第9話

 ルシアは目を開ける。

 ルシアは最後、ヴィエナがどんな顔をしていたか、目を背けてしまってわからなかった。

 不安な気持ちを抱えながら、リアムから渡された手紙の宛先を見ると、リアムに宛てた物だった。

『親愛なるリアムへ。

 私たちの国はね、もう限界だったの。他国に宣戦布告を言い渡され、郊外では貧困と飢餓に見舞われて…。ゴアはお人よしだからみんなを救おうとして、みんなを不幸にしていたの。

 衆愚王。

 私はその言葉が大嫌いだけれど、そう口にする者も少なくなかった。

 みんなを幸せにしたい気持ちをゲイルのように理解し、付き従ってくれる部下もいたけれど、貴族の中にはゴアよりも権力を持つ人たちや、裏切ろうとしていた人たちもいた。リアム、今まで黙っていてごめんなさい。あなたに気苦労をかけたくなかったの。そんな中、人の望みを叶える魔女の話が耳に入り、ゴアは藁にもすがる気持ちでルシアを探し、そして、ルシアは訪れてきてくれた。確かに今のゴアを見ているのは私も辛いわ。だから、私もゴアと共にあるために魔法に頼るわ。どうなるかわからない。でも、ルシアはこの八方塞がりのメヴィウス家を光に導いてくれたわ。客人としてしっかり丁寧にもてなしなさい。家に尽くしてくれた客人を粗末にしては、有能な人物は集まらない。

 成長しなさい、リアム。そして、自由に生きなさい。

 私たちの愛しい子。あなたは人の痛みがわかり、人の幸せを願える優しい子。そして、あなたなら人々を幸せにできる立派な王になれると信じています。そうして、あの子もきっと。

 ヴィエナ』


 ルシアは読み終える。少し救われた気持ちになった。

(なぜだろうか、私にもヴィエナの笑顔が見える気がする)

「ありがとう」

 ルシアは大事そうに折り目に沿って手紙を折り、リアムに返す。


「私のもとにやってきた宰相が言っていた。貴殿のおかげで来た優秀な宰相がな。彼は言うのだ、その魔女は笑っていたかと。私は答えた、いいや、恐れた顔をしていた、と。宰相入った、その魔女は望みを叶えたかったが、その代償は不本意なのでは、と」

 リアムは手紙を受け取り、懐にしまう。そして、ルシアの手を取った。

「もし、不本意だったとすれば、全ての魔法を解いてはくれぬか?」

「はいっ?」

 ルシアは驚いた。

 ルシアはリアムがさらなる野望のため魔法を望みに来たのか、もしくは、殺しに来たのかと思っていた。それが全てを解いてほしいという。


「ならぬ、ならぬぞ!!!!!!」

 デーモンが大声を後ろで出す。

「ルシア?」

 リアム達にはデーモンを姿が見えず、その声に怯えたルシアだけが目に映る。


「それは…」

「できぬと言え!!!!」

「…」

 ルシアは黙って俯く。

「ルシアよ、貴殿は人の望みを叶える魔女であろう?まさか…私の」

 リアムは自分がぶつけた罵詈雑言を思い出す。


「申し訳なかった!!!!!」

 リアムは深々と頭を下げる。

 後ろの兵士たちが困惑する。

「おっ、王…」

 兵士が頭を下げるのを止めようとする。

「構うなっ」

「しっ、しかし…王であるあなた様が」

「今下げられない頭なら、お前の剣でこの体から切り離してしまえ」

 王の言葉に兵士は怖気づきそれ以上何も言わなかった。

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