好きだった女子と妹が不特定多数と乱痴気騒ぎしていた現場に遭遇したので、縁を切ろうとしたらすり寄られた。でももう遅い。

冷涼富貴

高校編

フラれ気分で交尾・乱痴気・Rock'n'Roll

「ごめんなさい。藤川くんのことは、友達でいたいとすらも思えないの」


 一大決心をして、人気のない裏庭に想い人である相原聡美あいはらさとみさんを呼び出し告白したら、ときメモの詩織レベルの辛辣な断り文句でぶったぎられ。

 あわれ、俺の恋は破れた。


 しかしそこまで言われるほど嫌われていたのか俺は。

 なんでだ。なにが悪い。俺の名字が藤川で出席番号が22番だからあだ名が『球児』なのが気に入らないのか。俺はあんな偉大な投手に例えられて、この上なくうれしいんだぞ。


 言いたいことだけを言って、一秒でも惜しいとばかりに足早に裏庭を去っていく相原さんに対して、俺は何も言えなかった。汚物を見るような目で、好きだと告白してきた男を睨むってひどくね?

 まあいい、失恋は慣れっこだ。いつまでも実りのない恋をするなんて、俺の性分に合わない。さ、次行こう、次。


 ──なんて割り切ったはずなのに。


「アンタ……聡美に告白してフラれたんだって? ダッサ。だいいち聡美がアンタと付き合うわけないじゃないの、月とスッポンレベルじゃないっての。釣り合わない」


 帰宅したとたん、義理の妹である美々みみから罵倒された。なんで知ってんだこいつ。


 ちなみに、俺と美々は非常に仲がよろしくない。一方的に嫌われているというほうが正しいか。

 PTAの会合でオヤジと義母さんが知り合い、再婚したのが一年前だが。

 そりゃ同じ高校に通うだけの赤の他人がいきなり義理の兄妹になったら、戸惑うか嫌悪するかのどちらかしかないわな。

 ちなみに兄妹と言っても学年は一緒だ。生まれは俺のほうが早いので兄となっただけで。


 そしてなぜか美々は相原さんとは仲がいい。そのおかげで相原さんの存在を知ったわけではあるが、仲の悪い妹が兄の恋路を応援などしてくれるはずもなく。

 遠くから見てるのにも飽きた結果、単身カミカゼ特攻して玉砕したわけだ。


「……相原さんから、聞いたのか?」


「決まってるでしょ。すっごくイヤそうに連絡してきたよ。アンタはそこまで拒絶される嫌われもんだって、気づけよバーカ」


 妹じゃなきゃぶん殴ってるような態度だが、さすがにそれをするにはいろいろと環境がよくない。

 言いたいことだけ言ってさっさと自分の部屋に戻る美々を尻目に、俺は相原さんの性格の悪さをそこで初めてかみしめた。


 しかし、なんで美々と相原さんって、仲いいんだろ。あの二人、確かに同じクラスではあるけど、どちらかというと美々はおバカで遊んでそうなウェイ系女子だし、相原さんは見た目も清楚な学級委員もこなす真面目タイプなんだけどね。


 こりゃ、明日からクラスでいろいろ言われそうだなあ。ま、小馬鹿にしてくるようなやつは物理的に黙らせとけばいいか。



 ―・―・―・―・―・―・―



 幸いにも、俺が相原さんにフラれたという噂は広まってなかった。

 おかげで相原さんのことは酸っぱい青春の一ページとして割り切ることに成功する。甘さなどどこにもなかったからな。アスパルテームレベルの作られたような甘さすら皆無だった。

 なんで俺、相原さんのこと好きになったんだろ。気づけば好きになってた、って感じなのだろうか。


 まあいいや。今は深く考えたくない。


 そう切り替えして相原さんの次の恋愛対象を探そうかな、なんて思っていたとある夏休み直前の日。

 三時限目の授業が始まってすぐ、俺は腹が痛くなり、トイレで一仕事をした後に正露丸を取るため部室へ向かう。そうして写真部の部室に入ると、なぜか顧問の坂本先生が中にいた。


「先生、なにやってんすか」


「それはこっちのセリフだ。今授業中だろう」


「ああ、俺は腹痛起こして、正露丸を取りに来ただけなんすけど」


 部室の薬箱をゴソゴソと漁り、正露丸を見つけて三粒ほど飲んでから、坂本先生がなにやら見たことのないカメラを手にしているのに気づいた。


「先生、なんすかそのカメラ? 見たことないですね」


「おお! やっと手に入れたんだよ、毎秒10連写できるデジタル一眼レフ。まあボーナス二回分がぶっ飛んだけどな……」


「うぉ! すげー!」


 坂本先生は写真部の顧問で、俺が空手をやってた頃の道場の先輩だ。

 もともと顔見知りだったせいもあり、この高校に入ってから非常に仲良くなっている。

 俺があまり興味のなかった写真部に入ったのも、先生に『廃部危機だから幽霊で構わない、入部してくれ』と頼まれたからだ。空手部の顧問をやってるとばかり思ってたから俺は面食らったけどさ、先生の趣味が写真撮影なんてその時初めて知ったよ。

 ま、道場に通っていた頃はいろいろお世話になったから、断るつもりはなかったけど。


「今日の朝やっと届いてな……何か試し撮りしてみたいんだが」


「あ、なら、飛んでる鳥でも撮ってみたらいいんじゃないっすか?」


「ふむ……なるほど。屋上で撮ってみるかな」


「なら、俺も一緒に行ってもいいっすかね? カメラの性能を目の当たりにしたいっす」


「授業はどうしたおまえは……まあいいか。よし、屋上へ行ってみよう」


 ちなみにここの高校、屋上は立ち入り禁止で、扉は鍵が閉められてある。

 だがさすが不良教師、職権濫用することも授業を抜け出した生徒をそこにつき合わせることにも抵抗がないようで。


 というわけで屋上へのカギを取ってきた坂本先生についていく。

 いつもは人気ひとけなどない、屋上へ通ずる階段近辺。今は授業中だから余計に静かでおかしくない。


 だが、その日はなぜか、屋上への扉近くに、いかつい男子どもが二、三人ほどいたのだ。


「なにしてるんだ、お前ら。今は授業中だろう」


 不良がつくと言えどそこはいちおう教師である。坂本先生は階段でたむろしている男子生徒にそう声をかけた。


「げっ! 坂本!」


「まずい、早く連絡しろ!」


「球児までいるぞ、やべえぞおい!」


 なにやら慌てふためいている生徒を尻目に、坂本先生は階段を一歩一歩上って行った。


「いいからどけ。だいいち屋上は生徒が入れないだろうが」


「い、いや、ここはいま立ち入り禁止で……」


「だからこうやってカギをもって教師が行こうとしてんだよ。どけ」


 早く新しいカメラで撮影をしたいせいか、坂本先生の語気があらぶっている。


 屋上に、何か見られるとマズイものでもあるのだろうと、そのとき俺は勘づいた。

 ガラの悪いこいつらのことだ、どうせ授業サボってタバコでも吸ってんだろ。


「い、行かせるわけにはいかねえ!!!」


 そう言って坂本先生と俺の足に縋りつく男子生徒。

 だが抵抗むなしく、「邪魔すんな、どけ」とあっさり振り払われ、哀れ階段を転げ落ちてしまった。俺もひとりだけゲシッと足蹴にし振り落とす。


「ああああああぁぁぁぁぁぁ!!!」


 断末魔のような叫び声をあげ、階段を転げ落ちるバカどもの態度に、先生も察したようで。


「サボりタバコを満喫してる奴らがいるみたいだな。ちょーっと教育的指導が必要みたいだ」


「あ、なら付き合いますよ」


 そんな会話をしつつ、屋上への扉を開けた。


 が。


「…………」

「……………………」


 たぶん、俺も坂本先生も、今までの人生の中でいちばん意味不明な固まり方を経験したに違いない。

 そこに広がっていたのは、不良生徒が喫煙しているなどというありがちなシーンではなく──そこら中に制服を脱ぎ捨て、全裸で絡み合っている男女十数名の姿だった。


 ……コレ、乱痴気パーティーですかね? 学校内で? 屋上で? しかも授業中に?


 それまで快楽のことしか頭になかったであろう、絡み合っている男女は、思わぬ訪問者に一瞬で現実へ引き戻され、同じようにフリーズしていた。


 ──すげえ、まるでコン○リーツの野外○習シリーズみたい。


 俺も二の句が継げずにいながらも、そんなことを考えてしまったが、視界に入ってきた人物に見知った顔が数名あり、さらに衝撃を受けてしまう。


 校内史上最もバカな行為をしていたやつらに交じり──裸の男に組み敷かれている義理の妹である美々と、お尻を男子に掴まれている、つい最近告白して見事に振られた相手の相原さんが、痴態を晒していた。もちろん全裸で。


 あああもうこれ本当にコ○プリーツのエロゲの世界だ! パクリとか言われても否定できないぞ! オマージュということでよろしく!

 あれはエロの妄想の中で感じるからこそいいものなのに、こんなの現実で見たらドン引きしかねえよ! どうすんだこれ!


「……き、きゃあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」


 残念ながら、乱痴気騒ぎしていた生徒たちが悲鳴を上げたのは、坂本先生が手にしていたカメラで毎秒10連写の速射砲をかまし始めてからだった。イッツトゥーレイト。


 しかし坂本先生もやるなあ。普通なら、『なにやってんだおまえらは!』とか叫び声をあげるもんだろ。それすらもせずに証拠画像を残す方を優先させるとは。

 俺はと言えば、余りに現実離れした光景に、美々を叱り飛ばすことすらできなかったってのに。


 まあ、そのあとは当然ながら阿鼻叫喚の世界が繰り広げられ。

 数日後、屋上で変なことしていたバカどもと、ついでに見張りの生徒たちは全員退学となりましたとさ。

 めでたしめでたし。





 ……で終わってくれればよかったんだけどねえ。タメイキ。



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