28冊目~特殊な解呪方法~

 


「あ、でも可笑しいですよ。それ」


「可笑しい……とは?」


「だって俺、見せてもらいましたよ?貴女が呪書を解呪する、その瞬間を」




 脳裏に蘇る。






 文字の上に置かれていた指を中心に起こった、波紋。


 第一関節の半分まで本の中に沈み込んだ指。


 そしてその指に絡みつくように浮かびあがって消えた、気味の悪い黒い靄。








「……ああ、そういう」




 フレドリックの言葉にアイリスはわずかに目を伏せる。


 次に開かれた菖蒲アイリスの眼には何も宿らない……宿らせないようにしているようで。




「解呪を見たとは、文官の方が来られた日のことですね」


「!そうです、が…」


「確かにあの時の方法は、先ほど話した一般的な解呪とは違います」


「一般的な方法では…ない?」




「ええ、あれは」


 アイリスがスッと両の手を広げる。


 さらり、動作に合わせて、手と袖口の白が静かに揺れる。






「あの方法は、私だけの特殊な解呪方法なんですよ」






「特殊な…解呪方法…」


 彼女の言葉がポツリとフレドリックの口をついて出る。




「こちらに関してはあまり詳しいことは言えないのですけれど…そうですね」


 口元に手を当てて、彼女は少し考えるようにしばし沈黙し、顔を上げた。






「私は、呪読師の中でも少し特殊な体質を持っているのです。あれは、その体質を利用した呪書の解呪方法なんです」






「体質……それって」


「この先は」




 フレドリックが目を丸くし、口を開こうとした、その時。


 アイリスのほっそりとした人差し指が彼女の口元に当たられる。








「私の口からは語れません。それが私に課されたこの部屋の、この書庫と呪読師の規則なので」










 ###






「本当にこれでよいのですね?」


「ええ、もちろんですとも。呪読師に誰より詳しい一族、クローズ家の現当主たる、この私が言うのです。間違いはありますまい」




 王宮内にある、とある部屋で人目を忍ぶように低められた男の声が二つ発せられる。




「呪読師を追い詰めることでその呪いは濃く強くなると。わが父、前当主から代々されると伝えられると教えられたことですよ。使とも」


「なるほど、にしても使、これまた……」


 会話の合間。


 こくり、グラスが傾けられ、中に入ったワインレッドが怪しげに揺れる。




「それには私どものです。そう簡単には壊れませんよ。それは貴方もご存知でしょう……ロジャーどの」






 二マリとメガネの男が口元に弧を描く。


 騎士団の制服を着た男もくつくつとわらう。






 そして彼らは口をそろえる。




「「我らが行いに栄光を」」


 

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