銀行強盗
「銀行強盗だ、手を上げろ!」
俺は犯罪者だ。
悪いことばっかりやってきたし、それしか知らなかった。
だからこんなとこで銀行強盗をやる羽目になっている。
「……強盗だぞ!」
「あーハイハイ。拳銃を持ってこれるようになってから言いましょうねー」
「いや、これ拳銃フォァ!」
銀行の店員が、全員銃器を向けてきた。2、30人はいる店員が、だ。
「え、え、なにこれ。ここ日本?」
デトロイトにでも迷い込んだのだろうか。
「日本ですよ。ここは」
「いやいや、え。拳銃どころじゃないじゃない。それアサルトライフル……って対戦車バズーカとか持ってる奴もいるし!」
「おや、お客さん詳しいですね。元軍人さん?」
「なんで軍人だよ。民間人だよ」
「民間人が拳銃を持ったりしないでしょぉー」
「いやまぁ、まっとうな道を歩んでこなかったから……」
「そうですか。それで拳銃を。おお怖い」
「むしろ俺のほうが怖いわ。なんでバズーカなんだよ」
「いえいえ。小市民の自衛ですから」
「民間人がバズーカ持ったりしないだろ」
「いえいえ。小市民なので持ってるんですよ」
会話がかみ合わねぇ!
なんだこの微妙にズレてる会話。気持ち悪!
「で、なんで銀行強盗なんですか?」
「あ?」
「いえね。普通、警察署が目の前にある銀行に拳銃一丁で押し入ろうなんて思わないでしょう?」
「普通バズーカ向けられるとは思わないからな?」
「あはは。これは一本取られましたね」
取ってねえよ。
「で、理由は?」
「……近いところがここだっただけだよ」
「嘘ですね」
「……嘘じゃねえよ」
「なるほど。太田フトツィ、三十四歳。え、フトツィは本名? あぁ、親が間違って記入して爆笑しながら登録したと。ろくでなしですねぇ」
「おい、なんで俺のこと知ってるんだ。なんだ、おま、何見てるんだ!」
「別に身を乗り出さなくたって見せますよぉ。はい、これ。秘密組織の情報網です」
店員はスマホを取り出すと俺に向けた。
表示された画面には不細工な赤ん坊と個人データが表示されている。
「……え?」
秘密組織とかもう情報が追っつかないんだけど。
「ふむ。母親と父親が残した借金のために暴力組織……暴力組織って会社名ですかこれ。ダサいですね。に、入ったと。そこであらゆる悪事をしてトイチのお金を返済してたと。ところがつい最近子供を逃がしたことがバレて組織から殺されるところだったのを、金を払えば見逃してやると。それで銀行強盗を。バカですねぇ。そしてベタですねぇ」
「余計なお世話だよ!」
本当にな!
「よかったですねー。あなたついてますよ」
「ハァ?」
「クモの糸って知ってます? 宮沢賢治の」
「芥川龍之介だろ」
「そう、それです。知ってます?」
「カンダタの話な。それが?」
「今日はちょうど暴力組織をつぶせっていう依頼が入ってるんですよ。そこでご相談です」
「な、なんだよ」
「暴力組織、アジトの情報持ってますよね?」
「あ、あぁ?」
「買いましょう。金額はそうですね。あなたの借金分、2億ってところですか」
「……ん?」
何を言ってるのかよくわからなかったが。
「まぁ、暴力組織で作った借金ですから潰せば丸儲けの2億なんですけどね。売りますか?」
「売った」
丸儲けはいいことだ。
「はい潰しました」
「早いな」
こいつらが出てってから30分後。きっちり仕事をして帰ってきたようだ。
今ちょうどニュースが流れている。
近くのビルが爆発したと、騒ぎになっているのだ。
「さて、お話いただいたアジトの場所、正確でした。よって報酬をお支払いいたします」
店員の一人がキャリーバックを持ってきた。中を開けると札束の山があった。
「こちら2億です」
「お、おぉ」
これがあれば人生がやり直せる。そう思ったのだが。
「そしてこちらが今回、うちが被った被害の請求書です」
店員が差し出した紙には『請求書』と書かれていた。請求金額は2億円。
「……ナニコレ」
「いえね。あなたが私のスマホを覗くから、セキュリティとかいろいろ変更しなきゃいけないんで。それでこの金額なんですよ」
「あれ、お前が見せてきた奴じゃねえか!」
「そうでしたっけ?」
こ、こいつ……!
「それで、あなたの個人情報とかも、いろいろ残っちゃってるわけですけど、それも変更しないといけないですからね。その手続きに必要な金額です」
「……ん?」
「だってあの組織で生き残ってるのあなただけですからね。誰に狙われるとも限らない。だから人生をやり直しませんと」
最初っからそのつもりだったのか、こいつ。
「お前らぁ!」
「自給1000円スタート」
「んぁ?」
「働きようによっては正社員登用あり。正社員登用時は訓練が必要ですが、窓口オンリーも求めていますので」
「なんの話——」
「当行は人材を求めています。非合法の手段を用いたりしますので、割とその辺に捨てられてもいい、都合の良い人材を」
店員はもう一枚の紙を取り出すと。
「どうです。やり直しますか? 人生」
そう微笑んだ。
こうして俺は銀行員になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます