ショッピング

 買い物が楽しいのは何故だろうか。季節が目まぐるしく変わるのが美しいように、商品を選ぶことはきっと、目が楽しんでいるのだろう。その中でも格別楽しいのは、服を選ぶときである。しかしながら、服というのはなかなかどうして高値だったりする。特に、最近では継ぎ目のないオーダーメイドが流行っているから、そこそこの値段がかかるのだ。

 今どれだけのお金があっただろうかと気になった二ノ宮サヨリは、ドローンを呼んだ。

「残高を教えて」

 と言うと、虫はすぐさま医療用回路タトゥーを走る小さな虫ナノマシンと同期して、仮想銀行サイフに入っているお金を確認してくれる。虫は腕に止まり、皮膚に向けて光を投射する。数字が刻まれて、二着ほど買う余裕があるのがわかった。

 店内に入ると虫が一匹側についた。

「いらっしゃいませ」と、店員虫が電子的に喋る。

「カタログを見せて」一ノ瀬エマが言った。

 二匹の虫が光を投射し合う。と、そこに立体カタログが表示された。光の中に指を差してカテゴリを選んでいく。

「試着をお願い」

 天井に設けられた照射機プロジェクターから、一ノ瀬の身体に光が当てられた。それは白いワンピース。試着と採寸を兼ねているために、カタログには自動的に丁度良いサイズがお勧めされるのだ。

「どう?」一ノ瀬が二ノ宮に聞く。

「良いんじゃない? ……季節外れだけど」

 二ノ宮はカタログから履歴を開いて、前に買ったシャツとジーンズを買い揃える。

「また買うの?」

「古くなったから」

「せっかくなんだから、もっと違うの買えば良いのに」一ノ瀬はカタログからずらずらと服を閲覧し、「これとかどう?」

 投射されたのは黄色のジャケットコート。

「様になってるね。流石は男前イケメン

「茶化さないで」二ノ宮は一ノ瀬を小突いた。「私は新しいものより慣れたものの方が良いの」

「中にナノマシンを入れてる人が言う? それ……」

 二ノ宮はちらりと一ノ瀬を横目に、

「これはもう四年前の技術だからいーの」

「基準がわからないなあ」一ノ瀬は笑い、「石橋叩いて渡るタイプ? それとも数年遅れで流行に乗っかるミーハー?」

「鉄橋を堂々と渡るタイプ」

「それ、遠回しに石橋を避けてるって言ってない?」

「リスク回避は賢明だと思うけど」

「単なるタスクにリスクを見出してるだけでしょう」

 購入した服が紙袋に入れられた状態で運ばれてきた。「二ノ宮様」と虫が話し、紙袋を受け取った時点で支払いは終わる。

 一ノ瀬は紙袋からワンピースを手にして、

「お洒落は我慢リスクよ」

お洒落それは人それぞれでしょう」二ノ宮は鼻息を漏らした。

「それはそうね」

 一ノ瀬は頷いて、ワンピースを仕舞った。

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