第3章 心が繋がる時

1.雪の下のキノコ

 私の住んでいるこの辺りは、冬の間は大雪に覆われる。我が家の周りは透明な結界で覆っているので、上空から見れば、半径30メートルほどのドーム状にぽっかりと空間が空いているように見えるかもしれない。

「いや、木に隠れて見えないかもね…」

 この結界は、木に物理的に干渉することなく展開できる。慣れるまでは普通の物理結界で、大木を数本切り倒してしまったこともあるが…ちなみにその後治癒で同じ大きさまで育てている。

「自分に害のないものを物理攻撃から弾くから、街中でも使用可能になった訳だから…」

 サラサラとそれだけメモすると、書き付けとペンは傍に浮かせておく。浮遊術をアレンジして、ヘリウムを入れた風船のように私の後ろをついてくるようにした。精霊達は面白がってその上に乗ったりしている。

 今は、またガルダへ向かう道の途中、キノコの採取中だ。家の近くは流石に雪が深すぎるので、離れた廃村の周りを探している。ここ辺りなら、雪はまだ50センチほど積もっているだけなので…とは言っても雪深いが、浮遊術で私の足は雪の上を歩ける。そのまま探索して、雪の下のキノコを探す。ユキタケと呼ばれる白い、大きなエノキダケのようなキノコだが、それなりに深い雪の下でないと採れず、採るのに手間がかかるためかいつものアオタケよりも高値がつく。

「主様、此処の下にありますよー!」

 炎光の精霊カルラとカルミア、光闇のライラ、水闇の精霊ファイ、水風のハルが今日は付いてきている。どうやら、それぞれの属性から1人ずつは必ず選ぶ事にしたようだ。それぞれメモ帳の風船からトランポリンのように飛び立っては、キノコを見つけて教えてくれる。

「あ、大きいの見つけた!」

「やったー!」

 雪を転移魔術で移動させて、残りは手で掘ってキノコを採る。艶々としたキノコに歓声を挙げる精霊達に微笑んで、キノコをアイテムボックスに仕舞う。

「いい天気」

 山の方はほぼ曇天だが、ここまで来れば晴れの日も多いようだ。ガルダ近辺は晴れ。アイテムボックスのスクリーンの天気予報をチェックして、そろそろガルダまで飛ぶよ、と精霊に声をかけた。


◇◇◇


「侯爵子息たちの件が完全に片付いた」

珍しくギルマスが買取カウンターに来て言った。

「早かったですね。良かったです」

 私の言葉に、ますますご機嫌なギルマスは、「後で上に来いよ!」と言って、意気揚々と奥に戻っていく。

「あれ言いに来ただけかよ…まったく」

 アーバンさんも苦笑しているが、いつもよりずっと機嫌がいい。

「わあ、立派なユキタケですね!運ぶの手伝います」

 スージーさんが駆け寄ってきて、カウンターの荷物を奥に運んで行く。

「スージーの好物らしいんだよ。たまに納品させたのを買い取ってるよ。アレは高くなるから買わないだろうけど」

 ギルドの職員は、規定の手順をふめば買取もできるらしい。

「ふふ…それじゃあ、こっちも納品します。スージーさんに」

 私は、手元の少し小さめのユキタケも取り出した。

「わかった。ありがとよ」

 アーバンさんは全部の納品物のチェックをすると、書類を奥に持っていって、戻ってくる。

「今回の分も合わせて上で払うから、ギルマスのとこに行こうぜ」

 奥へ向かう木戸を開けてくれて、上へと案内される。侯爵子息達の件からまだ2ヶ月ほどだが、なんとなくこの光景を周りの職員さんが前ほどチラチラ見てこなくなった。

「ミリィのとこはもう行ったのか?」

「この後に行こうかと」

「そっか。ありがとな。ミリィも楽しみに

してたからさ」

 ミリィさんのお店は、まだ赤ちゃんが小さいので、!今のところ時間を限定して開けているそうだ。わたしはその閉店後に伺う、という約束を先月したばかりだ。ちなみに、日にちも毎月17日ごろとなった。今日がその17日だ。月の中日の締めを終えて、気持ちも楽な日、なのだそうだ。

「それ、ミリィが先月押し付けたやつか?」

 それ、とは私の髪を飾る飾り櫛だろう。細長い爪月のような銀の飾りが、細かい目の櫛で髪に止まっている。

「押し付けたなんて。綺麗なので気に入っているんですよ」

「普段使い用なんだから使い倒せって言われたろ?」

「…その通りです」

 私があまりそういうことに興味が無く、髪は精霊が結っていると打ち明けると、「いい?こうやって、ここ編んでから刺すとこうなって…普段はこんな感じで…」と、私の頭を実験台にして精霊達にレクチャーを始めてしまい…結果、精霊達のヘアアレンジ熱が高まり、普段からこの櫛は私の髪を飾ってくれている。私としても、書き物をするときに髪が落ちて来ないので助かっている。

 今日ライラが付いてきたのだって、きっとミリィさんのオシャレ談義を聞くために決まっている…と、私は思っている。


 ギルマスの部屋に入ると、サブマスも中にいた。やはり機嫌は良さそうだった。

「待ってたぜ!」

 サブマスは、香り高い紅茶を大小様々なマグカップに入れて持ってきてくれる。聞いてみると、普段使い用らしい。

「リッカのはこれな」

 先日から使わせてもらっている濃いピンクのマグカップは、私のためのものらしい。

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