第205話 あの大馬鹿が・・・
ライト達がセイントジョーカーの教会に戻ると、ローランドやヘレンは教皇室にいた。
報告を聞きたいところだったが、イルミの空腹が限界を迎えていると知ると、先に昼食を取ることになった。
ヘレンのお気に入りの店は、セイントジョーカーにしては立地が隠れ家のような場所にあり、知る人ぞ知る名店だった。
空腹は最高のスパイスなんて言葉があるが、イルミにはスパイスが効き過ぎてしまったのは言うまでもない。
昼食にありつくのが遅くなったせいで、ライト達もいつもよりも食べる量は多かった。
その結果、店の料理を全部頼むどころか食材を食べ尽くす結果となった。
今日はもう営業できなくなってしまったが、店長はイルミの食べっぷりが見事だったことで満足していた。
ヘレンが事前に代金を払っていたし、食材を余すところなく食べ尽くしてくれたなら料理人冥利に尽きるというものだろう。
昼食が済むと、ライト達は再び教皇室に戻って来た。
今度こそ報告の時間である。
ただし、報告する内容が複数あるので、ライトは報告の順番をローランドに委ねることにした。
「良い知らせと悪い知らせのどちらから聞きたいですか?」
「良い知らせから報告してくれ」
ローランドが良い知らせを希望すると、ヘレンも言葉には出さないが頷いて同意した。
「わかりました。では、良い知らせからです。呪信旅団の構成員から
「本当か!? そりゃ良い知らせだ!」
呪信旅団の戦力が削れたことと
ローランドの声が弾むのも無理もない。
ライトはローランドとヘレンに見せるため、<
どんな
「ライト君、これが
「その通りです。その名をプラフィティアーと言います。MPと寿命を代償に使用者に従うアンデッドを創造して操れる錫杖です」
「そんなおぞましい
「その場で壊す余裕がなかったので持ち帰りましたが、壊しますか? それとも【
落ち着いた状態でいるからこそ、プラフィティアーを壊すか強化を試すか選択できるが、もしも戦場で処分を決められたのならば、ライトはこれを壊しただろう。
呪信旅団の手に渡るリスクがあるならば、壊してしまった方が余計な心配をせずに済むからだ。
いずれにせよ、護国会議で決まった通り、プラフィティアーはライト達に所有権がある。
この場でライトが相談したのは、効果とデメリットがとんでもないので独断専行しない方が良いという判断があってのことだ。
「「【
ライトの問いに対し、ローランドとヘレンが同じタイミングで同じ回答をした。
「わかりました。【
ライトが技名を唱えると、聖気をゆっくりと消化するように馴染ませていき、色あせた錫杖が徐々に銀色へと変わった。
すかさず<鑑定>を発動し、強化された
(ガンバンテインが錫杖ってイメージと違うんだよなぁ)
そう思っても、ライトは文句を口にしたりはしなかった。
ガンバンテインの効果は、MPを消費することで詠唱することなく【
そのデメリットとして、<○魔法>のような魔法系スキルを持つ者、INTの能力値が1,000未満の者は使用できないという制限がかかる。
一般的に考えれば、このデメリットは相当に厄介である。
INTの能力値が1,000以上になる者は、ほぼ確実に<○魔法>のような魔法系スキルを会得しているからだ。
無詠唱で【
だがちょっと待ってほしい。
その制限に引っかかることなく、ガンバンテインを使える者がこの場にいる。
ライトとアンジェラである。
ライトは<法術>を会得しているが、このスキルは魔法に似て非なるものだ。
それ即ち、ライトならば問題なくガンバンテインを扱えることに他ならない。
(戦闘スタイルからして、これは僕が使った方が良さそうだ)
そう判断すると、ライトは<鑑定>の結果を説明した。
説明を聞けば、その場にいる全員が首を縦に振るしかなかった。
「ライト狡い。お姉ちゃんも飛び道具欲しい」
「イルミ姉ちゃんは【
「
(魔法を使うイルミ姉ちゃん・・・。ないな。魔法(物理)とか言いそう)
イルミが【
【
イルミが羨ましそうな顔をしていたので、ライトはガンバンテインを<
ヘレンも気を利かせて別の話題を振った。
「ライト君、悪い知らせも報告してちょうだい」
「わかりました」
そう言うと、今度は<
「・・・グロア」
一目でグロアが死んでいるとわかり、ローランドはなんとも言えない表情になった。
<
入っていたとしたら、それは既に死体となっていることを意味する。
ローランドに代わり、感づいた様子のヘレンが口を開いた。
「グロアが死んだことだけが悪い知らせってことじゃないのよね?」
「はい」
「聞きたくねえ」
「ローランド、聞きなさい」
「聞かせないでくれ!」
「ローランド!」
ローランドの口から、報告の続きを拒絶する言葉が吐き出された。
ヘレンはローランドも自分と同じ予想を立てているとわかっていたが、ローランドの退路を塞いだ。
教皇として、兄として、ローランドにはこの先の話を聞く義務があるからである。
ライトも話すべきだと思っているが、ローランドの気持ちを考慮すればすぐに言い出せるものではない。
それゆえ、ローランドの気持ちの準備ができるのを待った。
ローランドは天を仰ぐと目を瞑って少しの間沈黙した。
目を開くと、ローランドは覚悟を決めたらしい。
悲しそうな表情ではあるものの、その目にはどんな報告も聞く覚悟が宿っていた。
「すまん、俺が悪かった。ライト、続きを頼む」
「わかりました。<鑑定>の結果、グロアは呪信旅団の構成員になっており、南門でアンデッドの大群を創造したのは彼女です。ベーダー侯爵の盗難事件で糸を引いていたのも彼女だと言ってました。僕達が倒したスカルケルベロスは、彼女が僕達を殺すべく命と引き換えに創り出したものです」
「あの大馬鹿が・・・」
ライトから非情な事実を聞くと、ローランドが口にできたのはその一言だけだった。
決して仲が良いとは言えなかったが、それでもローランドにとってグロアは妹だった。
護国会議で爵位を取り上げたのだって、取り繕うことすらできない公の場の失言だったからだ。
血の繋がりがあれば、どうしても締めるべきところでも締められないことだってある。
だからこそ、ローランドの代わりにヘレンが頭を必死に働かせて仮説を立てた。
その仮説が現実のものとなる可能性は高いので、ヘレンはライトに相談することにした。
「ライト君、この事実は公表しなければならないわ。ローランドが教皇でも、元ドヴァリン公爵が人類を裏切ったことを隠すことはできない」
「そうですね。隠しておけば、後からバレた時に最悪の展開になると思います」
「そうよね。まず間違いなく、今の教会に不満を持った貴族からの突き上げを喰らうわ」
「突き上げを喰らうにしても、誠実な対応をして被害は最小限に留めたいところです」
「ええ。その通りよ。ネームドアンデッドの数が増え、
「同感です」
「どうしようもなくなった場合、ローランドは教皇を辞職することになるわ。そうなった時、次期教皇を4公爵家から決める選挙が開かれるわ。ドヴァリン公爵は出馬を辞退することになるでしょうから、後のことをお願いして良いかしら?」
ヘレンが言いたいことを途中から察していたため、ライトはノータイムで訊ねた。
「僕に教皇になれということですか?」
「ローランドへの不満が抑えられなかった時は、それしかこの国をまとめる方法がないの。今すぐに返事をしてとは言わない。よく考えといてもらえないかしら?」
「・・・わかりました。一旦持ち帰らせて下さい」
そう答えるしかなく、ライトはひとまず頷いた。
その後、ライト達は教皇室を退出してそのままダーインクラブへと帰還した。
ダーインクラブへ帰る
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