11.隠者は不干渉と繋がりを得る
その後、1時間ほどでアスター子爵家のお抱え医師が来たので、アーバンさんとジョナ婆さんに見送られつつ、わたしはギルドに向かった。徒歩でギルドに着くと、もうお昼前になっていて「話は飯食いながらな!」とギルマスたちと昼食を食べながら事の顛末を話すことになって…サブマスは途中で退席して何やらアーバンさんの所に使いを走らせていたようだ。
「ありがとな、リッカ。アーバンのとこはさ、7年前に子供を亡くしてるんだ。あん時は流石に落ち込んでてさ。だから…良かったよ」
ギルマスは、食後のお茶を啜りながら、私の頭を子供みたいにぽんぽん撫でた。
「ギルマス、リッカさんはレディですよ」
「俺にとっちゃ娘くらいの歳だからな」
食事が終わると、辺境伯との話し合いの結果を教えてもらった。辺境伯は、今朝から王都にでかけており、王都では、隠者の件も王様に伝えてくれるらしい。
「まず、リッカさんの希望はほぼ通った形ですね。貴族との謁見は、隠者という人物なので難しいと言ってくださるそうです。無理に会おうとすると、おそらくは我が国から離れてしまうだろうから、そのまま自由に我が国にお住まいくださいとなるでしょう。
空間収納が使えるようになる石を、王様と王妃様に献上するそうです」
「ああ残り一個は俺たちの見てる前で使用者登録して辺境伯閣下ご自身で使ってもらったぜ」
「使えましたか?」
「おうよ。楽しんでたぜ。酒とかナマモノとか入れてみて、今回の道中で時間経過を試してみるってよ」
「ギンダケの方は、辺境騎士団お抱えの薬師達がポーションにするそうです」
「問題なく使えて、良かったです」
「ただ、国王陛下に伝わってしまうので、出来るだけ、身の回りには気をつけていただきたい。というのが本音ですね…」
「俺らからは、辺境伯閣下のところで止めてて欲しいって言ったんだがな。流石にそれはダメだった」
「隠匿したことで国家反逆の疑いをかけられても、結果的に困るのは領民ですから」
「あとは…閣下から、というよりも奥様から、これを預かってきました」
サブマスから渡されたのは、皮張りの箱だった。開けてみると、銀の鎖の先には、3センチほどの楕円形の平い青い石が嵌まったペンダントトップ。シンプルなネックレスだ。
「…これは」
「迷惑でなければ、ギルド証に使って欲しいということでした」
「いや、ぶっちゃけそれめちゃくちゃ高いんだぞ。その石、光るだけだけど、一応通信石だからな」
「通信石?」
「まだ、使用者の登録をしていないので、誰からの通信も来ませんが…これからは活用していただきたいのです」
「……」
「まあ、気持ちはわかるぜ。でも、一応あんたのピンチの時にギルドへ救援を飛ばせるようにしたり、出来れば使わないに越したことはないが、こっちからあんたにホントに大事な用がある時は連絡が取れた方が、俺らも安心できる」
「…それを見越して、リッカさんに贈られたのでしょう」
使わない選択肢も無くはないが、本当に有事の際には、使えるかもしれない。
「……わかりました。ありがたく使わせていただきます」
(何もかもを拒否していても、有事の際に対処が遅れて後悔するのはいやだもの)
その後、ギルマスの部屋でペンダントに冒険者証としての情報を刻んだり、通信石の登録をして試したりするうちに、日が傾いて来た。
遅くなると危険だから宿を取ると言われたのを丁重に断って、今日こそは家に帰ることにした。
帰る前に、アーバンさんの家に寄って少しだけ話を聞いたところ、ミリィさんも赤ちゃんも経過は順調らしい。あの後ジョナさんとお医者さんは、私のことを不用意に人に話さないという契約魔法を交わすハメになったらしいと聞いて頭を抱えたくなったが、アーバンさんがそんなに厳しいものではないし、今回は人命に関わっていたとお医者さんも口添えしてくれたと教えてくれた上で改めてお礼を言ってくれたので、それで良かったと思うことにする。そんなアーバンさんに、一回きりの通信石を持たせて、急変したら必ず魔力を込めてくださいと念押しして、門から街を出た。
色々ありすぎて、色々やり過ぎた気もするが…考えることなんて一つしかない。
「今日は、もうおうちに帰ろう」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます