北部動乱編
第231話 僕も遂に父親か・・・
6月1週目のある朝、不快感から目を覚ましたヒルダはライトに体調不良を訴えた。
「ライト、ちょっと良い? なんだか頭痛と吐き気がするの」
「大丈夫? 診察させてもらうね」
「うん。お願い」
ライトはある種の予感がしたので、すぐにヒルダに<鑑定>を使った。
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名前:ヒルダ=ダーイン 種族:人間
年齢:15 性別:女 Lv:66
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HP:1,800/1,800
MP:2,100/2,100
STR:2,400
VIT:2,100
DEX:2,400
AGI:2,400
INT:2,400
LUK:2,100
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称号:ダーイン公爵夫人
スーパーノヴァ
二つ名:
職業:
スキル:<聖剣術><水魔法><状態異常耐性>
装備:ネグリジェ(黒)
備考:妊娠3ヶ月
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(僕も遂に父親か・・・)
<鑑定>の結果を見て、ライトは感慨深く感じた。
前世は社畜として過労死で終わり、転生して12年が経過した。
前世と合算した精神年齢だけで言えばアラフォーのライトも、遂に父親になったと思えばここまでの道のりは長かったと思っても不思議ではない。
今までの苦労を思い出し、ライトの目から涙が溢れるとヒルダが声をかけた。
「ライト、どうしたの? 大丈夫? ライトも具合悪いの?」
「あぁ、ごめん。これは嬉しくて涙が出ただけ。ヒルダ、良く聞いて。その頭痛と吐き気は
「えっ、じゃあ、まさか?」
「おめでとう。妊娠3ヶ月だね。僕は父親に、ヒルダは母親になったんだ」
「ライト!」
今までの頭痛や吐き気が嘘のように晴れやかな気分になり、ヒルダはライトを強く抱き締めた。
「落ち着いて。具合悪いんでしょ? 【
ヒルダが悪阻の症状を訴えていたのを思い出し、ライトもヒルダを抱き締めながら治療した。
<法術>さえあれば、妊婦のサポートもばっちりである。
悪阻や妊娠に伴う体調の変化に対応し、出産もフォローできる<法術>を転生特典に選んだ自分をライトは褒めたくなった。
「ライト、私とっても嬉しいの! ライトと結婚式を挙げた時と同じぐらい嬉しい!」
「僕もだよ。少しでも体調に違和感を覚えたら言ってね。ヒルダが安心して子供を産めるように、僕が全力でサポートするから」
「エヘヘ。ライトが傍にいてくれるだけで百人力だよ。でも、世の女性よりも私は恵まれてると思うの。ライトがいれば、何も不安なことなんてないから」
ヒルダはそれだけ言うと、抑えられない興奮を
ヒルダの気分が落ち着くまで10分程かかった。
それから、ライトは定番の話題を振った。
「生まれて来る子の名前はどうしようか?」
「男の子ならトール。女の子ならエイル」
「その心は?」
「どっちにも私とライトの名前から1文字ずつ取った名前でしっくり来たから」
「なるほど」
トールならば、ライトの”ト”とヒルダの”ル”。
エイルならば、ライトの”イ”とヒルダの”ル”。
すぐに脳内で考えられるあたり、ライトの頭は既に覚醒しているようだ。
コンコン。
「どうぞ」
「旦那様、奥様、おはようございます。そして、ヒルダ様はご懐妊おめでとうございます」
「聞こえてたの?」
ヒルダが妊娠したことは、ライトですら今さっきわかったばかりだというのに、アンジェラがそれを把握していたのでライトはまさか聞こえていたのかと思って訊ねた。
「私は耳が良いものですから」
「アンジェラ、プライバシーって知ってる?」
「私が旦那様専属メイドになった時から、旦那様に失われたものですよね?」
「それは酷い」
「旦那様の安全を確保するためには、どうしても必要なことなんです」
キリッとした表情で言ってのけるアンジェラに対し、ライトはジト目を向けて続きを促した。
「本音は?」
「旦那様の生活音を聞くことで、私はパスタ3皿はいけます。たまに下着が濡れてしまって着替えなくてはならない時もあります」
「なんでこの変態が僕の専属メイドなんだよ・・・」
「私がダーイン公爵家の使用人で最も優秀だからです」
駄目な発言を挟んだというのに、それでもキリッとした表情で言ってのけるアンジェラにライトは戦慄した。
そこにヒルダが割り込む。
「お腹の子に悪影響が出たら良くないわ。
「そんな殺生な!? 奥様、旦那様のあれやこれやを独り占めするつもりですか!?」
「元々ライトは私のものだよ。人の夫で自分を慰めるなんて公言するメイドは近づけられない」
「良いぞ、もっと言ってくれ」
ライトはヒルダを応援した。
余程のことがない限り、この2対1の状況がひっくり返ることはあるまい。
それを察したアンジェラは、ライトが教会学校に行くことが決まった時に披露した完璧な土下座をしてみせた。
「旦那様から遠ざけられるのだけは勘弁して下さい」
「ライトや私が嫌がることをしないって誓える?」
「誓えます。誓います」
「よろしい。通常業務に戻りなさい」
「Yes, ma'am!」
ヒルダ>アンジェラの構図が決まった瞬間だった。
その後、朝食前にライトとヒルダから屋敷内に跡継ぎができたことが知らされ、屋敷は祝福ムードとなった。
朝食後の食休みになると、ロゼッタが2人の前にやって来た。
「ライ君、ヒルダさん、おめでと~。これ良かったらどうぞ~」
そう言ってロゼッタが差し出したのは小さな鉢植えである。
その鉢植えには、かわいらしいハートマークの葉っぱの植物が植えられていた。
「ありがとう、ロゼッタ。これは何?」
「リラクゼーションハーブだよ~。このハーブの香りにはね~、心も体もリラックスさせる効果があるの~」
「ありがとう、ロゼッタ。大切にするわ」
ロゼッタが自分を気遣ってくれたとわかり、ヒルダは笑顔でロゼッタにお礼を言った。
「どういたしまして~。それにしても~、ライ君がパパになるんだね~」
「そうだね」
「イルミさんみたいに~、過保護にしちゃ駄目だよ~?」
「・・・肝に銘じるよ」
ロゼッタに核心を突かれ、ライトは気持ちを引き締めた。
自覚しているものの、どうにもライトはイルミに甘い。
その甘さを生まれて来る子供に向ければ、駄目人間になってしまう可能性は少なくない。
ライトはロゼッタの忠告に感謝した。
部屋に戻ったライトとヒルダは、英霊降臨でルクスリアを呼び出した。
『あら、どうしたのかしら?』
「ルー婆に報告があるんだ」
『ヒルダが幸せそうにしてるから、良い報告なのよね?』
「勿論。ヒルダが妊娠3ヶ月だった。今朝、悪阻の症状が出て発覚したんだ」
『まぁ・・・、それは良い知らせね。ライトもヒルダもおめでとう』
「ありがとう」
「ありがとうございます」
『生まれてくる子が<法術>を継承してたら、ダーイン公爵家の安泰は間違いないわね』
「プレッシャーをかけないでよ」
『そうは言っても、貴族なら後継者問題はいつの世も同じでしょ?』
ルクスリアの指摘はもっともだ。
それゆえ、ライトはすぐに言い返すことができなかった。
しかし、ヒルダは違った。
「大丈夫。私とライトの子供だもん。きっと<法術>を継承してくれるわ。継承してなくても、その子が大切な子なのは間違いないし、私は<法術>を継承する子が生まれるまで何度でも子供を産むわ」
『母は強しね。私はそのプレッシャーが嫌で生涯独身を貫いたんだけど、ヒルダは私にはない強さを持ってるのね。ライト、大切にしなきゃ駄目よ?』
「わかってる。家族はいつでも大切にしてるし、ヒルダはその中でも一番大切だ。死が僕達を分かつまでずっと大切にするよ」
「ライト・・・。愛してる」
『あぁ、しまった。また余計なことを言っちゃったわ』
目の前で激甘空間が展開されてしまったのが、どう考えても自分の発言が原因であるため、ルクスリアは額に手をやって首を横に振った。
うんざりする反面、ライトとヒルダに任せればダーイン公爵家は安泰だとも思えたので、イーブンだと言えよう。
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