みんなしぬ。

夏川 流美

【1】

 学校の帰り道。足を止め、ランドセルを握りしめた。


 こぶし大の石を飲み込んでしまったかのような喉元の窮屈感。

 冷たい汗がツゥと、額に、背中に流れて落ちる。

 激しい息切れに、荒くなる呼吸。

 心臓がバクバクと全身に脈を打ち、手足の震えが止まらない。


 車の音も、ほかの子がはしゃいでいる声も、カラスの鳴き声も、全てが意識の外でぼんやりと揺らいでいる。そのせいだろうか。自分の息遣いが、やけに近く、うるさく聞こえているのは。耳元で誰かが息をしているような錯覚を覚えるのは。



 背後から、ずっと視線を感じている。その視線が、僕に違和感をもたらしている。前に進もうとする右足は、ほんの僅かでも動きはしないのに、後ろを振り向こうとすれば、この体は容易く応えてくれた。



 目に写した視線の正体。それは、ただのイヌだった。首輪のついていない、痩せた茶色のイヌ。僕は深く安堵し、一気に身が軽くなった。「なんだ、イヌじゃないか」そう言って飲み込んでいた石を吐き出すと、悠々と帰り道を歩き出した。

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