何もない公園、星空の先

春嵐

第1話 start & epilogue.

 彼女とは、この公園で出会った。


 ベンチがひとつ。自動販売機がひとつ。それ以外は、何もない公園。遊具も砂場もないので、子供すらいない。


 仕事の合間に、よくここで、ひとりでいる。誰もいないから、ゆっくりベンチに座っていられた。


 夜。


 この街は、星空がよく見える。街のネオンが特殊素材らしくて、街がどれだけネオンの灯りで輝いていても、空には星があった。


「曇ってんなあ」


 曇りだと、月も星も見えない。


 自販機で買った飲み物を、ちびちびと飲む。これがなくなったら、仕事に戻らないといけない。そういう自分のルール。あんまり席を空けていると、連絡が来たときに対応できないから。


 端から順番に買っているので、今日は炭酸飲料だった。曇った空にお似合いの、ぱちぱち感。


「あの」


「うわあっ」


 突然声をかけられたので、びっくりしてしまった。


「あっ。げふっ」


 げっぷでちゃった。


「すいません。つい声を」


「あ、いえ。いえいえ。ひっく」


 げっぷがしゃっくりに変わる。なんだこれせわしないな。


「ふふふ」


「ごめんなさいびっくりして。ええと。ひっく」


「隣。よろしいですか?」


「あっはい」


 隣に座った女性。あ、女性か。缶コーヒー。蓋を開けるのに苦労している。


「私が開けますよ。ひっく」


 いい加減しゃっくり止まってくれよ。


「あ。ありがとうございます」


 渡された缶コーヒーを、軽く振って。

 蓋に手をかけて。


 開ける瞬間、目の前に女性の顔。


「わっ」


「うわあっ」


 びっくりした。そして、少し焦げたような甘い匂いがした。


「どうですか?」


「え。え?」


「ひゃっくり。止まりました?」


「あ」


 止まったかも。


「よかったです」


 女性。ぽかんとしている自分の手から、缶コーヒーをやさしく奪って。蓋に指をかけて勢いよく開ける。そして、勢いよく飲む。


 あ。


 この女性、酒呑みだ。酒を空けるみたいにコーヒー呑んでる。


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