第34話 戦い終わって

 上泉伊勢守は城へ戻った。城主の長野業成は、先月父が他界し城主になったばかり。


 重臣が籠城を勧める中、若さ故か何とかしたいと上泉伊勢守に夜討を命じていた。


「伊勢守、ただ今戻りました。敵に強者あり、あばらをやられました。」


「伊勢守に怪我をさせるとは、どんな敵だ」


「伊那四郎勝頼、信玄のお子でござる。勝頼も強いがその護衛も強い。殿、うって出るのはお控えください。敵は手ごわい。」


 この日より、夜討ちは無くなった。





 勝頼の陣ではお幸が一方的に怒鳴りまくっていた。


「殿をお守りするのが我らの役目。一体何のざまですか今日の戦闘は!。楓、不用意に飛び込んでその後戦闘に参加できなかったよね、どうするのそんな事で。

 皆もあんなに飛び苦無投げて当てられないの?工夫がないのよ工夫が。しかも殿の考えた秘策、拡散覇道砲、あれを出して負けるわけがない。あれを初見で躱せたら 化け物よ。狙いが甘いのよ、狙いが!」


 いや、あのね。相手はあの上泉伊勢守だよ。剣聖だよ。たぶん今の日本で一番強いよ。

 化け物よ、ほぼ化け物みたいなものだから。


 とはいえ、反省点は多い。実は俺はハンドガン 武田1号を持っていた。なのに撃つ余裕は無かった。つまり、今日のような戦闘には不向きという事だ。


「高さん、何が勝ったか、よ。初陣だから仕方ないけど油断しすぎ。あんたが死ぬのは勝手だけど、殿になんかあったらあたしがあんたを殺すからね。旗本なら身を挺して守りなさいよ。でかいずうたいして、敵を通してんじゃないよ!」


 そう、高さんを通り抜けたように見えたんだよな、あの奥義。どうやったんだろう?






 信長の間者 沙沙貴綱紀はこの戦闘を離れた木の上から見ていた。驚く事ばかりである。


 あの灯りは何だ、突然明るくなった。提灯の一種だろうか?もっと驚いたのは上泉伊勢守の動きである。無数の飛び苦無を避け、斬り払いかすらせたのみ、しかも目が眩んだ状態で。


 その後の奥義、陽炎ははっきり見る事ができた。一瞬の貯めの後、残像が残るほどの速度で勝頼に斬りつけた。お互いに一撃必殺の見事な攻めだが、それをお互いに凌いだ。


 夢を見ているようだった。その後、松山城を探った後、清洲へ戻った。信長にはありのままを報告した。




 お幸が喋り疲れてペースが落ちてきたので、勝頼は


「お幸、気持ちはわかるが悪い事ばかりではない。色々と学んだ事も多かった。いい戦闘であった。みな、ご苦労」


 終わりそうもないので、無理矢理閉めた。


 この戦は、その後本軍が攻めようとしていた松山城が北条に下ったので終了した。

 勝頼は高遠に寄らず、古府中へ向かった。

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