第39話 母の秘密

 馬場美濃流が転生する15年前。山内恵は、高校の卒業旅行で友達と静岡県の寸又峡へ出掛けた。

 SLに乗って山々を見ていると、美濃流の事が頭に浮かんだ。そう、ついこの間まで付き合っていた美濃流の事を。


 優柔不断というか、もっと来て欲しいのになんかはっきりしなくて一度別れてみようと話をしたら無言になってしまって、結局それから話ができていない。帰ったら謝ろうかなと考えていた。


 夢の吊り橋を渡って歩いていたら、小さな祠があった。恵は小さい頃から霊感が強くてなんか引っ張られる感じがしたので、逃げるように戻った。


 その日は金谷駅近くの祖母の家に泊まった。友達はそのまま帰った。


「今日はどうだったん?昔から一度SLに乗ってみたいといってたら?」


「景色が良かった。なんかのんびりできて、たまにはいいよね。こういうのも。」


「そうだら。明日は石畳登ってみい。ばあちゃんが生きてるうちにしか来ないんだから。」


 石畳というのは金谷駅から少し離れたところにあるちょっと長い階段で旧東海道にあたる。


「うん、行ってみるよ。おやすみなさい。」




 翌朝、石畳を登る恵の姿があった。


「ふう、はあ、結構キツイ。」


 途中にあるベンチで休む事にした。あれ、これって登ったら何処に出るんだろ?聞いてくるの忘れた。東海道だから掛川まで行っちゃうとか?そんなには歩けないぞ。


 登りきると茶畑に出た。というか茶畑しか見えない。ありゃ、どっちいけばいいんだ?

 止まってても仕方ないので歩いて行くと民家が見えてきた。家の人に聞いたら、


「そこが諏訪原城っていうお城の跡だよ。何も残ってないけど。」


 そういえば、美濃流君は戦国時代が好きだったなあ。話のタネにはなるかも。

 恵は諏訪原城跡に入っていった。


「本当に何もないじゃん。木と坂と、石と。あ、何かある、諏訪神社、どこにでもあるやつかな?」


 その時何かを感じた。


「え、なに?」


 そのまま意識を失った。





『恵さん、こんにちは。お目覚めですか?』


 誰?女の人の声が聞こえる。


『諏訪大明神と呼ばれている者です。八坂刀売神、呼び難いと思いますので女神様でいいですよ。突然ですが貴女は先程お亡くなりになりました。申し訳ありません。』


 え、私死んだの?なんで。それに女神様は何で謝るの?


『ある事情に巻き込まれてしまったのです。貴女は諏訪家の血を引いています。また、ご先祖に巫女を勤めていた方もいらっしゃいます。私どもの影響を受けやすかったのです。貴女は馬場美濃流さんの事が好きですよね?』


 はい、それがいったい。


『貴女は転生します。ただ、貴女の記憶はなくなります。私に出来ることは、いずれ転生後に馬場美濃流さんに出会えるようにする事だけです。美濃流さんは貴女の身近な存在になるでしょう。』


 記憶が無くなる。美濃流君に会ってもわからないんですね。


『もう少しで記憶がなくなります。一つだけ言える事は貴女は馬場美濃流さんを救う事になるはずです。』


 美濃流君を救う、そうかあ。


 恵はこの世から消えた。




 馬場美濃流は、この事件を知らない。恵には振られたと思っていて、その後も会うことはなかった。


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