第32話 初陣

 1563年、勝頼は17歳になっていた。北条の要請で関東制圧に援軍として出た甲信軍一万五千人の中に勝頼率いる高遠軍500名が従軍していた。


 そう、勝頼の初陣である。

 本隊は松山城(今の埼玉県東松山市)に向かったが、勝頼は箕輪城攻めに残された。


 信玄はこの戦には出ず、逍遙軒武田信廉を大将としていたが、出陣前に決して無理はするなと何度も何度も信玄に言われた。


「ハイハイ、わかってますよ」


「どうしました、突然。」


 勝頼旗本隊長の高城三郎通泰がつい独り言に返事をしてしまった。


「お屋形様がな、いや何でもない、独り言だ。気にするな。」


 高城の事は高さんと呼んでいる。勝頼親衛隊jrじゃなかった、予備軍からの出世者で体格が良かったので、お幸と楓に言って武闘家として鍛えてもらった。

 イメージしている武闘家というのがなかなか伝わらず苦労したのは内緒である。


 素手で刀を持っている俺といい勝負をするくらいに強い。当然飛び苦無や刀も使う。

 ちなみに高さんも初陣である。


 今回は鉄砲150、騎馬30、槍50、足軽200、旗本50、その他護衛隊20の他に物見として別に偵察隊が50人出陣している。


 箕輪城を囲むは2000人。本軍が素通りしたので箕輪城の連中は頭にきて籠城しつつ、細々と地の利を利用して仕掛けてくる。昨夜もどこからか現れたのか、14人の足軽が突然やってきた敵兵に殺され、悲鳴を聞いて駆けつけた時にはもう誰もいなかった。




 逍遙軒様からは、北条の戦である。武田の戦ではないのだから、無理して仕掛けるなと命令を受けていたので勝頼はボーっとしていようと思っていたが毎夜少しづつ戦力が削られるのは面白くない。


 偵察隊に敵の侵入経路を探らせた。


「どうだ、わかったか?」


「はい、3つの経路がありますが、どれを使ってくるかは予測がたちません。」


 お幸は偵察隊に向かい、いい放った。


「それでも伊那の者ですか。殿の命令を果たせぬ者など必要ない。」


 と激怒したので、慌てて逃げるように再度偵察に向かった。怖え、お幸怖え。

 夜は優しいのになあ。


「わかりました。今日は城の裏手から山を抜け我が軍の側面にいる兵を狙います。」


 では、待ち構えますか。




 敵の闇討ち勢を討ち取るべく足軽10名、高さん他旗本5名、護衛隊からお幸、楓、他10名を連れて獣道の周囲に隠れた。辺りは月明かりのみ。こりゃ敵も味方もわからん。


 小一時間待つと人の気配がした。獣道を歩く敵20名。隠れていた場所を通り過ぎたので、背後から一斉に斬りかかった。


 あっという間に敵は5名に、味方は5名の足軽が負傷したので下がらせた。敵将と思われる人は明らかに雰囲気が違う、強そうである。赤オーラが見える。


 護衛隊が苦無を投げたが、敵将が全て刀で弾いてしまった。


「ウッソー、そんな事できるの。漫画じゃないのに。そんじゃー拡散覇道砲だ、いけ!」


 相手は何事かと構える。何のことはない、正面からの飛び苦無に加え、隠れていた護衛隊が背後から飛び苦無を投げたのである。しかも俺の掛け声と同時に木に吊るした電球を付けて。急に明るくなって視界がぼやけた時に前後からくる飛び苦無。


 ゲームでいう初見殺しである。ちなみにネーミングセンスないのは許して。オタクなのだよ、所詮。


「勝ったな、フフ。」


 高さんなぜそれを言う、それはフラグだぞ。ダメ、それ、絶対。


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