第16話 Cランク拳闘士マリアンヌ
ガイノフォビアについての色々の事情聴取を受けた俺は、やっとあのファンキージジイから解放された。
俺はすぐに待っていてくれたアベルの元に歩み寄った。
「あ、リオンさん。おかえりなさい」
「ああ。ただいま。んじゃ、飯でも食いながら今後のことについて話すか」
「はい!」
こうして、俺たちはギルドを出て、大衆食堂に向かった。昼時を過ぎていたので客はほとんどいなかった。
「注文は?」
無愛想なハゲた老け顔の店主が俺らに注文を訊いてきた。こんなナリだが、実は俺より年下だったりする。
「俺はエビピラフでいいや」
「僕はキノコのピザが食べたいです」
2人の注文を承った店主が店の奥に向かった。俺らは料理が来るまで会話をすることにした。
「リオンさん。新種のモンスターの登録どうでしたか?」
「ああ。とっても楽しかったぞ。とっても楽しいジジイが一々ギャグを挟んで来て妨害……じゃなかった、場を和ませてくれるからな。アベルにも経験して欲しいくらいだ」
「ははは。遠慮しておきます」
俺の棒読みの発言にアベルは危機感を感じ取ったのだろう。
「なあ、アベル。Cランク冒険者のマリアンヌって知ってるか?」
「はい。ブルムの街のギルドに在籍している数少ないCランク冒険者ですね。この街の最高ランクなんで有名です」
ブルムの街に在籍している冒険者で最高位はCだ。それなりに、発展しているこの街ですらこれだ。BやAランク冒険者は割と幻の存在だったりする。と言っても俺も昔はBまで上り詰めたんだけど。
「そいつと一緒に組んで依頼する仕事を紹介された」
「ふぇ!?」
アベルは変な声を出して驚いている。なんだその声は。日常生活ではまず出ない声だぞ。
「え? う、嘘ですよね? あのマリアンヌさんですよ。蒼炎の闘士と呼ばれたあのマリアンヌさんですよ?」
「ああ。その、そうなんちゃらのマリアンヌだ。彼女と一緒にあるモンスターを討伐しにいく」
「そのモンスターって?」
「モノフォビア……孤独恐怖症を意味するモンスターだ」
アベルの顔色が変わった。
「それって……あのガイノフォビアと似たようなモンスターなんですか?」
「さあ、それは知らない。ガイノフォビアもモノフォビアも新種のモンスターだ。どれだけ強いのか未知数。現にCランク冒険者のマリアンヌですら顔に傷を負わされている。危険な依頼になるかもしれない」
アベルが生唾をごくりと飲み込んだ。
「でも、リオンさんはガイノフォビアを倒したんですよね? だったら、モノフォビアも倒せると思いますよ」
「だといいんだけどな。ただ、俺が気になるのは1つあった。ガイノフォビアは人から精を吸っていた。精を吸収すればするほど強くなるんだとしたら、ガイノフォビアはまだまだ強くなれた逸材かもしれない」
「それって……」
アベルの顔が青ざめる。恐ろしい想像でもしているのだろうか。
「俺がガイノフォビアに勝てたのは幸運かもしれないってことだ。やつが力を付ける前に遭遇して倒せてな。モノフォビアも同じタイプのモンスターなら、俺たちがこうしている間にも力を付けているのかもしれない。まあ、仮定の話だ」
そんな話をしていると料理が提供された。
「さあ、飯を食おうぜ。腹減って仕方ないんだ」
「ですね」
俺たちはそれぞれ注文した料理を口にした。やはり、この店の料理は美味い。店主はハゲだけど。味付けもしっかりしているし、盛り付けも綺麗だ。店主は老けてるけど。
料理を完食した俺たちは、料金を支払い店を後にした。
「で、アベル。どうする? マリアンヌの依頼受けるか? 本来ならCランク冒険者相当じゃないと紹介すらされない高難易度の依頼だ」
「はい。リオンさんの実力なら必ず達成できると思います。受けるべきです」
「おいおい。お前も一緒に行くんだぞ。しっかりサポートしてくれないと困るぞ」
「へへへ。そうでした」
アベルは照れ臭そうに頭を掻いた。
「んじゃ決まりだな。早速、依頼を引き受けよう」
俺たちは再びギルドに足を踏み入れた。そして、受付に行き、ジジイに紹介されていた依頼を受けることにした。俺が所定の手続きを済ませると、ギルドの奥から、1人の女が出てきた。
赤いボブカット。青い瞳。頬には何者かに引っかかれた後がある。半袖とホットパンツという軽装。腕と脚は筋肉で引き締まっていてかなり健康的な女だ。ただし、胸の脂肪は筋肉に吸われたのか若干控えめではある。その表情は憂いを帯びていてとてもクールに感じる。
「やっほー! あたいはマリアンヌ。よろしくね。あたいのジ様から既に話は聞いているよん」
キラっという効果音がしそうなくらい軽快にピースを決めたこの女。やはり、あのジジイの孫か。見た目はクール系なのに、中身がファンキーじゃないか。
「よ、よろしくお願いします」
アベルも若干引いてるじゃねえか。
「リオンだ。よろしく頼む」
「ふーん。キミがリオンさんか。へー。気に入った! 私の婿になる権利をやろう! はははは!」
どこまでジジイ似なんだよこいつ。
「残念だが、俺はまだ身を固めるつもりはない」
「うーん。そういうクールなところも素敵。ますます気に入ったよ。ねえ、結婚は無理ならワンナイトラブしない?」
「するわけねえだろ」
頭が痛くなってきた。ジジイの女バージョンじゃねえか。俺、こういう性格の女嫌いなんだよ。
「ねえねえ。リオンさんって強いんでしょ? ガイノフォビアを倒したくらいには」
「ああ。とは言ってもガイノフォビアがどれくらい強いかなんて知らないだろ? 新種のモンスターなんだから」
「あっはっは。リオンさん。新種だろうが、ガイノフォビアが強いってことくらいわかるよ。だって――」
急に空気が変わった。陽気だったマリアンヌの声色が真剣なものに変わる。
「あのモノフォビアと同類のモンスターなんだもの」
俺は一瞬寒気がした。なんだこの女は。陽気な性格の中に確かな冷たさを感じる。
「あたいはモノフォビアを許さない。あたいのト様とカ様を殺したアイツを……」
シリアスな空気が流れる。この女ただ者じゃないな。場の空気を完全に支配してやがる。この女の感情1つで、場の空気がファンキーにもシリアルにも成りうる。
「モノフォビアの情報についてはどこまでわかってる?」
「あたいとト様とカ様がモノフォビアと戦闘した時のデータを解析した結果。モノフォビアはBランク相当だった。街1つ崩壊させるレベルの実力だ。ハッキリ言って、あたい1人じゃ到底敵わないね」
「だから仲間を集めているってわけか」
「Bランク相当のモンスターと戦いたい命知らずのやつなんか、中々いやしないっての。でも、フウウウ!!」
急にマリアンヌが陽気になった。
「リオンさんの戦績見させてもらったよ。あのBランクのグリフォンをソロで勝ったんだってね。もう、本当にすごいよ! そんだけ強いなら、きっとモノフォビアにも勝てるよ」
「ああ。そうだな」
「ちょっと、ちょっと。なんでそんなにクールなの? あたいを惚れさせようとしているの? あたいがクールな男子に弱いの知っててそんな態度を取るの?」
うぜえ。
「なあ。モノフォビアの出現場所とかについての心当たりはないのか?」
「んー。あたいもモノフォビアについての情報は収集しているんだけど、中々尻尾を掴めなくてね。国中の情報を搔き集めても全然さ。もうお手上げ」
「もしかして、この国にはもういないんじゃないですか?」
アベルがふとそんなことを口にした。すると、マリアンヌがハッとした表情を見せる。
「それだ! そうだよ! きっとそれだよ! もう、アベル君ったら賢すぎ! もうそうとしか思えない」
なんか勝手に決めつけているぞこいつ。
「い、いえ。僕はただ可能性の1つを示しただけで」
「というわけで、いざ国外追跡! いくぞー!」
「国外ってどこに行くんだよ。アテがないのに国外に出て意味あるのか?」
「あ、そうだね。言われて見れば……うーん。どこかに国外の情報に強い人いないかな」
国外の情報に強い人物か……ぱっと思いついたのはアイツだな。
「俺の知り合いにアレサという商人がいる。彼女は独自の情報網を持っているはずだ。力になってくれるかもしれん」
「お、それいいね。採用!」
というわけで、俺たちの次の目標はアレサに会うことになった。
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