ガラージ

空き巣薔薇 亮司(あきすばら りょうじ)

第1章 ヴィルマの殺人鬼

第0話 プロローグ1:『G.O.R.E』というゲーム


 それは90年代ロシアで作り出されたある技術が基となっている。


 視覚や聴覚などあらゆる五感を介さず、大脳皮質に低周波を送ることで、仮想的な世界を体感させるその技術は密かに研究が進められていた。


それが表に出始めたのが、のちに『第2の冷戦』と呼ばれる時代の初頭である。


 異様に質の高い兵士を誇った彼の国に対し、アメリカ合衆国が手にした情報を要約するとこうだ。


『それは一種のコンバットシミュレーターとしてロシア軍部に管理されている。あらゆる五感を介さず、比較的安全に実戦並みの訓練が行えるそれは、強力な軍事アドバンテージとして存在感を放つ』


 無人兵器、核兵器が全面的に禁止された戦場において、これは強力な兵器となり得た。そうとあってはみすみす見逃すわけにもいかず、遅れてアメリカも開発を進める。


 その様は、さながらかつての宇宙開発競争を彷彿とさせた。


 一方、その頃の日本は、この両国の争いに対しどんな手を使ったか静観を保っていた。

だが、それでも狡猾さを忘れては国として立ち行かない。


 こうして日本でも例の技術、仮称:潜水型仮想空間技術の研究開発が進められた。なお、仮想空間技術の前に潜水型と付いているのは実際に仮想空間に落ちる際、被験者が潜水する様な感覚を味わったことに起因している。


 よって正式名称はダイバーワールドなどと呼ばれ、それが世界各国で通じる様になった。あるいは数多あまたのサブカルコンテンツに登場した名称の通りVRと呼び習わすこともある。


 まあ、こんな話は前置きだ。

 とっとと本題に入ろう。


 経緯は省くが、かの『第2の冷戦』の後、世界情勢はひとまず落ち着きを見せた。それが薄氷の上に築かれたものといえ、平和は平和。


 平和な世に至り、人々は刺激的な娯楽を求める。

 そこで誕生したのがダイバーワールドを利用したDダイブ型VRゲームである。単に専用ゴーグルをつけて視覚と音で体感するVRゲームと異なり、完全に仮想世界に沈み込むVRゲームだ。


 そこでは剣と魔法のファンタジーだったり、かつてFPSと呼ばれた銃撃戦をモチーフにしたゲームだったりと、多種多様な作品が山の様に築き上げられた。


 その渦中で『G.O.R.Eゴア』というゲームも作り出されたのだ。


 開発したのは無名のディベロッパー。


 大して宣伝もされずサービス開始されたVRMMORPGたるそれは、極めてマニアックな仕様のせいで一部界隈で有名となる。


 西洋風ファンタジーをベースとしつつも血沸き肉踊る様なゴア表現の数々と五感に語りかける圧倒的リアリティー。


 チュートリアル、半自動操作、レベル、インベントリー、遠隔チャット、ファストトラベル、非戦闘エリア。


 あらゆる便利な要素を排したハードコアな作りは、それだけで他のゲームと明確な差別化が図られていた。


 一方でマニアックなゲームは大衆ウケしない典型例でもあったが、後に一部マニアから熱狂的な支持を受け、月額課金制、追加課金なしという敷居の高さに関わらず、収益的に成功の部類となっている。


 さて、この物語が始まるのは、『G.O.R.Eゴア』がサービスを開始して4年目に差し掛かる時期。


 主役は悪意に満ちた殺人鬼、加えて薄ら暗く心を濁らせた魔女。


 ゲーム同様万人ウケしない物語だ。

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