5.図書館は滅多にないものらしい
街に行って、先ずは神殿で祈りをすませた。サーっと体の中を風が吹き抜けたような感覚がして目を開ける。時として暑さが和らぐような清涼感であったり、寒い時には手足の先から暖かくなったりとその時によって違うが、なんとなくセカイさんが何かしているのだというのはわかる。
「主様、主様!」
フードの中や袖の中にいるカルラ達が興奮したように、それでも小声で囁く。
「創造神様の神気を感じました!この間もわかりましたが、こんなに確実に感じたのは初めてです!すごいです!」
「同感なの」
「気持ちよかったですの」
「うん、私も感じたよ。良かったね」
「はい!」
本当は思い切り撫でてやりたいが、念のためローブの中にいてもらう。ちなみに裾のところはやめてもらっている。座る時にお尻で踏んだら嫌だからね。
入り口の神官に挨拶して神殿を出た。
「天気がいいね」
「はい!」
先ずはギルドに行って、いつもの品を納品した。そしてアーバンさんにミリィさんと赤ちゃんに会いたい旨を伝えると、何故かアーバンさんは私と一緒に行くことになった。
道すがら、図書館について聞いてみる。
「アーバンさん、この街には図書館はありますか?」
「図書館?いや、無いな。ギルドの資料室がそれっぽいかなぁ…リッカさん、図書館に行きたいのか?」
「ええ。やっぱり無いですか…」
「本は高級品だからな。学校には共用の教科書や初級の魔法書とかはあるかもしれんが…簡単には見れんだろうし…」
「そうですか」
「王都とか、公爵領とかにはあるんだよ。市民証か利用証の登録か、冒険者証のランク4以上が要るけどな。リッカさんなら入れるはずだ」
「…王都に公爵領…つまりは、裕福な都市って事ですね」
王都は当然、
公爵領は宝石鉱山を複数持っている裕福な都市だったり、内海の貿易都市だったりする筈だ。
「ま、そういう事だが…行きたいのかい?」
「まあ、気軽に行けるなら、と言うところです。遠い上に都会はちょっと…」
「そうか」
ホッとした顔をしたアーバンさんに、どうせ王都なんかに行くにせよ、転移術で行って日帰りなんだけど…と思いつつ、ミリィさんに会いに行く。
「あのさ、悪いけど後で一度ギルドによってもらえるか?ギルマスが辺境伯からの伝言を預かってるからさ」
「かまいませんよ」
「ごめんな、行ったり来たりさせて」
「いいえ。近所ですし、これは私の我儘ですから」
ミリィさんは、自宅の一階を掃除中だった。赤ちゃんは、傍の籠を吊るしたようなベビーベッドで眠っていた。
「こんにちは。お久しぶりです。経過はどうですか?」
「まあ!まあまあまあまあ!」
ぎゅう!と音がしそうなほど抱きつかれた!目の淵が光っているのは、もしかして涙だろうか。
「あの時はありがとう!本当にありがとう!」
「いえいえ」
ミリィさんと私の体格はそれほど変わらないようなのに、結構すごい力でぎゅうぎゅう抱きしめられてちょっとビックリした。それでも、私も軽くハグを返して、その背中をぽんぽんする。
「元気そうで良かった。顔色も良いみたいだし」
ミリィさんは抱きついたままぐしぐしと泣き続けている。これは何かあるのかとアーバンさんを見ると、頭をボリボリかきながら口を開いた。
「ミリィの母親が、ミリィの弟を産んだ時に同じ状態で亡くなってるんだよ。それを思い出したみたいでな」
「ああ…」
「馬鹿、妹よ!弟は生きてるでしょ」
「うん。わかってる。そろそろリッカさん離してやれよ。苦しいだろ」
「あ、いや大丈夫ですけど…」
たいして苦しくはない。そう言おうとして、ミリィさんがさらに声を上げた。
「あれ?」
フードごと抱きついていた腕を放しながら、何かをサワサワと撫でた。
「何か動物?」
「いや…」
アーバンさんは目を凝らすような顔をした。
「妖精…いや、こりゃビックリだ。精霊だろ?完璧に具現化してるのなんて、王宮で見たきりだぜ」
なんだか、本題に辿り着く気がしなくなってきた。そんな気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます