狼さんと憑き愛ました
ムネミツ
狼さんと憑き愛ました
「初めまして、
金髪碧眼に白い肌、頭に狼の耳を生やした少女が名乗りを上げる。
教室内の生徒達はほとんど固まっていた、狐や狸に猿の妖怪や混血の
生徒達は表情が青ざめていた。
自身は直接知らなくても遺伝子に刻まれた天敵の記憶。
明治の世に力の拠り所であるニホンオオカミ達が人間に絶滅された
事で消えた日本の山の怪異の王である狼が帰って来たと。
「それじゃあ真神さんの席は根岸君の隣ね、根岸君は宜しくね」
人間である担任の女性教諭、稲生先生がモニカの席を決める。
モニカはその言葉に従い、学級委員の少年である
「初めまして俺は根岸だ宜しく、クラス委員だ」
「流石お奉行、転校生にもフレンドリーだ」
クラスの男子の誰かが呟いたのをモニカは聞き取った。
「根岸君、お奉行って?」
モニカは鎮に尋ねる。
「休み時間に話すよ」
鎮はさらりと質問を流した。
そしてホームルームが終わり、午前の授業へと時は進む。
「根岸君、教科書見せてくれてありがとう♪ それでお奉行って?」
一時間目の数学が終わるとモニカが鎮に話しかける。
「ああ、俺の先祖が奉行だったからそういうあだ名になった」
クラスメイト達がモニカから溢れる妖気にビビって黙る中、鎮はさらりと答えた。
「そうなんだ、面白いね♪」
モニカは鎮に微笑む。
「真神さんの気が楽になったなら良かったよ」
「あ、ありがとう」
鎮が自分を気遣った事に気づいて少し心が動いたモニカであった。
そしてモニカは、鎮と話す内に鎮の臭いを記憶。
彼女の脳はその臭いを心地良い物と認識した。
妖怪の中でも動物の妖怪は、動物の能力や性質を持っている。
モニカも狼の妖怪であるが故に犬科動物の嗅覚や聴覚を持っていた。
二時間目の体育、女子は体育館のコートでバスケットボール。
男子は同じく体育館内の柔道場で柔道。
授業前にモニカはジャージ姿、鎮は柔道着姿でエンカウント。
「根岸君、その格好何か似合うね」
「そうかな? ありがとう」
この時モニカは、制服の時よりも鎮の臭いを嗅いで胸がときめいていた。
私、根岸君の事が気になってる?
根岸君、良い臭いがする♪
こうして、モニカは出会って間もない鎮を意識した。
三時間目は古文、四時間目は日本史とモニカは鎮の隣で彼の臭い
に満たされる時間を過ごした。
一方、鎮の方はモニカが時々鼻をひくつかせているのを見て自分の臭い
を嗅いでいるとは気づかず何か匂うんだろうなとしか思っていなかった。
そして昼休み、普段は賑やかな教室もやはり静まりかえっていた。
「何かみんな静かだな? 真神さん、少し学校案内しようか学食とか?」
モニカの妖気にクラスメイト達が気圧されている中、そんな事は知らず
鎮はモニカへ一緒にランチをしようと声をかけた。
「え、学食? うん、お願いします♪」
モニカは了承して勢いよく立ち上がった。
「うおっ? ああ、行こう!」
その勢いにモニカが空腹をこらえきれないと勘違いした鎮。
鎮も急いで立ち上がりモニカについてくるように促して教室を出た。
モニカは自分の頭が人間から金毛の狼に変化した事も気づかず鎮を追った。
「まっ!」
振り向いて真神さんとモニカに声を掛けようとした鎮、そこにいたのは大口を
開けて涎と同時に舌を出して自分を押し倒す金色の狼だった。
周囲の生徒達が恐怖で逃げ出す中、鎮は自分よりも大きな狼となったモニカに
組み敷かれてベロベロと顔を舐められ意識を失った。
「……ここは、保健室か?」
意識を取り戻した鎮は上体を起こすと自分がジャージ姿で保健室のベッドに
寝かされていた事に気づいた。
「俺は確か真神さんと学食に行こうとしてたら、真神さんが狼になった?」
自分がモニカに押し倒された事を思い出す鎮。
「真神さん、よほど腹が減っていたのか? 転校初日でストレスが出たとか?」
妖怪の生徒が時たま衝動に突き動かされるのはよくある事。
押し倒されて舐め回された位ならマシな方だ。
「……って言うかもしかして女子に舐め回されるって、ある意味キスじゃね?」
真面目な性格だが思春期男子でもある鎮はこれはキスになるのではと思い悶えた。
「やっべ~! 真神さん可愛いし超こっぱずかし~!」
モニカが美少女である事を思い出し一人で叫び出す鎮。
モニカが鎮を意識したように鎮もモニカを意識した。
そんな中、保健室のドアが開き大きな紙袋と鎮の荷物を持ったモニカが
気落ちした様子で入って来た。
「ま、真神さんどうした? それは俺の荷物かな?」
袋の中身は制服だろうと勘付いた鎮。
「ご、ごめんなさい!」
モニカは悲しそうに顔を伏せて頭を下げて謝った。
「いや、謝らなくて良いって!」
モニカを止める鎮。
「で、でも私! ね、根岸君にあんな事を!」
言い返そうとするモニカ。
「あ~、大丈夫だから♪ 顔上げてよ、洗濯してくれてありがとう♪」
モニカの謝罪を遮る鎮。
「へ? な、何で? 私、ひどい事しちゃったのに!」
笑顔で自分に接する鎮に泣き顔を上げて向き合うモニカ。
「いや、あれくらいならまだ普通だから」
「え? 何言ってるの根岸君?」
モニカは鎮の言葉が信じられなかった。
「いや、妖怪の生徒って色んな事やらかすし鎌振り回す鎌鼬やヤバい煙出す狐とかに比べたらマシだって泣かないで♪」
泣いているモニカを優しくなだめる鎮。
「根岸君、何言ってるかわからないよ♪」
鎮になだめられて落ち着き笑顔になるモニカ。
「あ~、まあ良いから♪ 制服ありがと、着替えるから出て待ってて」
モニカから制服の袋を受け取る鎮。
「あ! そ、そうだね!」
鎮の荷物を置いて保健室を出るモニカ。
しばらくすると荷物を持って学ラン姿に戻った鎮が出てくる。
「お待たせ、何かとんでもない一日だったぜ」
「ごめんね、お昼も午後の授業もなしで」
「う~ん、ぐっすり寝れたからいいや」
「え~? 何か駄目な人の台詞だよ~♪」
モニカと鎮、出会って数日と経たないうちに二人の距離は近くなった。
モニカが狼になり鎮を舐め回した事で、彼女の唾液が鎮の体内に染み込み
モニカが鎮にマーキングをした形になった事を当人達は気づいていない。
動物は自分がマーキングにより縄張りとした物は無害だと認識し安心する。
狼の妖怪であるモニカも無自覚にその特性を持っており、鎮はモニカの縄張り
にされていた。
保健室から靴箱のある出入り口を目指して歩く二人。
授業が終わり部活の時間らしく、校庭では運動部が練習に励み教室で活動する文化部はそれぞれの活動に励んでいる。
そんないつもの日常のはずが、自分とモニカが通り過ぎた教室から激しい転倒音が聞こえたり先ほどまで賑やかな会話をしていた部屋が静まりかえるなどのちょっとした異変が起きていた。
「何か今日はいつもと学校の様子が違うな?」
鎮が異変に気付く。
「そうなんだ、私前の学校は人間しかいない女子高だったから新鮮な感じ♪」
「え? そうだったんだ、じゃあ今日は皆の妖気に当てられたのかもな?」
「そ、そうなのかな? 私、早くこの学校に馴染めるように頑張るよ」
モニカの転校前の話を聞き、鎮が正解すれすれの仮説を言う。
逆なのだ、モニカの妖気に他の学生達が当てられたというのを人間の身である鎮には理解できていなかったのである。
だが、妖気に関する問題は後に解決する事になる。
下校する二人、鎮はモニカが学校を出てから別れて帰宅せず自分に付いて来ている事に。
「あれ? 真神さんの家って、俺の家と同じ方向なの?」
一緒の方向なら納得できると鎮は思ったが、近所にモニカの一家が越してきたと言う田舎特有のご近所ネットワークの情報は聞いていない。
「違うよ、私は半分は送り狼だから根岸君を送ってるんだよ♪」
モニカが答える。
送り狼、送り犬とも呼ばれる妖怪で山道を通る旅人を里や家まで送り届ける。
ただし、送っている旅人が転んだらその旅人を食い殺す事で知られてもいる。
旅人が転ばず帰宅し、礼を言ったら帰って行く。
そんな送り狼の習性を鎮は思い出した。
「え~っと、まさか俺を転ばそうとか食おうとかしないよね?」
立ち止まってモニカに尋ねる鎮。
現代では妖怪も市民、そんな事をすれば警察沙汰になり殺人として法で裁かれる。
「し、しないよそんな事! ただ、昼間みたいに舐めちゃうかも?」
モニカも立ち止まり、食う事は否定しつつも何やらプルプルと体を振るわせる。
「いや、待って! 変身しかけてない? 理性を保つんだ!」
モニカの肩に手をかけて呼びかける鎮。
「……ご、ごめん! 変身しちゃう~っ!」
モニカがセーラー服を着た獣耳っ娘の姿からみるみるリアル動物に近い人狼へと変化をはじめ自分の肩を掴む鎮の腕を払い突き飛ばす!
「や、やべえ!」
突き飛ばされて尻餅をついた鎮、目の前には金毛に覆われた人狼となったモニカが
雄叫びを上げて押し倒しに来た。
「ま、またかよ~~~っ!」
鎮は抵抗することができず、再びモニカに顔を舐め回され続ける事となった。
小一時間後、モニカの涎でベトベトになった鎮。
「……ごめんね! ごめんね~~っ!」
泣きながら謝るモニカの手を引きながら自分の家である日本家屋へと帰宅する鎮。
「ただいま」
「……お邪魔します」
モニカも根岸家へと入る。
帰宅に気付いてやって来た鎮の母親がモニカを見て何を勘違いしたのか上がるように勧める。
モニカが鎮を恐る恐る見る。
「まあ、母さんも良いって言ってるしどうぞ」
鎮も了承する。
モニカは根岸家の居間に通され、緑茶と大福でもてなされる。
鎮は、自分の部屋に荷物を置き着替えを持て風呂へと向かった。
モニカは鎮の母に鎮の制服を汚した事をあやまった。
鎮の母も笑てモニカを許した、そして風呂上りでシャツとジーンズ姿の
鎮も居間へとやって来る。
「いや、ほんと落ち込まないでくれよ大福食って」
鎮が落ち込むモニカを励まそうとする。
「どうして根岸君はそんなに優しいの?」
「いや、優しいってわけでもないけどさ」
「根岸君は凄い優しいよ! 普通は気持ち悪がるよ?」
鎮に問いかけるモニカ、いつの間にか鎮の母親は消えていた。
「まあ、それもわかるけど真神さんのは生理現象だし俺犬好きだし」
「犬! 私、ワンちゃん扱いなの!」
犬と一緒にされてモニカが怒る。
「いや、そういうんじゃなくてま俺なら良いから真神さんの事嫌いじゃないし」
鎮が思ったことを口に出す。
「え? それってもしかして私の事!」
鎮の言葉にモニカが頬を赤く染める。
出会って一日も経っていない二人だが、ここでモニカが鎮に意識されていると気付いた。
モニカは鎮が自分に好意を抱いている事を場の空気から感じ取った。
「あ、ありがとう! もう帰らないと、また遊びに来ても良いかな?」
気恥ずかしくなったモニカは大福を持って立ち上がり帰ろうとする。
「え? ああ、また来てな♪」
鎮がモニカに答える。
このやりとりでモニカと鎮の間にフラグが成立した。
送り狼は、送った相手に礼を言われたり食べ物を与えらえるという対処をされると
送った相手を守るとも言われる。
そんな送り狼の妖怪でもあるモニカと鎮に自覚はないがこの時、二人の魂が絡み合いパスが繋がった。
いわゆる運命の赤い糸で結ばれたという状態になったのである。
人間同士の付き合いの場合、中々魂が結びつくことはないと言われている。
だが、人間と妖怪の場合はあっさり魂同士が繋がってしまうのだ。
妖怪や幽霊が人間に憑依する。
憑依とは、人間の体に直接憑依する以外にも妖怪は目を付けた相手の魂にパスを繋げる事ができる。
狐憑きなど、代々憑りつかれている呪われた家系と呼ばれるものは妖怪が魂にパスを繋げた事で繋がれた人間の子孫の魂にもパスが繋がれるのだ。
そうして魂をパスで繋いだ人間と妖怪の交流を
翌朝、鎮は狼の鳴き声で目が覚めた。
それと同時に、何やら自分の全身をアニメやマンガで見るオーラとか気のような金色の光が覆っているのが見えた。
目を閉じて又開くとその光は消えていた。
「な、何が起きてるんだ?」
洗面や着替えに朝食と支度を済ませて家の戸を開ける。
「おはよう、根岸君♪ 一緒に学校行こ♪」
セーラー服姿のモニカが立っていた、尻尾をフリフリし笑顔でお出迎え。
「お、おはよう真神さん」
驚きつつも挨拶はする鎮。
「昨日の今日でごめんね、私の事はモニカって呼んで下さい!」
一気に距離感を縮めて来るモニカに、犬好きな鎮は子犬が縋って来るような感覚を覚えて抗えなかった。
「わかった、モニカ」
呼んでみる鎮。
「はい、鎮君♪」
モニカも可愛らしい声で鎮を名前呼びで返事をした、尻尾がブンブン揺れている。
モニカと出会った時、鎮は再び自分が金色のエネルギーを発しているのが見えた。
よく見るとモニカも体から金色のエネルギーを発していて、鎮とモニカの金色のエネルギーは繋がっていた。
「え~と、モニカ? 金色に光が俺達を繋いでるんだけど?」
「それ、私の妖気だよ♪ 鎮君と私、昨日から魂が繋がっちゃったみたい♪」
さらっと笑顔で答えるモニカ、唖然とする鎮。
「え? それってもしかして俺、モニカに憑かれたって事?」
話を聞いてこれが人間と妖怪のカップルに起こる憑き愛だと気付いた鎮。
「うん♪ 鎮君、私とお
モニカが事後承諾状態で告白する、瞳を子犬のように潤ませて尻尾を振りながら。
「そんな事言われてもズルいぜ、断れないよ!」
鎮はモニカに陥落して、彼女を受け入れた。
二人は一緒に学校へと登校して、クラスに大騒動を巻き超す。
「鎮君、大好きです♪」
「俺も、モニカの事が好きになった」
出会って即日でカップルになってしまった二人。
この後、交際を始めたモニカと鎮はやがて結婚し子を成す事になるのであった。
〈完〉
狼さんと憑き愛ました ムネミツ @yukinosita
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