ヒーローショー

「ぐわっはっはっはっは! 貴様らを三日坊主にしてやろうか!」

「っく、させるか、サボルダーめ!」

 今は失われつつある、デパート屋上の常設ステージ。

 その一つで俺はヒーローショーをやっている。

 その時期の、戦隊ものの着ぐるみやヒーロースーツを着てアクションをするのだ。でも。

「いや、客一人もいないし!」

「お前そういうこと言うなよ」

 間抜けな顔をした怪人サボルダー役の同僚に諫められる。

「でもいないならやる意味ないでしょ!」

「この屋上のどこかでヒーローショー見てる人がいるかもしれないだろ」

「声聞こえてねぇー!」

「いいから最後までやれ。本番の練習とでも思って!」

 本番の練習ならいつもしてるじゃねえか!

「あぁもう、くらえサボルダー!」

 俺は必殺熱血天才キックを繰り出す。天才ってなんだよというのは触れないお約束だ!

「ギャァァァ!」

 ヒーローの一撃を食らって悪が退散する、シナリオではそんな感じだったのだが。

「待てぇぇぇぇぇぇ……」

 突如、空から声が降ってきて、そのまま地面に落ちていった。事件である。

「え、っちょ、人が落ちた!?」

 サボルダーと一緒にビルの下を覗き込んだが誰もいなかった。事件が起きた様子もなかった。

「今の、何?」

「さぁ?」

 二人して顔を合わせて混乱していると。

「ぅまぁ違えたぁぁぁぁ!」

 左方向から声が聞こえたと思ったら、右のほうへすごい速度で何かが飛んで行った。

「あ、白」

 ミニスカの女の子だった。

「ふんぬぁ!」

 女の子は空中で急停止すると、こっちに向きなおった。パンツ丸見えで。

「サボルダーを倒させはしないぞ、ブレイブマンめ!」

 空中で仁王立ちを決めているが、パンツ丸見えだ。白だ。

 ブレザーというかセーラーというか。どことなく統一された既製品っぽい、いわゆる制服っぽい服を着ている。

 そして頭にはちっちゃな帽子がのっている。よく落ちなかったな。

 俺たちの視線に気づいたのか、女の子が下を確認する。めくれあがってることに気づくと。

「こ、この変態が—!」

 なぜか俺に熱血天才キックを繰り出してきた。

「ぐはぁ!」

 直撃を受けた俺はステージまで吹き飛ばされる。階段の角に頭をぶつけた。痛い。

「いっつもサボルダーをいじめおってからに。今日という今日は許さないぞ!」

 スカートを直しながら、女の子が接近してくる。やだ、この子怖い。

「っちょ、待って。君は一体何なんだい?」

「サボルダー。もう大丈夫よ。正義面していじめる悪党は私が退治してあげるから」

「いやそうじゃなくて。どこのだれで、何をしに来たのか……っていうかどうやってきたのかというか」

「大丈夫。私はサボルダーの味方よ!」

 何も大丈夫なことはないんだが。

「パンツ見えてるよー」

 とりあえずお話を聞いてもらわなきゃいけないので、立ち止まってもらうためにセクハラをした。訴えられたらどうしよう。

 思惑通りスカートを押さえて止まった。嘘だとわかったら今度は顔を真っ赤にして、今にも詰め寄ってきそうだったので。

「君は何者だ!」

 とりあえずそれっぽいポーズを決めて女の子に聞いてみる。

「貴様に名乗る名前などない!」

「おっと、そっち系だったのか」

「なんの話だ!」

「いや、突然蹴り飛ばされたらそりゃぁ誰かって気になるじゃない?」

 他にも気になることがありすぎるけどな。

「……貴様だってサボルダーのこと蹴りまくるじゃないか。ひどいぞ!」

「いや、サボルダーとは名乗りあった後に蹴るからね?」

 論点はそこじゃないんだけどな!

「っは、そうだった!」

 でも効いたみたいだからよかった。

「では改めて。君は何者だ!」

「ふっふっふ。ならば教えてやろう。私は宇宙怪人保護機構特殊課秘密部隊所属、ヒミコ曹長だ!」

 階級低っ。

「ヒミコ曹長か!」

「そうだ!」

「でも秘密部隊っていうことは名乗ったり姿を現したりしちゃいけないんじゃないのか!?」

 俺の問いに、ヒミコの顔がみるみる青くなっていく。

「あ、どうしよう」

 これ、ヤバイやつなんだな。


「でね。何とか受かってね。ようやく怪人を保護するっていう仕事につけたと思ったらね。怪人なんてほとんどいない辺境の星に配属になっちゃってね。私、いっぱい怪人を守りたかったのよ!?」

「うんうん」

 ヒミコちゃんからいろいろお話を聞いた。

 ざっくり言うと、彼女は宇宙人だ。で、宇宙怪人というのを保護して回るお仕事らしい。

 でも新人研修ってことで、難易度の低い星に配属されてしまって不満が溜まっていると。

 そしたら怪人サボルダーを見つけて観察してたんだと。

 何日も屋上で戦う俺たちを見ていたが、俺の怪人いじめに我慢できなくなって飛び出してきたと、そういうわけだった。

「でも、やっぱり地球に怪人なんていないのね……」

 このままだとサボルダー役の相方がアブダクションされかねなかったので着ぐるみを脱いだ。そして泣かれた。イマココだ。

「いやぁ、どうだろうなー。地球は俺たちにとっては広いからなー。怪人いるかもしれないよー?」

「そ、そうだよ。僕はサボルダーの着ぐるみだったけど、もしかしたら、ね?」

「うぅー。頑張るぅー」

 この調子でずっと泣いているんだけど、どうしよう。俺この後バイトあんだけど。

「まぁ、とりあえず宇宙船、だっけ? そういうのに帰ったらどうかな?」

「うん……そうする」

 やんわりと帰宅を促そうとしたのだが。

『ヒミコ曹長』

 突然空中にモニターが出現した。

「はひぃ!? パトラ先生!?」

『パトラ大将と呼べと、何度言ったらわかるのかな?』

「だ、だって先生ですしぃ」

『まぁいいわ。あなたとお話をしていると長くなるので簡潔に。謹慎とします。理由はお分かりですね?』

「え?」

『宇宙船も取り上げます。謹慎が明けたら迎えをよこします。それまで地球観光でもなんでも楽しんでなさい。いいですね?』

「え、えぇ!?」

 おっと、ヤバイ流れだ。逃げろ!

『あぁ、そこの地球人。そうです、止まりなさい。彼女をよろしくお願いしますね』

「な、なんで俺が!?」

『あら、だってあなたしかいませんもの』

 あいつ逃げやがった!

「待ってください先生!」

『大将です』

「私今からこの人達消しますから、宇宙船を持ってかないで! おうち無くなっちゃう!」

『……保護対象の惑星住民に許可なく接触するのは死罪だとわかった上で言ってますか?』

「そ、そうですけどぉ」

『私がすごーく、周りの大人たちに頭を下げて回ったのは、わかりますか?』

「ご、ごめんなさい」

『わかればよろしい。それではよろしくお願いしますね?』

 っちょ、ちょっと待て!

「俺を巻き込まないでくだ——」

『私の指先は今、太陽系くらいなら吹き飛ばせるミサイルのスイッチに触っています。くしゃみをしたら大変ですね?』

 ひどい脅し文句があったもんだ。

「いや、俺関係ない——」

『は、は……』

「あとは任せてください!」

『快く引き受けてくださってうれしいわ。それでは』

 そういうとモニターが消えた。あとに残されたのは。

「ご、ごめんなさい」

 涙目の女の子と、バイト遅刻確定のおっさんだった。

「……はぁ」

 こうしてヒーローショーに一人、キャストが追加されることになった。

                         

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