記憶喪失
僕は心乃と別れ、病院を後にした。
(心乃ちゃんが知って欲しいことって、何だろうな?)
そんなことを考えながら横断歩道を渡っていた。
赤信号を無視して猛スピードで突っ込んでくるトラックに気づけないほど僕は深く考えていた。ドンっと鈍い音がした時には、僕はトラックの前方へ大きく跳ね飛ばされていた。
それを見ていた人たちが救急車を呼び、トラックの運転手に近づこうとし、そして僕にも近づいてきた。
「きみ、大丈夫か?」
僕はその声で視界を取り戻した。身体中が悲鳴をあげて、僕が動こうとすることを制止していた。しかし、僕はなぜ身体中が痛いのか分からなかった。
「はい。大丈夫です……」
僕はそう言って、少し起き上がっていた身体は再び地面に倒れた。
トラックはすでにその場から逃走していた。僕は未だに状況が理解できていなかった。
救急車に乗せられた僕は病院へと運ばれることになった。
「君、だいぶひどいことをされたんだね。自分の名前分かる? 家はどこにあるの?」
救急車に乗っていた、若い女性が質問を投げかけた。その女性に似た印象を持った人を僕は最近身近に見ていた気がした。しかし、思い出すことが出来なかった。それどころか自分の名前も家も、何も思い出せなかった。
「名前……? あれっ、変だな。僕は誰ですか? 知りませんか?」
「君……記憶が……」
「どうもそうみたいですね。何も覚えてなくてすみません」
「いいんだよ、君のせいじゃないからね。そっか……」
女性の看護師は寂しそうな表情を僕に見せた。ただ、そんな表情でさえも、僕には初めてみた女性ではない感じがした。
病院へと着いた僕は、集中治療室に運ばれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます