拝啓、祝福を受けた者達へ

建月創士

第0話 祝福のXデイ

 20XX年、平穏な世界は突如として終わりを告げた。

 

『今、神は人間を祝福する。』


 その言葉が脳に転がり込んできた瞬間、人は理不尽な“祝福”を受けた。

 その祝福というモノの受け方は様々であったが、結果は実に凄惨であった。

 頭が弾け、脳髄を垂らす者、関節が明後日の方向へ曲がり続けそのまま千切れてしまった者、体が突如発火し、そのまま焼死した者など、死因を数えていては自分さえもその一つに加わってしまうような様子、まさに地獄絵図という例えが似合いだった。


 そして、最後まで立っていたある男は十字架を胸に恍惚の表情を浮かべ叫ぶ。


「あぁ!!!神よ!!!これが祝福か!!!これが!!私が待ち望」


 ベチャッ。


 言葉半ばに哀れな聖職者の胴体は弾け、人間だったモノはただの肉塊と化した。


 そして、辺り一面老若男女関係なく絶命し、流れた血は乾き、死体には蛆が湧いた頃。

 むくり、と起き上がる影が一つあった。

 その影の主は起き上がるなり、すぐそばに横たわる、人であったモノを弱々しく揺さぶる。


「ママ…?ママ、ママ…」


 拙い言葉でその骸には永遠に届かない言葉を紡ぐ。

 そうして揺さぶっていると骸の肉体はベチャ、という音を立て力なく仰向けに倒れる。

 見えていなかった死体の頭部が顕になった。

 顔面部分が顎の骨を残し、弾け飛んでいた。

 凄惨な様子を幼子が認識した瞬間。

 響いたのは獣の鳴き声ような轟音。

 その轟音と共に死体から赤黒いモヤが産まれ幼子を包み込み、球体と化した。


 次の瞬間、幼子を包むモヤのもとに、まるで幼子にとどめを刺さんとばかりに閃光と雷鳴が轟いた。

 しかし、厚く硬いモヤはその雷撃をもろともせず、高速で移動を始める。

 空からの追撃は止まない。

 次第にモヤは晴れ中身が顕になる、しかし、そこにあの幼子の姿はなかった。


 キシシ。

 モヤはバカにするようにそう空の上の主を嘲るように笑った。


 数瞬の静寂の後、爆音と共にそのモヤは無に帰した。


 そして、あの幼子の行方を知る者はこの惨状を作り出した神も知らないこととなった。

_____________________________


 この惨状は生き残った全世界のあらゆるメディアで報道された、同時刻に世界中で起きたこと、被害は全て直径10km圏内ピッタリということ、そして、死体だと思われていたモノがゾンビのように動き始めたこと。

 そのことを受け、世界中はパニックとなった、これが世界の終わりか、地球を好き放題した人間への報いか、と。

 あまりにも突然に突き立てられた人類の世界の終わり。

 その日、人類は絶望し、世界は滅亡へとゆっくりと船を漕ぎ始めた。

 まず大国が生き残っていく上で邪魔な国が攻撃を受け数年で12ヶ国が消え、消えた国から援助を受けていた小国は続々と死に絶えていった。

 そして、〘祝福のXデイ〙と命名されたあの日から10年、全世界人口は5分の1まで減少し、この世に残っている国は、アメリカ、イギリス、ロシア、中国、日本、インドの6ヶ国のみとなった。

 おぉ……神よ、どうか、どうか我らをお助け下さい。

 6つの中のどれかの国の聖職者がそう呟いた。

 なんと皮肉なことだろう、この世界を作り出したのは神だというのに。

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