第127話
賭けても良いぜ、なんて言うんじゃ無かった。
相手がたった一人とは言え、随分と酒を奢る羽目になってしまったのだから、機嫌は余り良くなかった。
だが周りも慰めてくれる様に今回ばかりは、この賭けで負けると思う奴の方が少ないとは思うのだが。
まさか、本当に一機のウィスパーだけで飛行船に乗り込んで何人もの憲兵を叩き潰した上、標的のダニールを刺し殺して五体満足で帰ってくるなんて誰が思う?
それも中型輸送飛行船を換装して追加した、一機着陸させるのが精々の飛行甲板に乗せたウィスパーで、だ。
こう言っては何だが、この賭けで勝ちたいなら皆俺と同じ方に賭けると思う。
こんな、綱渡りの様な曲芸染みた方法で本当に暗殺任務を成功させてしまうのだから、流石はレイヴンとしか言い様が無い。
どうやら、自分が思っていた以上にレイヴンと言うのは強靭で優秀な工作員だったらしい。
今回から搭載された新機構のお陰で、上手く係留すれば操縦士も任務に参加出来る。それは、分かってる。
だがそれで操縦士がレイヴンだったとして、暗殺任務に参加したと仮定しても今回の任務では一人が二人になったに過ぎない。
やはり、二人だけでウィスパーを操縦した上での飛行船に乗り込んで暗殺任務など、常軌を逸しているというのが本音だった。
まぁそれでも結果から見れば、どれだけ常軌を逸していようとダニールを暗殺して五体満足で帰ってきた事には変わり無い。
大した損失も無い上に今回の件で士気は大きく上がり、レガリスで我が団を支持する声が大きくなっている。あの帝国が、中央新聞でわざわざ“図に乗るな”と注意する程には。
一時期はもう縁が無いのかも知れない、と勝手に思っていたウィスパー製造ライン。その再稼働の話もとうとう出始めた。
それに伴い、黒羽の団がオーバーホール途中で長らく作業中止していた、秘密兵器とさえ言える飛行戦艦の修繕作業、及び整備作業も再開し始めたのだからいよいよもってこれからは忙しくなる。
最もここ最近の忙しさとは違い、翌朝が待ち遠しくなる様な明るい忙しさではあるが。
ウィスパー製造ラインが再開し飛行戦艦の修繕も再開、これからはいよいよ小型なり中型なり、航空機の建造という仕事も回ってくるだろう。
いよいよ、ここからだ。
浄化戦争の頃の、精強で剛健な“黒羽の団”と“レイヴン”が、いよいよ蘇る。
東方国ペラセロトツカを影で支え、レガリスを恐怖に陥れ、ラグラス人達に希望と未来を与えていた頃の“黒羽の団”がいよいよ、復活するのだ。
最近の快進撃とも言える好調はいつ頃から始まったのだったか、と記憶を辿っていき大体の当たりを付けた処でふとある事が浮かぶ。
少し考え直したが、それでも間違いない。
他の理由も探したが正直に言って、“それ”が一番客観的にも納得が行く理由だ。
個人的にはまるで気に入らないが、それが一番分かりやすい変化だろう。
あぁ、思い出すんじゃなかった。この団が復活の兆しを見せ始めた時。
それは。
あのカラスの怪物、デイヴィッド・ブロウズが我が団にやってきた時からだ。
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