第3話

 メヴィウス家はそこから過去最高の栄華を誇った。


 栄華が栄華を呼ぶ。


 その財を元に様々な事業を展開し、仕事と財が有望な人材を集め、大国となり、周辺諸国は同盟国や属国へと飲み込んでいく。


 女王であるヴィエナはその繁栄を喜んでいたが、リアムは心配していた。

「母上、よろしいでしょうか」

「どうしたの、リアム。そんなに深刻そうな顔をして?こんなにも順風満帆なのに、一体なにが不満なの?」

 リアムは王の異変を母であるヴィエナに相談しに女王の部屋に訪れた。

 ろうそくの光が二人の顔を照らす。

 不思議そうに何の疑問も持っていないヴィエナの顔を見て嫌気がさして、目をそらすリアム。


「父上の姿を見て…何も思わないのですか」

 リアムは拳を震わせながら尋ねた。

「父上は情報を集めては指示を出しています。無駄なことは全くせず、容赦なく忠臣であっても切り捨て、村や町だって…あんなの、父上ではありません。ただの…操り人形です」

 リアムの真剣な眼差しにヴィエナは驚く。

「なんと不敬な。リアム、その発言はいかに唯一の王位継承者であっても許される発言ではありませんよ?それに…」

 ヴィエナが呆れた顔をする。

「あなたがどう考えていようが、ゴア王は自らの望みを叶えました。それをまるで不幸のように言うなんておこがましいにもほどがありますよ」


「ですが…」

 リアムはもう自分に笑わいかけてくれなくなった父を思い出し、胸が締め付けられる。

「あれは…人の幸せと言えるのでしょうか?母上。それに寂しくはないのですか?」

 リアムは寂しそうな声で母であり、女王であるヴィエナへ尋ねる。

 

 ヴィエナは王との過去を振り返るようにそっと目を閉じる。

「ゴア王とともにした過ごした日々はあなたより私の方が長いわ、リアム。そして、この国の貧しさ、弱さをあの人と嘆いた日々も…。そんな中でゴア王がどれだけこの国を愛していたか、そして、あなたを愛していたか私は知っています。この世には望みを叶える機会すら与えられない者もいます。そんな中、ゴア王は叶える立場にあった。そして、機会がありました。例え何を犠牲にしてもゴア王は成し遂げたかった。私は最愛の人…王の判断を非難することはあってはならないのです。リアム」


「しかし、私は…っ。私は、認めるわけにはいきません!!」

「リアムっ」

 ヴィエナの言葉を無視して、リアム部屋を飛び出し、王の執務室に向かおうとする。


「あっ」

「貴様がなぜここに…」

 リアムが今、一番会いたくなった存在。


 ―――ルシアだった。


「…あぶない」

 ルシアがボソッと言う声、その態度がリアムの癇に障る。

「お前さえ来なければ…」

 リアムはここでルシアを絞め殺してやりたいと思った。

 ルシアは目を閉じてその言葉を受け止める。

「ルシアよく来てくれたわね」

 ヴィエナの声が聞こえると、リアムは後ろにいたヴィエナに気配を置く。

「くっ」

 リアムはそのままその場を立ち去って行ってしまった。


「なんだったの?」

「いえ、なんでもないわ。ルシア」

 ヴィエナは妖艶な笑みでルシアを見つめ、自分の部屋へと招き入れる。

 

 この後、リアムはこの場所から立ち去ってしまったことを後悔することになるとは、思いもしなかった―――

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