堕と天使エルエル

渋谷かな

第1話 天使エルエル1

 この世界に幸せなんてない。


 僕はそう思って生きてきた。なぜなら・・・・・・。

「ギャアアアアアア!?」

 バナナの皮で滑って転ぶ。歩いていては電信柱にぶつかる。ポケットに穴が開いていてお金を落とす。不幸ばかりだからだ。

「何のために僕は生きているんだろう?」

 僕は遠くを見つめる。

「おい! 落ちる!」

「落ちるじゃない!? 僕の名前は堕(こぼつ)だ!?」

 最大の不幸は自分の名前。僕の名前は平凡な名字の鈴木とキラキラネームの堕天使の堕でこぼつと読むらしい。子供が学校でいじめられるとか、何も考えない親が自由につけた名前である。

「ああ~、空から幸福をもたらす天使でも落ちてこないかな?」

 僕は天に向けて幸せを願った。


「ギャアアアアアアー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 空から何かが落ちてきた。

「ドカーン!」

 そして何かが地面に逆さに直立不動で突き刺さり砂煙を上げる。

「なんだ!? なんだ!? 隕石か!?」

 僕の目の前に何かが落ちてきた。

「イタタタタタタタター。」

 地面に落下して痛そうにしている一人の少女が現れた。

「なんだ!? この子は!? 人間が地面に落下して生きているはずがない!? きっと危険人物に違いない!?」

 僕は瞬時に身の危険を感じ取った。

「おい、大丈夫ですか? とか、手を貸しましょうか? とか空から折ってきたカワイイ女の子に対して気づかいはできないのか?」

 空から落ちてきた少女の第1声は名がゼリフの説教だった。

「えっ!? あ、ああ、大丈夫ですか?」

 僕はたどたどしく相手を気遣う言葉を言ってみた。

「大丈夫な訳がないだろう! おまえか! 私を呼んだのは!?」

「え? 呼んだ?」

 僕は読んだ覚えはなかった。

「そうだ! 「ああ~、空から幸福をもたらす天使でも落ちてこないかな?」と天に願っただろう! だから私はやって来たのだ!」

 少女は空からやって来たという。

「はい?」

 話についていけない僕はまだまだキョトンとしている。

「初めまして。私、こういう者です。」

 少女は僕に名刺を差し出す。

「天使エルエル?」

「はい! 恵まれない哀れな子羊に祝福を! 私は楽天使エルエルです!」

 現れた少女の正体は天使だった。

「はあっ!? 天使!?」

「は~い! 天使です! アハッ!」

「天使なんかいるもんか!」

 未だに天使を信じられない僕。

「エルエル? ふざけた名前だな。」

「両親が「天使の名前なら語尾にエルをつけておけばいいだろう」という安易な発想です。私の友達は私のことをエル2とも呼びます。」

 天使エルエルの名前の由来である。

「じゃあ、そういうことで。」

 僕は天使を見なかったことにして帰ろうとする。

「いや!? 置いていかないで!? 怖いよ!? 人間界なんて、右も左も分からないよ!? お願いだから一人にしないで!?」

 天使は僕に泣きついてきた。

「は、離せ!? 天使って言うんなら、勝手に天界に帰ればいいだろ!?」

「私が天界に帰れるのは、自分を呼んだ者が幸せになった時なのだ!」

 天使が天界に帰る条件は、天使を人間界に呼んだ僕が幸せになることだった。

「僕が幸せになる? 無理無理、あり得ない。」

 なぜなら僕が幸せになる予定がない。

「そんなこと言わないで!? お願いだから幸せになってください! 私は天界に帰りたいんです! 本当なら今頃私は温かい雲のベットで幸せに寝ているです!」

 結構、幸せな天使の生活。

「それを聞くと、ますます幸せになりたくなくなるぜ。」

 不幸な僕は他人の幸せが大嫌いだった。

「そ、そんな!? 何て冷たい人間なんだ!?」

 天使は人間不信に陥る。

「好きに言うがいい! 僕の名前は堕ちると書いてこぼつと読むのだ! ワッハッハー!」

「おお!」

 天使は何かに気がついた。

「堕(こぼつ)と天使の私のを合わせると二人で堕天使だ!」

「マジか!?」

「アハッ!」

 二人に奇跡的な運命を感じる。

「これからもよろしくな。堕。」

「ついてくるな!?」

 僕は奇妙な天使と出会ってしまった。

 つづく。

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