裸族。

衣替えは往々にして面倒くさい。別に裸でも生きていけるというのに外に出るためだけに年に2回はクローゼットをひっくり返さなくちゃいけない。しかも季節の気まぐれを察して行わないと地上で地獄を見る羽目になる。


「ちょっとまった!」

「何?」

「袖丈短すぎない?」


同居人に止められて立ち止まる。


「別に気にしてないけど」

「いや、どう考えても新しいの買わなきゃ駄目だろ!」


うちの同居人は裸族であるくせにファッションに並々ならぬこだわりを持っている。たかがコンビニに行くくらいでもほぼ毎日指摘を喰らうくらいだ。そんなに服が好きならなんで裸族なんだよと言いたくなるが、彼曰くそれとこれとは話が違うらしい。


「やだよ、金がもったいない」

「俺が買ってやるから!」

「やだよ!少しでも布面積を減らしたい!」

「ってそれ夏用かよ!今日気温一桁予報出てんだぞ!?」


俺の言葉に俺の服装の違和感の正体に気が付いて怒鳴ると「俺も行くからちょっと待ってろ!」と自分の服を取りに自室に駆けこむ。

ここでこっそり外に出てやろうとしたことがあったが、住んでのところでバレて風呂場で一時間正座しながら説教を聞くという目に遭ったことがあるので大人しくすることに徹することにした。


「あーあ、裸でもいいっていう法律出来ねぇかな」

「法律以前、この時期に夏服で外出たら死ぬぞ」


呟いた言葉に返事をしながら同居人が戻ってくる。手にはもっこもこの白ニットがあった。


「うわっ…最悪」

「まぁまぁ待ちたまえよ」


明らかに嫌がってやると同居人はニヤニヤとしながらニットを裏返して見せた。


「うぉぉ!」


背中ががっぽりと空いているその服は一時期流行った童貞を殺すセーターだった。


「これだったらあったかいしある程度布面積を減らすこともできるだろ?」

「神!」

「じゃあ着替えて服買いに行くぞ」


そう言って同居人は服を渡してくる。


「そう言えばなんでこれ持ってんだ?」


当然の疑問を口にすると視線が宙に向く。同居人の変態性に触れてしまい、少しだけ服の必要性が分かった気がした。



(暗転)

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