第301話 合体事故・・・だと・・・?

 ヴェータラの使役に成功すると、カタリナはライト達に頭を下げた。


「ライト君、ヒルダさん、アンジェラさん、本当にありがとうございました!」


「おめでとう、カタリナ」


「おめでとう」


「おめでとうございます」


 使役成功率150%ではあるものの、使役に成功するかどうか不安だったらしく、最初の1回で成功したことでカタリナはホッとしたようだ。


 もっとも、ライトが【幸運付与ラッキーエンチャント】が使っていない時点で、カタリナは成功すると決まっていたのだが。


「このヴェータラが私に従うのかぁ。嬉しいなぁ。はっ、そうだ。【送還リターン:ヴェータラ】」


 表情が緩んでいたカタリナだが、何を思ったのか急にヴェータラを送還した。


 送還できたことにホッとした様子のカタリナに対し、ライトはその理由を訊いた。


「カタリナ、急に送還するなんてどうしたの?」


「他のアンデッドと同じように送還できるか確かめたの。送還できなかったら、ダーインクラブにヴェータラを連れてけないでしょ?」


「そういうことか。でも、今見た感じだと何も問題なさそうだね」


「うん。助かったよ。使役できたのに連れてけないんじゃ間抜けだもん」


 死霊魔術師ネクロマンサーがつい最近まで大衆から誤解されていた理由として、アンデッドを連れ歩くからというものがあった。


 もっとも、セイントジョーカー以外で結界が張られる前にサ○シのピ○チュウよろしくアンデッドを連れ歩く者はいなかったのだが。


 死霊魔術師ネクロマンサーに忌避感があった者は、それが領地の外であろうが仲であろうがアンデッドのすぐ傍にいる者に近づきたくなかっただけだ。


 今は死霊魔術師ネクロマンサーの有用性が広く知れ渡っているため、そういう目で彼等を見る者は少ない。


 そうは言っても、アンデッドに恨みを持つ者も少なくないこの世界では、アンデッドを駆逐してやろうと思う者だって当然いる。


 ライトが張った結界の近くにはアンデッドが近寄れないから、【送還リターン】がヴェータラに通じなかった場合、ヴェータラを結界の効果範囲外に待機させておかねばならない。


 待機させていたヴェータラが、アンデッド憎しで行動する者によって倒されては困る。


 だから、カタリナは【送還リターン】がヴェータラに通じて安心したという訳だ。


 さて、ヴェータラの件が済んだら、カタリナには決めなければならないことが残っていた。


 フレッシュスライム5体の扱いである。


 ヴェータラを使役するため、邪魔にならないように先に使役してしまったが、カタリナは別にフレッシュスライムを使役したいと思っていた訳ではない。


 どうしたものかと考えるカタリナに、ライトは気になっていたことをぶつけてみた。


「カタリナ、フレッシュスライムってフレッシュゴーレムのなりそこないだよね。【融合フュージョン】でフレッシュゴーレムにならないの?」


「あっ、その手があったね。流石はライト君。【融合フュージョン:フレッシュスライム×5】」


 ピカァン!


 ライトに指摘されて思い出したようで、カタリナはフレッシュスライム達に【融合フュージョン】を発動した。


 フレッシュスライムはフレッシュゴーレムのなりそこないなので、死霊魔術師ネクロマンサーの【融合フュージョン】で3体以上いればフレッシュゴーレムになれるのだ。


 カタリナが技名を唱えたことで、全てのフレッシュスライムが光に包み込まれた。


 だが、カタリナは違和感を覚えて首を傾げた。


「あれ?」


「カタリナ、何か気になることでもあったの?」


「う~ん、なんというか技はしっかり発動したんだけど、これじゃないって感じがしたの」


「これじゃない?」


 カタリナは論理的な考えに基づいて気になることがあったのではなく、感覚的に何となく違和感を覚えたのだ。


 ライトからすれば、カタリナはイルミのように常に感覚で生きている訳ではないとわかっているので、そんなことを言いだすなんて珍しいと思った。


 そして、カタリナの違和感は光が収まった時に現実となった。


 (合体事故・・・だと・・・?)


 ライトがそう思うのも無理もない。


 本来であれば、人の倍の大きさはあるフレッシュゴーレムになるはずだったが、ライト達の目の前に現れたそれは人間サイズの生肉でできたマネキンだったからだ。


「・・・フレッシュゴーレムには見えないね」


「<鑑定>を使ってみるよ」


 ヒルダの呟きに応じてライトは<鑑定>を発動した。



-----------------------------------------

名前:なし 種族:フレッシュパペット

年齢:なし 性別:なし Lv:30

-----------------------------------------

HP:3,000/3,000

MP:1,500/1,500

STR:2,000

VIT:2,000

DEX:500

AGI:1,000

INT:100

LUK:1,000

-----------------------------------------

称号:特殊個体ユニーク

二つ名:なし

職業:なし

スキル:<格闘術><離合自在><物理攻撃半減><自爆>

装備:なし

備考:使役(カタリナ)

-----------------------------------------



 (えっ、嘘じゃん。特殊個体ユニークなの?)


 ライトは<鑑定>でわかった結果に目を丸くした。


 そんなライトの異変に気付き、ヒルダは声をかけた。


「ライト、大丈夫? 何が見えたの?」


「これはフレッシュパペット。Lv30の特殊個体ユニークだった」


「「「えっ?」」」


 ライトが口にした言葉が聞き間違いではないかとヒルダ達は耳を疑った。


 そう思うのも無理もない。


 特殊個体ユニークということは、ニブルヘイムにこの1体しかいないということだ。


 特殊個体ユニークの使役に成功したこともそうだが、フレッシュゴーレムが現れるはずなのにフレッシュパペットが誕生したとなれば、アンデッド研究に火が付くのは間違いない。


 死霊魔術師ネクロマンサーの【融合フュージョン】に新たなアンデッドを作り出す力があると知られれば、良い意味でも悪い意味でも注目されるだろう。


 良い意味では未知のアンデッドを研究できるが、悪い意味では呪信旅団に狙われる可能性が上がる。


 未知のアンデッドがネームドアンデッドだった場合、倒したら呪武器カースウエポンが手に入るのはほぼ確実だ。


 特殊個体ユニークを倒した際にドロップする思念玉は、今のところ呪信旅団の手に渡った様子はない。


 もしも思念玉を手にしていたとすれば、呪武器カースウエポンを強化できるのだから血眼になって探すだろう。


 まあ、現時点で強化ができると知られているのは、紅い宝玉のついた聖銀ミスリル製の呪武器カースウエポンだけなのだが。


「カタリナ、とりあえず送還した方が良いよ。それと、不用意に人前でフレッシュパペットを召喚しないこと。面倒事を避けたいならそうした方が良いと思う」


「う、うん。そうするよ。【送還リターン:フレッシュパペット】」


 ライトのアドバイスに従い、カタリナはすぐにフレッシュパペットを送還した。


 それから、ライト達はダーインクラブに帰ることにした。


 蜥蜴車リザードカーに乗り込み、アンジェラがそれを走らせ始めた。


 その社内では、カタリナが不安そうな表情でソワソワしていた。


 その素振りが気になってしまったため、ヒルダはできるだけ静かに注意した。


「カタリナ、落ち着きなさい」


「は、はい。すみません・・・」


「ライトの言う通り、フレッシュパペットを人前で出さなければ良い話でしょ? それに、ヴェータラを使役できたことを公表するんだったら、どのみち騒がれるわ。だったら、もっとどっしり構えておけば良いんだよ」


「・・・それもそうですね」


 フレッシュパペットの衝撃が大き過ぎたが、カタリナは今までできないとされていた【融合フュージョン】以外で強いアンデッドを使役できると証明したのだ。


 それだけでも十分ビッグニュースなので、どのみち注目されることは変わらない。


 だとすれば、フレッシュパペットのことは気にしても仕方がないのだ。


 ヒルダの指摘はもっともだったので、カタリナはようやく気持ちを落ち着けることができた。


 ダーインクラブに戻り、カタリナを治療院で下ろして蜥蜴車リザードカーを返すと、ライト達は屋敷に戻って来た。


 屋敷に戻ったライトは、ルクスリアレポートの強いアンデッドの使役方法の近くに【融合フュージョン】の結果は1つとは限らない旨を経緯込みで追記した。


 今日だけでニブルヘイムの歴史は2つも変わった訳だが、それがこれからにどのような影響を齎すのか今はまだ誰も知らない。

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