02

 仕事で、失敗続きだった。

 どうしようもなくなって、仕事場を飛び出して。あてもなく、さまよった。


 泣きそうになって、上を見たら。曇り空だった。夜だから、星ぐらい見えたらいいのに。


 路地の明るいところに、何もない公園があった。ベンチと自動販売機だけ。遊具すらない。


 酒を呷りたかったけど、自販機の缶コーヒーで我慢することにした。いずれ仕事には戻らないといけない。いくら失敗していても、結局、仕事は続く。


 缶コーヒー。安いやつ。ブラック。


 ベンチに座ろうとして、人がいるのに気付いた。夜中なのに。男性。綺麗な顔をしている。炭酸飲料をちびちび飲みながら、ぼうっとしていた。


 ちょっとだけ、気になって。


「あの」


 声をかけてみる。


「うわあっ」


 綺麗な顔が、びっくり顔に変わる。


「あっ。げふっ」


 げっぷかな。


「すいません。つい声を」


「あ。いえいえ。ひっく」


 今度は、しゃっくり。綺麗な顔が、しゃっくりのたびにぴくっと動く。かわいい。


「ふふふ」


「ごめんなさいびっくりして。ええと。ひっく」


「隣。よろしいですか?」


「あっはい」


 隣に座る。彼。まだ、しゃっくりに苦しめられていた。せっかくだから、止めてあげようか。


 なんとなく、缶コーヒーの蓋に苦戦するふり。本当は普通に開けられるけど、あえて、か弱い感じを出してみる。


「私が開けますよ。ひっく」


 その言葉を待ってました。


「あ。ありがとうございます」


 彼に缶コーヒーを渡し、タイミングを見計らう。


 開ける瞬間、顔を近付けて。


「わっ」


「うわあっ」


 彼のびっくり顔。


「どうですか?」


「え。え?」


「ひゃっくり。止まりました?」


「あ」


 止まったかも。


「よかったです」


 任務完了。彼の手からコーヒーをそっと奪い取り、いつものように開けて、いつものように呷る。


 あっ、やべ。


 酒じゃなかった。ブラックコーヒーだったこれ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る