押し入れ強盗の冒険
@chased_dogs
押し入れ強盗と双子の家
あるところに、白い壁に赤い屋根をした家が建っていました。
そこに、男の子が二人住んでいました。
男の子たちの名前は、トーマとマート。双子の兄弟です。
トーマとマートは、何をするにもいつも一緒でした。
二人で朝同じ時間に起きて、顔を洗い、朝ごはんを作って食べて、お皿を洗って、服を着替えると、二人揃ってお出かけをしていました。
それから家に帰ってきて、夕飯を食べて、お皿を洗って、お風呂に入って、歯を磨いて、ベッドの中で楽しい本を読みながら、同じ時間にすっかり眠っていました。
ところがある日のこと、トーマが目を覚ますと、マートはもういなくなっていました。
珍しいことがあるものだとトーマは思いましたけれど、いつものように支度を始めました。
顔を洗って、朝ごはんを食べて、お皿を洗ってから、服を着替えます。朝ごはんはマートが作ってくれていました。
テーブルの上に、置き手紙がありました。手紙には、
『すぐ戻る
マート』
と書かれていました。すぐ戻るなら安心だと思い、トーマは自分も一人でお出かけをしようと思いました。
トーマはいつも、押し入れの中に自分の大事な物をしまっています。
特に大事なものは、お出かけするときにいつも使っている、かばんでした。かばんがなければ、トーマはお出かけができないと思っていました。
それで、いつものように押し入れにあるかばんを取りに行きました。
トーマは目を見開きました。
何ということでしょう、不思議なことに、トーマの押し入れがあるはずの場所に、押し入れがなくなっていたのです。
戸があるべき場所はのっぺりした白い壁になっていました。
トーマは驚きのあまり、家中を歩き回りました。
どうしてこんなことになってしまったんだろう? どうしてこんなことになってしまったんだろう?
トーマは一所懸命に考えましたけども、しかし考えても考えても、何も分かりませんでした。
トーマが悲しい思いをしているうちに、マートが家に帰ってきました。
トーマは帰ってきたマートに今起こったことを話しました。
「お出かけしようとして、支度して、それから押し入れのかばんを取ろうとしたら、押し入れがなくなってたんだ!」
マートは不思議に思いました。何故って押し入れが急になくなるとは思えなかったからです。それで、かばんがなくなったのだと思いました。
「どこか別のところに放っておいたりしてないかい?」
「そんなことないよ、押し入れは持ってかないよ! 押し入れがなくなっちゃったんだよ! 家中探して、どこにもないんだよ!」
トーマはマートに分かってもらえるように説明しました。トーマに手を引かれて、マートはトーマの押し入れのある部屋へ行きました。
そこには確かにあるはずの押し入れがなくなっていて、白い壁だけがありました。
白い壁だけ……? トーマは気づいていませんでしたけども、マートは薄黄緑色の紙切れのようなものが、壁の隅に張り付いているのに気が付きました。
それは手紙でした。手紙にはこう書かれています:
押し入れは戴きました。
返して欲しければ、
この手紙の返事を書いて下さい。
押し入れ強盗より
「大変だ。押し入れを盗まれた!」
マートは叫びました。二人は手紙をじっと見つめます。
そして、押し入れ強盗の手紙に返事を書きました。
押し入れには大切なものがたくさん入っていること。
お出かけに使うかばんがその中にあること。
かばんがなければお出かけができないこと。
返して欲しい理由を書いた手紙をトーマが書き、その手紙をマートがポストに入れて送りました。
トーマとマートが手紙を送った後、二人は押し入れが戻ってくるか不安でしたが、眠さに負けてウトウトしていると、いつの間にか眠ってしまいました。
次の日、いつもより早くトーマは目を覚ましました。
トーマはいつものように、顔を洗って、朝ごはんを作って食べて、皿を洗って、服を着替えました。
それから押し入れのある部屋に行くと、すぐにベッドで横になっているマートのところへ戻りました。
「押し入れが元に戻っているよ! 押し入れが返ってきたよ!」
マートはトーマに手を引かれて、眠い頭で押し入れの部屋へ行きました。
部屋には、前からあったように、実際その通りなのですが、押し入れがありました。
「押し入れ強盗が押し入れを返してくれたんだ!」
トーマはマートに言いました。しかし、マートは不思議そうに首を傾げました。
「押し入れ強盗? 押し入れが盗まれたって? トーマ、きみ、夢でも見てたんじゃないか」
トーマはマートが昨日のことを憶えていないことに驚き、不安になりました。あれは夢だったのでしょうか?
トーマが押し入れの戸を開け、かばんを取り上げると、その下から小さな紙切れが落ちてきました。
トーマはそれを拾い上げると、ニコリと笑いました。
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