第29話 川中島の結末続き
「明け方に戦闘は開始された。お屋形様は山にいる味方が駆けつけるまで防御に徹する様伝令を出した。ところが」
勝頼はここで言葉に詰まった。皆は一言も発せず勝頼が落ち着くのを待った。
「兄上、太郎義信が命に背き敵の誘いに乗り飛び出したそうな。兄上は敵に囲まれた。兄上を助けるために諸角豊後守が飛び出した。兄上は助かったが、諸角殿は討ち死にされた」
「あの諸角殿が。武勇で知られる諸角殿が」
長坂は言葉に詰まりながら呟いた。
「味方の陣は崩れた。上杉がそれを見逃す事なく武田陣に突っ込んだ。味方総崩れになるところを諏訪勢が諏訪太鼓を鳴らしながら参戦して敵を蹴散らしたそうだ」
「諏訪大明神のご加護だ、諏訪には神がいる」
元々は諏訪衆の格さん、玉さんが同時に言った。なぜハモる!そもそも戦場で太鼓鳴らすって何?太鼓鳴らすと強いの?そんなんで相手がビビるの?そもそも誰が鳴らしてんの?それで勝てるの?落ち着け、俺!話を続けないと。
「ただ、善戦虚しく典厩信繁様がお討ち死に、そして、」
「なんと、馬鹿な、そんな事がある訳がない。間違いじゃ間違いじゃ」
長坂が駄々っ子みたいになって続きが話せなくなった。仕方がないので、外に控えている楓にハーブ茶を用意させ、飲ませたら落ち着いた。ハーブって効くのね。
長坂が落ち着いたので勝頼は、コホンと言ってから、
「諏訪勢の活躍で味方は持ちこたえた。山にいた馬場美濃守殿、真田幸隆殿、お主の父上だな。山の軍が上杉の裏を突き、上杉軍が退散した。お味方の大勝利である」
言ってて虚しい大勝利。こう言わないといけないことくらいはわかってる。皆もわかって大勝利を喜んだ。
「馬場殿が太刀取り、小県の室賀殿が弓取りを任命されたそうだ」
勝鬨の儀式である。戦功高い者が行う事が慣例となっている。
「室賀殿が」
昌幸は自分の事のように喜んだ。室賀と真田は同じ小県の豪族であり、今は武田に仕えているが、以前は生き残りの為強い方につくやり方をしてきた仲間である。
武田軍として小県、いや信濃勢が認められた事を感じたのである。それがたとえ、父でなく、諏訪でなく室賀であっても。
室賀って聞いた事あると思ったらあれだよね。JHKのドラマ 真田◯の名セリフ
『黙れ、こ○っぱ』 のひとだよね。年齢的に親父さんかな?
さて、問題は兄上だ。
「さて、軍規違反の兄上だが、」
場が緊張した。誰もが死を予想して青くなった。
「お咎めなしのようだ。重臣の方々が父上の癇癪を収めたとの事」
場にホッとした空気が流れた。
「これで前談は終わりだ、これからが本題である」
え、何言ってんの?これより大事な話があるの?って皆んなで同じ顔するなってーの。
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