第29話 決着! モノフォビア・コア
「アベル! 俺の杖にブラックハウンドを付与しろ!」
「はい!」
俺の指示に従い、アベルがブラックハウンドを唱える。すると俺の杖が黒く輝きだした。この状態で攻撃した者に魔法阻害を付与する武器と化した杖。これでモノフォビアを殴れば一撃で倒せる!
「でいや!」
俺は、杖でモノフォビアの大群を次々と殴っていく。魔法阻害の効果が効いているのか殴られたモノフォビアは消滅していく。やはり、俺の推測は正しかった。こいつらは、魔法で作られた魔法生物。魔法阻害の攻撃を受けたら、体を維持できないのだ。
タネが分かれば、こいつらは雑魚だ。Dランク程度の冒険者なら、モノフォビアの攻撃を避けつつ攻撃を当てるは可能だろう。だが、数が多い。四方八方囲まれている状態では、分が悪すぎる。ここは一点突破を狙い、そこから脱出するしかない。
「アベル! マリアンヌ! 俺の後についてこい!」
俺は、走り出して、立ちはだかるモノフォビアたちを次々になぎ倒していく。そして道を作り、前へ前へと進んでいく。俺の後にアベルとマリアンヌも付いてきて、なんとかモノフォビアからの包囲網から抜け出すことができた。
「リオンさん。なんとか囲まれている状況から抜け出せましたがどうしましょう」
「モノフォビアは煙のようなものだ。煙を断つには、元となる火を消せばいい」
「さっすがマイダーリン。頭いい」
だが、問題は元となる火を見つける方法だ。これだけ大量のモノフォビアを瞬時に作り出したんだ。この近くに魔力の供給源があるはず。そいつをどうにかして見つけ出さなければならない。
「アベル。気配を探れるか?」
モンスターの気配を探り、仲間に危機を知らせたり、安全なルートを構築する。それがレンジャーの役割の1つである。俺にはレンジャーの才はなかったから、この能力に欠けている。だから、ここはアベルに頼る他ない。
「ちょっと待ってください……
アベルが自身の体から四方八方に線状の魔力を飛ばした。この魔力はモンスター以外の物質を貫通する。そして、この線状の魔力に触れたモンスターの位置を相対的に知ることができる。レベルが高いレンジャーなら、モンスターの形状、大きさ、筋肉量、魔力量なども知ることができる。要は強敵だけを狙って避けたり、探しているモンスターを見つけ出すこともできる。ただし、欠点としてはこれも魔力であるため、触れたモンスター側にも何者かが飛ばした魔力に触れたという感覚が残る。要は、モンスター側にも近くに人間がいると察知されてしまうのだ。
アベルは目を瞑って集中している。この魔法を使っている最中はアベルは無防備な状態だ。だから、俺が守ってやらなければならない。
「いました! ここから8時の方角。およそ800M先に見知らぬ形状のモンスター。恐らく新種のモンスター。こいつらを操っている元凶だと思われます」
「ナイス。よくやったアベル」
「そこに本当の元凶がいるんだね……」
マリアンヌは拳を鳴らして、すぐさま、アベルが指し示した方向へとダッシュした。攻撃の出も速ければ足も速いな。
「俺たちもマリアンヌの後を追うぞ」
「はい。でも、気を付けて下さい。相手も僕たちの存在に気づいているはずですから」
「ああ。それは元より承知の上だ」
でなければ、こんなに的確に俺たちを囲えないからな。
◇
「貴様が! あたいの両親の仇か!」
前方にいるマリアンヌが叫んだ。視線の先にいたのは、クマのぬいぐるみだった。クマのぬいぐるみは直立した状態で動かない。
「あれが、モノフォビアの本体……?」
クマのぬいぐるみの腹がビリっと避けて中から、悪魔のような形をした影が出てきた。
「ケケケ。かかったな!」
悪魔がそう嘲ると俺たちの周囲はまたもやモノフォビアに囲まれていた。俺たちがここに向かってくることを察知して、罠を張っていたというわけか。
「俺様の名前はモノフォビア・コア。無数のモノフォビアを操る核さ。あんたらがご推察のように、俺様を破壊したら全てのモノフォビアは機能を停止する」
モノフォビア・コアと名乗ったモンスターはご丁寧に自分の弱点を教えてくれた。こいつを倒せば全てが終わる。
「あんたバカだね。あたいたちにそんな情報をバラすなんて。死ね!」
マリアンヌはモノフォビア・コアと距離を詰めて殴りかかった。
「バカは貴様さ! 俺様が何の策もなしに自分の弱点をべらべらと喋ると思うか? マヌケめ! それをさせないことができるから余裕ぶってんだよ!」
モノフォビア・コアがいた場所。そこに巨大なモノフォビアが出現した。
「な!」
不意をつかれたマリアンヌ。そして、モノフォビアがマリアンヌを薙ぎ払った。
「マリアンヌ!」
しまった。俺も咄嗟のことで防御魔法を展開できなかった。くそ、またもやマリアンヌを傷つけてしまった。これは俺のミスだ。
「あいだ……」
マリアンヌの腕からツーと血が垂れる。咄嗟に腕をガードしたお陰で致命傷は避けられたようだ。
「てめえ!」
俺は杖でマリアンヌを薙ぎ払ったモノフォビアを杖で殴った。ブラックハウンドが付与されている杖での一撃だったので、モノフォビアを難なく倒すことができた。
「ケヒヒ。無駄さね。俺様の能力を教えてやろう。教えた所で貴様たちにはどうすることもできないのだからな! 俺様の能力1つ目。それは貴様らもご存知。モノフォビアを作り出す能力。俺様の能力2つ目。自身が作り出したモノフォビアと自分の位置を変える能力。3つ目。1つ目と2つ目の能力を自身の魔力を使用しないで行える」
魔力を使用しないで……魔法生物を作り出せる? バカな。そんなことできるはずがない。デタラメに決まっている。だが、もしそれが本当だとしたら、こいつは再現なくモノフォビアの生成と位置変えを行うことができる……なるほどブラフだな。それができるなら、本体を晒すなんてことはしないはずだ。だって、無制限に瞬間移動ができることと同義なのだから。つまり、それができないのは何らかの制約があるということだ。
「俺様はここだ」
「うわ!」
アベルの眼前にモノフォビア・コアが突如現れた。まずい。最も戦闘能力がないアベルが狙われたのか!
「サイズン!」
俺はモノフォビア・コアは魔力で作った檻に閉じ込めた。この状態でも脱出できるかどうか実験だ。
「無駄だ! 俺様は瞬間移動できると言っただろ!」
しかし、モノフォビア・コアは檻から出ることはなかった。
「あ、あれ? おかしいな。どうして抜け出せないんだ」
「どうやら。実験は成功したようだな」
「じ、実験だと……?」
檻の中のモノフォビア・コアは冷や汗をかいている。
「忘れたのか? 俺の杖にはブラックハウンドが付与されている。俺はその杖で魔力を強化し、魔法を撃ちだした。つまり、俺が放つ魔法にもブラックハウンドの効果が乗るということだ。俺のサイズンは閉じ込めた者の魔法を阻害する魔法に変わったんだよ」
「な、なんだって!」
本当に魔力を必要としないのなら、魔法を阻害したところで無意味だ。だが、魔力をほんのひとかけらでも必要とするのなら、阻害の対象となる。つまり、やはりブラフということだ。とはいえ、これだけの性能の魔法生物を大量に作り出せて瞬間移動という高等魔法もやってのける。膨大な魔力を持っているか、なにかしらの方法で使用魔力を激減させているのだろう。まあ、今となってはどうでもいいことだが。
「マイダーリン。あたいの止めを刺させてくれないか?」
マリアンヌが立ち上がり、モノフォビア・コアを睨みつけた。
「ああ。だが、檻の中に入る時は気を付けろよ。マリアンヌ。お前も魔力を使えなくなるからな」
「構わない。あたいは打撃が得意だからね」
マリアンヌが拳をポキポキと鳴らしながら、モノフォビア・コアに接近する。
「ま、待て。や、やめろ! やめてくれ!」
「お前が今まで殺して来た人間の痛みを思い知れ!」
マリアンヌは檻の中に入り、モノフォビア・コアを殴る。蹴る。殴る。蹴る。最早原型がなくなるまで、ボコボコにするのであった。
そして、モノフォビア・コアが絶命したせいか、大量のモノフォビアもこの世から綺麗さっぱりと消え去ってしまった。
「父さま……母さま……あたいはやったよ」
これで終わったようだな。
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