短編 恋愛系まとめ
めがねのひと
社畜と夜。(BL)
都会の街であっても深夜は人がいなくなるものである。
街灯だけが辺りを照らす人が全くと言っていいほど通らない歩道の隅で僕は人を待っていた。
「もうそろそろだと思うんだけどな…」
スマホを確認するともう日付すら変わろうとしている。
自分より年上でしっかりしている男とはいえ、毎日こうも遅い時間だと心配になるのが恋人ってもんだろう。誰に見せるわけでもなくドヤ顔をかましつつ不意に吹く風に少し身をこごませていると、キィっと木製の扉が開く音がした。
そそくさと身なりを整えてにこっと笑っていると下を向いて歩いてくる人が見える。
「うわっ」
僕の気配を感じたのかその人…僕の恋人は顔をあげ、小さな声で驚きを見せた。
「遅いですよ」
「そりゃ外で待ってるなんて知らないからね」
思ってもない文句を言うとあしらうように返される。いつも通りのリアクションではあるが心なしか声が少し明るいのは気のせいだろうか?
そんなことを考えていると「聞いてる?」と顔をのぞき込まれた。深く被った帽子から覗く目がからかうときのそれとは違い少し心配しているように見え、慌てて「聞いてるよ!」と返す。
ならいいと恋人は覗き込むのをやめて帰路の方を向いてから「帰んないの?」とそっけなく僕を呼ぶので「行きます!」と急いで彼を追いかけた。
「わざわざこの時間まで待ってたの?」
「残業で遅くなったんでついでですよ」
本当はしなくてもいい残業だったんですけどね…というのは心の奥底に隠しておく。そんなこと言ったら引かれるかガチで怒られるかのどっちかだろうから。
他愛もない話をしながら歩く恋人の手は宙ぶらりんと空をやわく切っていて、なんとなくその手を掴んでみた。歩みがちょうどあった街頭の下で止まる。街頭に照らされた顔が怪訝そうにしているのが分かった。
でも振りほどこうとしないのはやっぱり恋人だからなのかと自惚れておこう。
「誰もいないしいいじゃないですか」
ヘラっと笑いかける。
なおも手は振りほどかれない。
「勝手にしてくれ」
顰めた眉をそのままにまた前を向いて歩き出す。
先程よりも早く、黙々と。何を言おうとも返答はない。それでも僕はよかった。
なぜなら、急ぐ彼の耳はほんのりと赤く染まっていたから。
「明日何します?」
僕は分からないようにニヤニヤしながら、帰ってこないだろう質問を夜の空気に投げた。
(暗転)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます