第141話

「おいロニー、あれだけ言っただろ」





「何がだよ?」


「言われる理由は分かってんだろ。お前、あれだけ俺が忠告したにも関わらずあの“怪物”をつついて、一緒に話したんだろ?それも森の奥で」


「そうなのか?噂話は詳しくないんでな」


「今更とぼけんな、もう誰もが噂してる。“ロニーがカラスを追い掛けて、一人不気味な森の中へ”ってな」


「うるせぇな、良いじゃねぇかよ。ただ話しただけだ。儀式もしてねぇし裏取引もしてねぇ、大体その“怪物”とやらはあの散々な噂と違って、暴言一つ吐かなかったぞ。マイルズ、お前も話してみろ」


「冗談じゃねぇよ、お前みたいな命知らずならともかく今この団で自分からデイヴィッド・ブロウズに関わりたい奴なんて、居る訳ねぇ」


「“実際に見た奴にはどんな噂も敵わない”。不気味なカラスは確かに肩に留まってたし、最高幹部直属の命で動いている事も噂の黒魔術とやらも本物らしいが、俺達にカラスを差し向けた事なんてねぇだろ」


「……………お前とも長い付き合いだ。お前が今、何を考えてるかも分かる。黒魔術を操る“曰く付きの怪物”なんて、お前が嫌いな訳が無い」


「そういや子供の頃は“邪悪な魔法使い”がどうこうって、一緒にはしゃいだりもしたな。あの頃の俺やマイルズが“黒魔術”なんて見たら、それこそ大喜びなんじゃねぇか?」


「子供なら喜ぶだろうさ。でも俺達は大人だ。黒魔術なんて身に付ける人間が、真っ当な奴じゃない事ぐらい分かる。現に奴は真っ当どころか、浄化戦争で英雄呼ばわりされる程の人数を殺してきた、死刑でも足りないぐらいのバケモノだ。正当に裁かれるなら、内臓引きずり出して犬に喰わせても足りないぐらいのな」


「噂通りの、ラグラス人を頭からかじってクソにして笑ってる様なバケモノなら、黒羽の団に来る訳が無いだろ。肩のカラスも黒魔術も事実だが、それでも現にあいつはそのカラスと黒魔術で俺達の為に戦ってくれている。噂じゃなく事実としてな。“怪物”がどれだけ恐ろしくても、敵にだけ噛み付いて行くなら同じ敵と戦っている俺達が非難するのは間違ってる」


「肩にカラスが留まったクールな怪物、なんて見方はやめた方が良い。お前とも子供の頃からの付き合いだ、お前が人一倍、英雄だの何だのに憧れているのも知ってる。それも真っ当な英雄じゃなく、歴史の影に消えていく様な“影の戦士”が好きって事も」


「真の英雄が残すのは“歴史”じゃなく、“伝承”と“伝説”だ。それこそ昔はお前もそう言ってただろ。…………俺達は今きっと、“歴史に残らない英雄”を見てる。それを追い立てる側に回るなんて、“自分は間抜けです”って顔に書く様なもんだ」


「ロニー、言いたい事は分かる。だが、“あれ”だけは駄目だ。“あれ”はそういう、クールだの何だので追い掛けて良いものじゃない。俺達みたいな奴等が興味や信条で味方して良い範疇を、“あれ”は大きく超えちまってる」


「聞けよマイルズ、皆が疫病みたいにあのデイヴィッド・ブロウズを恐れるが、あいつは黒魔術を使える優秀なレイヴンだ。幹部達が名を挙げる様な、あの懐中時計を持ってるレイヴン達が現にあいつを認めてる。“勝てる側を見極めろ”、マイルズ。ここであいつを非難する側に回っても、“英雄を非難していたバカな連中”で終わっちまうぞ」


「良いか、これ以上あの“怪物”に首を突っ込むのはやめろ。あの怪物は、最高幹部達でさえ一度は地下牢で処刑しようと考えた程の、バケモノなんだ。気に入らないから処刑する訳じゃない、むしろ最高幹部達が処刑に踏み切ろうとした理由を考えろ」


「…………どうあっても、あの“怪物”の味方はしない、ってか?レガリスを傾ける程の怪物が俺達の味方をしてくれてるのに、俺達はその背中を槍で突くのか?その結果、俺達の味方だった怪物が倒れても?」






「お前の為なんだ、ロニー。このままじゃお前まで、背中に槍を向けられる立場になっちまうぞ」

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