子供の夢 0
諦めなければ夢は叶う。
こんなのは酔っぱらいの戯言だ。
夢を追うのは楽しい。
走り始めたばかりの頃はどんどん距離が近付いて、いつか必ず辿り着けるような錯覚をする。そのうち諦めなければ夢は叶うという言葉を信じるようになる。
しかし、やがて気が付くのだ。
夢を追う姿は街灯に群がる羽虫とよく似ている。とても無意味で醜悪な光景だ。賢い人は途中で気が付いて夢を追うことをやめる。だけど愚かな人はいつまでも気が付かない。
現実を知るのは手遅れになった後だ。
夢破れた後には、瞼の裏に焼き付いた輝かしい妄想だけが残る。眠る度に夢を見て、偽りの幸福に身を包まれる。そして目を覚ます度に絶望する。その痛々しい姿を見て、誰かが言った。
大丈夫。時間が解決してくれる。いつか他の夢が見つかるはずだ。
甘えるな。現実を受け入れろ。夢破れたのは、お前だけじゃない。
愚かな子供は耳を塞いだ。
他人の言葉は必要ない。同情も激励も惨めな気持ちになるだけだ。
薄暗い部屋、独りになった子供は、小さな箱を握り締め、いつか辿り着けると信じていた世界を見る。
忘れられない。どうしても忘れられない。
ほんの少し前まで、自分の背には翼があった。夢見た世界に必ず辿り着けると信じていた。
しかし、あまりにもあっけなく、翼は焼け落ちてしまった。
だから、どれだけ恐ろしくても、光に目を向けることをやめられない。
──ああ、眩しいな。
どうしてこいつが辿り着けて、自分がダメなのだろう。
自分の方が上だ。自分の方が上手くやれる。
それなのに、どうして、こいつなのだろう。
醜い嫉妬だと自覚しながらも、惨めな思考を止められない。
──ああ、こいつの翼も、焼け落ちてしまえばいいのに。
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