第14話 Eランク昇格
「じゃあ。お兄さん。アベル君。私はそろそろ行くね」
「ん。ああ。そうだな。達者で暮らせよ」
「お兄さんもね」
拠点であるブルムの街に戻ってきた俺たち。アレサはもう用事が済んだので、俺たちと別れて、自分の仕事に戻った。
アレサと別れた俺たちは、早速、冒険者ギルドに依頼達成の旨を告げることにした。
「商人アレサの護衛任務が完了した」
俺はギルドが渡して来た用紙に必要事項を記入する。記入漏れや記入ミスが少しでもあれば、最初からやり直しとかいうクソ面倒な事務手続きをする。幸い、今回は再提出を言い渡されることなく、無事に処理が終わった。
「はい。それでは、腕輪のデータを回収しますね」
そう言うとギルドの職人が俺たちの腕輪からデータを回収した。今回の冒険の戦歴はこれで確認することができる。今回の冒険では俺は珍しく回復魔法を多用した。だが、それは仲間に対してではない。ヒーラーの魔力は仲間のために。それがヒーラーの鉄則だ。いくら無関係の人間を回復させたところで、俺の評価には繋がらない。1度だけ自分に回復魔法を使ったが、治さなくても特に支障がない掠り傷を治しても評価はなきに等しい。
「はい。データを更新しました。おめでとうございます。アベル様。あなたのレンジャーランクがFからEに昇格しました」
「へ?」
アベルは驚いている。俺は特に驚いてはいない。アベルの実力ならEランク昇格は時間の問題だと思っていたからだ。まあ、俺と組まなければもっと早く上がっていただろうけど。
「ほ、本当ですか?」
「ええ。街の住人と交流しての情報収集。依頼人の介抱。それらの実績が評価点に繋がり、Eランクに昇格しました。おめでとうございます」
アベルはしまりのない顔をしている。それほどまでに嬉しいのだろうか。
「あ、そうだ。リオンさんはどうですか? リオンさんはモンスターをキッチリと倒したんですよ」
「残念ながら、モンスターをいくら倒そうとヒーラーの評価には繋がりません。1度自分を回復させたようですが、その傷は自ら負ったもの。パーティの生命線であるヒーラーが自傷行為をするなどいい立ち回りと言えませんね。よって、評価はFのままです」
職員は淡々と説明する。まあ、ギルドも杓子定規的なお役所仕事だ。どれだけ貢献したかではなく、どれだけロールに徹することができたかで判断する組織。そこに一切の感情は介入しない。
「そ、そんな」
なぜか、俺以上にアベルがショックを受けている。
「ところで、リオン様。あなた、未知なるモンスターとの戦闘記録が残ってますね。このモンスターについてお聞かせ願えますか」
「あ、やべ」
そうだ。俺たちの戦歴は全部腕輪で管理されているんだった。新種のモンスターの登録は面倒な作業だからやりたくなかった。こんなことなら、腕輪をぶっ壊して、データを抜くんだった。戦闘で腕輪が壊れたと言えば、新しい腕輪と交換してくれるからな。ただし、ギルドが管轄していない分の収集していたデータは全て消える。だから、普通のランクを気にしている冒険者は、腕輪は壊さないように細心の注意を払うのだ。
「モンスターの専門家をお呼びいたしますので、少々お待ちください」
少々お待ちください。これが少々だった試しがない。恐らく、1時間程度待たされるだろう。そして、新種のモンスターの登録。これも2時間くらい時間を取られる。最悪だ。この報告が終わったら、アベルと昼飯食いに行こうと思っていたのに。終わるころには、もう昼食時が過ぎてるぞ。
「すまん。アベル。先に飯食いに行ってくれ」
流石にアベルまで巻き込むわけにはいかない。腹を空かせるのは俺だけでいい。
「僕も一緒に待ちますよ」
「下手したら3時間以上かかるぞ」
「でも、僕もリオンさんと一緒にお昼食べたいですし」
全く。この子はどんだけ俺のことが大好きなんですかねえ。でも、先に飯食っていいって言ったんだから、その好意は素直に受け取って欲しいもんですけどねえ。
「なら、勝手にしてくれ」
「ええ。勝手にします」
そんなわけで、俺たちはギルドの1階にあるカフェで待つことにした。このカフェ飲み物はあるけれど、食べ物はないんだよな。軽食で良いから出して欲しいな。
「コーヒーでも飲みながら待ちますか」
「コーヒーじゃ腹は膨れねえんだよ」
空腹を誤魔化すにしても、すきっ腹に水分を入れると却って辛くなるのは俺だけだろうか。そんなことを考えていると、また見覚えのある4人組がやってきた。アレフレドとリカとその他新参2名。
「リオンさん。アベル。最近、ギルドに見ないから冒険者引退したのかと思ったけど、まだいたんですね」
アレフレドがこちらにやってきた。うぜえ。なんで一々絡んでくるんだよ。
「僕たちは護衛依頼でちょいと遠出をしていただけだ! ちゃんと冒険者の仕事をしている!」
「へえ。護衛依頼ってどこに行ってたんだよ」
4人組が下したようにニヤニヤと笑いながら、こちらを見ている。
「ルスコ村に行ってきたんだ」
「ぶふぉ。お、おま。よりによって、ルスコ村とか。大方、スケベなオッサンに依頼されたんだろ」
アレフレドが1人で勝手に笑っている。一方で、リカとその他2名はピンと来ていないようだ。
「ねえ、アレフレド? なにがおかしいの?」
「え? ああ、うん。リカも大人になればわかるさ」
まあ、あそこは女には馴染みが浅い村だからな。女がわざわざ行くような村じゃないし、どういう村かは知らなくても無理はないか。
「おじさん。そろそろEランクに上がったかしら?」
リカは机に手をドンと置いて、俺たちを威圧する。なんだこの行儀の悪い女は。この机はギルドのものだぞ。冒険者たちの公共物なんだぞ。大切に扱え。
「わかるだろ? 俺がEランクに上がる時は、俺がしくった時だけだ」
Eランク以上になるのは仲間を傷つけた証。そんなものなんの勲章にもならない。ヒーラーのロールを選択する前の俺もこの真理に気づけていたのなら……今よりももっと違う道もあっただろうな。
「ぷ、ふふふ。それじゃあ、仕事もなにもないんじゃない? ねえ、おじさん。私の下僕になるって言うんだったら、Eランクの仕事を回してあげてもいいよ」
「なんだ? 俺を下請けにするつもりか?」
「だって、おじさんじゃEランクの仕事ないでしょ? 報酬額の10%のおじさんたちにあげるからさ。ほら、おじさん達も仕事ないよりはマシでしょ?」
10%とか流石にボッタクリすぎだろ。まあ、高ランクの冒険者が依頼を受けて、低ランクの冒険者を下請けに使うなんて話は珍しい話ではない。尤も下請け側にもそれ相応の信頼は求められる。依頼失敗時の責任は依頼を受けた高ランク側が負うことになるからな。全ては任せた者の責任だ。
「残念だったね。リカ。僕はEランクに上がったんだ。これからは、僕がEランクの依頼を取ってくるから、キミたちの助けはいらない」
「うぐ……そ、そう。アベルの癖に、私たちと同じEランクになるなんて」
アベルまでFランクだと思っていたリカは悔しそうに下唇を噛んだ。
「ふ、ふん。見てなさい。ジジイ。アベル。私たちは今にDランクに上がって見せるんだから。あんたたちは精々Eランクでイキってなさい」
おいおい。Eランクで最初にイキり出したのはお前たちだろうが。
「さ、アレフレド。ローラ。セイラ。行くよ」
それだけ、リカが俺たちの席から離れていった。アレフレドと新入りの女2人もその後についていく形になった。
「なんなんでしょうね。あのパーティは。どうして僕たちを目の仇にするんでしょうか」
「さあな。俺に
まあ、あんなやつらでも話し相手になってくれて、少しは助かった。これでちょっとは時間を潰せたな。退屈しのぎには丁度良かった。
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