第45話

 雨が降っていた。








 陰鬱な雨の中、天秤の一方の皿には口を開けた酒樽が乗せられ、樽に澱んだ雨水が溜まっていく。


 もう一方には、骨の装飾が施された錆びた杯があり、其方の杯の底からは音と泡を立てながら、赤黒い血が溜まっていく。


 酒樽からは、雨水に満たされていくにつれて徐々に喧騒が聞こえ始めた。歌声や争乱、笑い声に怒号。


 錆びた杯からは、徐々に悲鳴が聞こえ始めた。慟哭に断末魔、啜り泣きや懺悔。


 酒樽には徐々に破片や瓦礫が浮かび上がる様になった。汚れた銅貨や銀貨、滲んで潰れた絵画さえ浮かんできた。


 錆びた杯には、次第に人の骨が浮かぶ様になった。羽虫の死骸が浮き始め、死んだ空魚、遂には錆び付いた剣とナイフが浮かび上がった。


 酒樽の方に、天秤が揺れる。しかし、錆びた杯の方に持ち直す。天秤が傾き、持ち直し、また傾き、また持ち直す。


 酒樽も杯も、徐々に満たされていく。天秤は傾き、大きく揺れて、均衡が危うくなりながらも、天秤の両方が満たされていく。


 少しずつ少しずつ、決着の時が近付いていく。


 喧騒で濁った酒樽か、血で錆び付いた杯か。


 巨大な梟が、食い入る様にその天秤を見つめていた。








 その不気味な双眼を、爛々と輝かせて。

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