質である。


 良い子のみんなは真似しない様に。自分で作っちゃダメですよ。素直に病院へ行きましょうね。





 甚三郎は勝頼考案の薬に反応した。摩訶不思議な道具を使い、見たことの無い銃を作る男の薬である。


 理性が興味に負けた。


「本当に助かるのか?」


「正直に言う。半々じゃ、おぬしの運と勝頼様のお力次第。勝頼様は諏訪大明神のご加護をお持ちじゃ。ご本人はそう申されておる。勝頼様を信じれば助かるであろう。」


「わかった。我は徳川の忍びだ。後は、勝頼殿にお会いしてからだ。」


 甚三郎は牢に入れられた。運良く命を取り止めた。






 勝頼は駿河から戻ってきた。お幸、格さん、助さんから敵の忍びを撃退する為に、雪風 の試験を兼ねて使った事。雪風 は使える事、徳川の忍びと語っている親分らしき忍びを殺さずに軟禁している事を聞いた。


「雪風を使ったのか。実戦の試験としては良かったな。だが、この程度で使えるとは何だ。いつでもどこでも全弾撃てるのが当たり前だろ。」


 と、勝頼にダメ出しされ、助さんはトボトボと工場へ戻っていった。


 勝頼は甚三郎に会いにいった。


「よう、家康殿の使いだって? 余が勝頼じゃ」


「伊賀の甚三郎と申す。それがしはどうなる?」


「怪我はどうだ?治ったなら帰ってもいいぞ。まあ、ここで見た事は秘密にしてもらうがな。」


「??? それがしは家康様に仕えています。見た事を報告するのが務めです。」


「良かったな。そう言わなかったら殺していたよ。簡単に裏切るやつは信用できん。銃の傷は簡単には治らん。しばらくは安静にしてな。」


 甚三郎は待遇の良さに困惑していた。まだ傷口は塞がらず当分動く事もできなそうだったので、様子を見ることにした。





 2ヶ月後、武田軍は再び駿河に進出した。北条攻めである。勝頼は今度はお幸を連れ、雪風を持ち、出陣した。

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