しんりゃくしゃ

「このほしは、われわれがしぇんりゃ、しんりゃくする!」

「「「かぁわぃぃぃ!」」」

 ある日突然、宇宙からいっぱい宇宙船がやってきた。

 血の気の多い国が一杯ミサイルとか撃ったけど、全部『食べられて』しまった。

 私もその様子を見てたけど、ほんとにびっくりした。世界が終わるな―って思った。抵抗無意味。

 ブラックホールみたいなやつが出てきてミサイルでもなんでも飲み込んじゃったから。

 そんで、どうしようかってなったとき、宇宙船から出てきたのが。

「ぼくた、あ、われわれがおまえらを、えっと、かんりしてやる!」

 全身モフモフ三頭身のくまみたいな小さな宇宙人だった。

 多くの地球人はその姿に心を奪われたよ。私もその一人。

「みんな騙されるな! あれは俺たちを油断させるための——」

 地球に来てから一年間。特に暴力行為の一つも起こさず、むしろ石を投げられたりすることばっかりだったのに、彼らは抵抗しなかった。

 というかモフモフにすべての衝撃は吸収され、爆発も薬品も何もかも彼らの技術によって無効化されてしまう。

 徹底した防御。

 その状況を見聞きし、体験した多くの地球人はこう思った。

【今更陰謀論とか言ってんじゃねえよ】

 と。

 声高に危険を叫び続ける人はむしろボコボコにされ、その様子を見てモフモフたちがボコボコになった彼らを包み込んで守る。

 そんな光景が展開され続けてきた。

 そしたらね。テーマパーク化しますよね。宇宙船。

「ようこそみなさ、あ、よくきたなどれいども!」

 くはぁ!

 手足が短いから歩くのも一苦労なモフモフたち。かわいすぎる。

「いっしょにおへや、あ。あの、その、えっと……」

 言葉に詰まってしまったモフモフに、隣のモフモフが何かを囁く。かわいい。

「これからおまえたちを、えっと、ろうやにつれていくぞ!」

 えっへんと胸を張っている。よくできました。

「あ、なでちゃだめ……あ、やめないで」

 このモフモフたちは『ミミック族』というらしい。まぁ、相手の言語がよくわからなかったので地球で勝手につけた名前なんだけど、その理由が。

「こら、みんな真面目に働きなさい」

「あ、せんちょー!」

「おはようございます、せんちょー!」

「はいおはよう。お客様もここでモフモフされず、お部屋に行って一緒に遊んでください」

「あ、ドモ……」

 船長と呼ばれる人たちがマジで怖いのだ。

 見てくれ?

 ザ・侵略者。プレデター。異星人。エイリアン。宇宙人。

 形容しがたいグロテスクな顔をしているし、体も不定形なんだそうだ。

 今は人型の入れ物に入ってるから、顔以外は人間っぽいけど。

 そんなのが最初に出てきたら攻撃されるよねって顔してる。

 だからだろうねー。いまだに陰謀論者が消えないのは。

「はやくいこー!」

「あ、うん」

 モフモフたちに手を引かれお部屋に行く。ここはまぁなんていうか、いわゆる猫カフェ的な奴。

 モフモフたちが働いていて『接待係』と『お仕事係』に分かれている。

 あっちを見てもモフモフこっちを見てもモフモフ。地球人は片っ端から癒されている!

「おねーさんは、あ。おまえはなにかのみたい?」

 モフモフがテーブルの下からちょこんと顔を出している。人間のサイズに合わせてあるからちょっと高すぎるんだけど、これがかわいい。私はこれで年間パスポートを購入しました。

「うーん。お水でいいかなー」

 正直ここのドリンクはグロいんです。まだ地球基準じゃないんだそうです。

「そっかー」

 あれ、落ち込んじゃったかな?

「お水と一緒に、お菓子の詰め合わせセットひとつ、くださいな」

「はぁい!」

 お菓子だけはさっさと基準に達したんだけどね。

 というのもモフモフたちが地球のお菓子を気に入ったらしく、一年でいろんなものを作れるようになっている。

 今は和菓子がブームだそうだが、今日頼んだのは洋菓子だ!

「おねーさん、おまたせしました!」

 モフモフが品物を届けてくれた。背がちっちゃくて届かないので下で受け取るとテーブルに乗せる。

「またね! あ、ちがう。えっと」

「『おとなしくしてろ』でしょ?」

「あ、うん。そう!」

 モフモフをなでると嬉しそうに身をよじり、ちょっと名残惜しそうに仕事へ戻っていった。

 もうなにこれ天国。

「あ、お菓子おいしい」

 太るわー。


 そんなある日。一つの事件が起きる。

 というのは、友好的外交だかなんだかで、テレビとかネットとかに彼らの情報番組みたいなのが流れる。その番組で放送事故が起きた。

『ふっふっふ。視聴率はどうだった?』

『20パーセント、です。いっぱいみてもらえました!』

『ふっふっふ。これでまた地球侵略へ一歩近づいたな』

『はい!』

『いいか。決して奴らに『地球侵略が友好的な星を増やすための外交』だと悟られるなよ?』

『はい、えっと?』

『うむ。今まで通りいっしょうけんめいやればよいのだ。ふっふっふ』

『はい!』

 モフモフと、彼らが暮らす宇宙船(という名のテーマパーク)を管理する船長との会話が流れた。

 いわゆる切り忘れという奴だ。

この調子で終始ほほえましい裏側を放送し続けてしまい、宇宙船の船長たちの集まり『船長会議』のメンバーが謝罪する事態となった。

 陰謀論者がここぞと騒ぎ立てたが、話してる内容はお花畑だったけど。

 まぁ、ヤラセだろとか思わなくもないけど、最後の『あ、ヤベ』っていう素の声と、慌てて消そうとしている様子がもうこれ以上ないくらいだったもので。

 あれが演技?

 だったら誰も見抜けないよ。

 動画サイトでは非公式の切り抜きとかいっぱい作られてるし。それを船長たちが『やんないで』って報告上げたり対応してるし。

 まぁ、なんていうかそれでも陰謀論者はめげなかったけどね。

 事あるごとに『あいつらはー』って騒いでたけど、地球に別の宇宙人が侵略しに来た時、手のひら返したよね。

 地球人と一緒に、必死になって戦ってた彼らを『敵』だと認識できるのはさすがにちょっとね?

 それも『ヤラセ』だ! って言ってる奴がいたけど、うん。死傷者出すヤラセってなによ。

 そんなことよりモフモフとスイーツだ!


「ふっふっふ。この間の失敗はいまだに尾を引いてるな」

「ごめんなさい」

「大丈夫。君たちは悪くない。それより次の作戦だが」

「あ、ぼくさいきんはやりのおかしをしらべました!」

「えらいな。さすがだ。でもお菓子はもう少し後にしようか」

「はーい」

「ぼくはちきゅうではやってるアニメをしらべました!」

「ほう」

「だいにんきみたいです! おもしろかったです!」

「そうかそうか。ではそれとタイアップ出来ないか交渉してみるとしよう。ふっふっふ。地球侵略が進むわ!」

「「はい!」」

「でも、いつもきてくれるおねえさんは、おかしのほうがすきだよね?」

「だいじょうぶだよ。おかしもしんさく、つくるから!」

「やたっ」

 その日。宇宙人たちは通算二回目の放送事故をやらかした。

 そして私はその動画を保存した。

 地球は今日も平和だった。

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