恋桜〜ハナノマイ〜

雪カメ

第1話

時は明治。未だ、妖怪の住まう現世にて、陰陽道の鬼才は受け継がれてきた。天皇直属の異能持ちの特殊部隊として命を受けた者達。

その中でも異彩を放つ若者は安倍晴明以来の天才にして天災と言わしめる程の実力者、桜庭家次期当主である 桜庭 綺朧(サクラバ キロウ)は街中を歩いていた。


綺朧は軍閥名家の桜庭家に生まれて十六歳の頃には軍に入隊し、二十三歳にして少佐になった英才であった。

故に、彼は軍の小隊を一つ受け持っており、その駐屯地まで向かっている途中であった。


ふと、横を黒い靄がスッと通り過ぎると一気に蒼く燃え出した。


「ほう、何かあったのか、玉藻?」


「綺朧様、二つ先の路地にて妖の気配あり、気配からはそこそこの妖気が感じられまする。」


「行くぞ!」


綺朧が駆けると、一陣の風が大通りに吹いた。陰陽道風陣疾風迅雷により、人智を超える肉体能力を引き出す。


路地を駆け抜けると、女が襲われており、妖は蛇のように体を伸ばして女を締め上げていた。


「魔を祓い清め奉る、破邪剣雷!邪気退散!」


綺朧は腰に差した軍刀を抜き一閃する。

蒼い雷を纏った軍刀が妖の瘴気を切り払う。


「こんなところで会えるとは思ってなかったぞ?邪鬼。」


「俺も運がねぇ、よりにもよって桜庭の魔祓い師かよ。まぁ良い、お前さんに伝言だ。

『光の巫女ある時、闇の巫女生まれ、魑魅魍魎携えて人の世を飲み込む。近々世話になるだろう。」


「闇を祓いて魔を滅する力となりて我が刀に宿れ、桜の舞一式『夜桜幻燈』」


桜の花吹雪の如く視界が彩られ、落ち着いた夜の桜の如く散らす花びらは夜を燈す。剣閃が瞬き邪鬼の首が落ちると、靄となって夜の空へと霧散する。


「さて、女子よ、生きているだろうが、大事無いか?」


「はい、体が少し痛むくらいで、問題はありません。助けて頂いてありがとうございます。」


「これが俺の仕事だ。見たところ足をやられているように見受けるが、立てるか?」


「え?足?…うッ!あれ、足に力が入らない。」


「で、あろうな。其方の足に邪鬼の置き土産が残ってるな。玉藻、呪いだけ燃やせ。」


ボウッ!と少女の足が蒼炎に包まれるが、それも一瞬だったために少女は何が起こったのか理解できずに呆然としていた。


「綺朧様、これでどうでしょうか。呪いだけ燃やせたと思います。綺朧様、上手くできたご褒美を下さいな♪」

玉藻がちゃっかりと可愛くおねだりする。九尾がそれぞれゆらゆらと振られている様は期待しているのだろう。だが、あの惨事だけは回避せねばならない。


「却下だ。お前に褒美を取らそうと思うと俺の貞操が危うくなる。もっとマシな褒美なら一考してやる。」


「綺朧様のケチ〜」

玉藻がしゅんと沈んでいじけているが知ったことでは無い。

「あ、あの!貴方様はは祓い師でも有名な桜庭 綺朧様なのですか⁉︎」


「そうだ。今しがた見たものに関して帝国憲法十七条二項に該当するとして機密保持の為、緘口令を命じる。」


「は、はい!えっと、あのっ私話について行けてなくて、さっぱり分からなかったので大丈夫です!」


「まぁ、まだ足が痛むだろう。近くに当てがある。そこで手当しよう。」


そういうやいなや、ひょいっと少女を抱え上げてお姫様抱っこする。


「暴れると落っことすからしっかり掴まっとけ」


綺朧がぶっきらぼうに告げると少女は顔を真っ赤に染めてあわあわと慌てふためき言葉が出て来ない。

その間にも綺朧は、少女を出来る限り揺らさないようにかつ、迅速に道を駆けてゆく。


そして辿り着いた先は帝国陸軍所属特異異能部隊第二分隊の駐屯地であった。


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