第54話 リーダーの能力
「はあ……はあ……アンタらは救援部隊か? 助かる」
赤いバンダナをした剣士風の冒険者が肩を抑えながら俺たちに話しかけてきた。彼の体にはかなりの傷があり、この戦いの過酷さを物語っている。
「俺が来たからにはもう大丈夫だ。下がっていてくれ」
俺は冒険者の前に出た。しかし、冒険者は俺を制止しようとする。
「ま、待て。1人で戦うつもりか? 俺はまだ戦える。2人で連携して戦えば勝機は見えるはずだ」
「その傷で前線に出られると足手まといだ。大丈夫。俺は……」
こん棒を持ったバーバリアンが俺に向かって攻撃を仕掛けてくる。俺は一瞥すらせずに杖でそのバーバリアンを叩き潰した。
「この通り強い!」
「な……バーバリアンを杖で一撃で倒した? アンタは一体……」
「名乗るのは後だ。行くぞ! ウィーケスト!」
俺は弱体化魔法をバーバリアンの群れに向かって放った。俺の杖から飛ばされた波動が弱体化の効果を発揮する。Cランク相当のバッファーが扱える広範囲の弱体化魔法だ。かなりコスパの良い魔法で魔力が尽きかかっている現状では非常に助かる。
「でやぁ! はぁ!」
俺は肉弾戦でバーバリアンたちを駆逐していく。攻撃を避けて、その隙を杖で突く。複数の敵の動きを見極めながら立ち回る。攻撃を寸前のところで躱して杖で叩く。
くそ、キリがないな。やつらの動きは統率されている。だからこそ、必ずどこかにそれを統率しているバーバリアンがいるはずだ。リーダーを探して叩く。そうすればリーダーを失ったバーバリアンは統率が取れずに瓦解する。
「リオンさん! そこの大剣を持っているバーバリアン。そいつの動きがおかしいです!」
カインが俺の背後から指示を出す。俺より遠くの位置から見ていたお陰で全体が見えたのだろう。大剣を持っているバーバリアンに注視してみると確かにおかしい。他のやつらは攻撃的なのに対して、こいつだけは守備に徹している感じがする。
「く……あははははははは。すげえな。そこのガキ。よくぞ俺様の正体を見破った」
「バーバリアンがしゃべった!?」
バーバリアンが人語を話すなんて聞いたことがない。やつらはやつらで独自の言語を持っていて、コミュニケーションを取っているとの研究成果はあるが、その言語は単純で複雑なコミュニケーションは取れないとのことだった。それが複雑な人語を理解しているなんて。
「よお。また会ったな。湖での借りを返させてもらう」
大剣を持ったバーバリアンがそう言うと、バーバリアンたちが一斉に俺に襲い掛かって来た。俺を取り囲んで逃がさない。そんな動きだ。囲まれているせいで動きに制限がされてしまってはいるが。攻撃を躱せないことはない。杖で攻撃を受け流しつつ、俺は確実にバーバリアンたちを倒していく。
しかし、カインのお陰でリーダーを見つけることはできたけれど、そいつを叩く余裕がない。クソ、イザベラの治療で回復魔法を使いすぎたし、そこから急いで駆け付けたせいで魔力も体力も消耗して大技を放つことができない。大技さえ使えれば、バーバリアンの群れを一層しつつ、リーダーにもダメージを与えられると言うのに。
「ははは。ジリ貧だな! やれ! 俺の子分共!」
バーバリアンたちの攻撃が激しくなる。俺の動きを学習しているのか、攻撃が見切られてクリーンヒットを狙えなくなっている。攻撃が浅いとそれだけバーバリアンを倒す手数が増える。手数が増えた分だけ俺の体力はより消耗する。あのリーダーが言う通り、このままの戦いを続けていたらジリ貧……いずれ、負ける戦いだ。
取り囲まれている現状なら一発でも攻撃を食らえばアウト。攻撃で怯んだ隙に一斉に攻撃を叩きこまれてあっと言う間にやられてしまう。バーバリアンの大部分が俺の弱体化魔法を受けているとはいえ、数の暴力には流石に勝てない。
それを防ぐためには……統率しているリーダーを多少無理してでも倒すことだ。広範囲の魔法は魔力消費量が多くて無駄が多い。魔力が底をつきつつある現状では、それが使えない。しかし、一点突破型の魔法は命中精度が低い。外したら一巻の終わりだ。
でも、やるしかない。杖に魔力を集中。杖の先端。その一点に俺の魔力を集めろ。ちゃんと角度を狙いつけて……行くぞ!
「スピアレイ!」
俺の杖から金色に輝く光線が発射された。一直線に伸びるそれの威力はすさまじく、バーバリアンを縦一列に一掃する。もちろん真の狙いはリーダーだ。その車線上にいるバーバリアンには不運なことだったが、死んでもらうしかない。
「あが……バカな……」
リーダーのバーバリアンに命中した! やった。これでバーバリアン全体の統率力が失われるはず。そうすれば、この消耗しきった体でも鎮圧は可能だ。
「おっと違った。バカめの間違いか」
俺は背後から聞こえてくる声にぞくっとした。そして、俺は後頭部に鈍い痛みを覚えてその場に倒れた。
「リオンさん!」
カインの声が聞こえる。俺は何をされた……恐る恐る振り返るとそこにはこん棒を持ったバーバリアンが俺を見下してニタァと気色の悪い笑みを浮かべていた。このバーバリアンがさっきの声の主か? ってことはこいつも喋れて知能があるバーバリアンってことか。
俺は勝手に統率が取れるリーダータイプが1体だと思い込んでいた。それが実は2体いたのか? くそ、そんな単純なトリックに先入観で引っ掛かってしまった。
「さっきの魔法で俺を倒せたと思ったのか? 甘いんだよ。俺は死なない」
いや、違う。この口ぶりから察するに、このバーバリアンは俺が倒したバーバリアンと同一個体ってことか? でも、俺が倒したバーバリアンは既に息絶えている。体が違うし別個体のはずだ。
「やっちまえ!」
バーバリアンが俺に一斉に攻撃を仕掛けてくる。終わった……俺の冒険もここまでか。
「でいや!」
「ぐべらぁあ!」
カインの掛け声と共にバーバリアンたちが一斉に薙ぎ払われて行った。カインのメイスはチェーンが仕込んであった遠距離武器としても使える。その特性のお陰で俺は助けられたのか?
「リオンさん!」
俺が負ったダメージが引いていくのを感じた。カインが回復魔法を俺にかけてくれたんだろう。
「んな……」
リーダーのバーバリアンは仲間たちが一層されてからの俺の復活に驚いている。一気の形勢が逆転したのだ。
「ふう。助かったぞカイン。そのメイス便利だな。遠距離攻撃にも範囲攻撃にも使えるからな。俺の武器は魔力増強が特性だから、魔力が尽きてしまったら何にもできない。今回の戦いで自分の弱みをハッキリと認識させられたよ」
「いえ。リオンさんの弱体化魔法のお陰ですよ。流石に私の得物と筋力だとあそこまで綺麗にバーバリアンを倒せません」
最初にかけておいた弱体化魔法が功を奏したか。あれがなかったらと思うと……ぞっとする。
「く、くそ……バーバリアンが全滅? ち、近くにモンスターは……?」
「残りはお前だけだ! スピアレイ!」
俺は杖から再び光線を放ち、リーダーのバーバリアンの体を貫いた。バーバリアンは血を吐き、その場に倒れて絶命した。
今ので完全に魔力が尽きた俺はその場で座り込んでしまった。もう簡単な回復魔法1つ使う余裕すらない。なんとか戦いには勝ったようだ。カインの援護がなければ負けていた。かなりの辛勝だな。
「あ、あはは。すげえ! すげえやアンタ!」
赤いバンダナの冒険者がニカっと笑って俺に近づいてくる。座り込んでいた俺に肩を貸してくれた。彼のお陰で立ち上がれた俺はカインのところに歩いていく。
「リオンさん! やりましたね!」
「いや、まだ終わってない。むしろ、これからが本当の戦いだ。ヒーラーにとってのな」
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