第148話 禁則事項です。お答えできません

 スケルトン軍団がやって来たことで、ライトはシスター・アーマと共にG2-1のメメンバーに合流した。


「カタリナ、お願いしますわ」


「任せて。【召喚サモン:デスナイト】」


 カタリナが技名を唱えると、槍を持ったデスナイトが召喚された。


「デスナイト、蹂躙しなさい」


 その指示を受け、デスナイトがスケルトン軍団に特攻を仕掛けた。


 スケルトンと比べ、体が大きくレベルも高いおかげで、デスナイトがスケルトンをどんどん倒していく。


「ライト、俺も行って良いか?」


「同じく」


「いってらっしゃい」


「よっしゃ!」


「感謝」


 武器を新調したアルバスとザックは、実戦で初めて使える機会を逃したくないようで、カタリナのデスナイトの邪魔にならない場所から攻撃を始めた。


「ははっ、すげえ! 一振りでこれかよ!」


 技を使っていないにもかかわらず、一振りで3体のスケルトンを倒せたことに感動したらしく、アルバスは歓喜の声を上げた。


「段違い」


 その一方、ザックも2代目ドボルザークを使い、スケルトンをガンガン倒している。


 動かぬ丸太ではなく、動くスケルトンを相手にしたことで、ザックは改めて聖鉄製の武器の良さを知ったようだ。


「俺も行くぜ! 【突撃正拳ブリッツストレート】」


 オットーも戦いたくなったようで、若干手が足りなさそうな辺りを見つけると嬉々として参戦した。


 スケルトン軍団の数は、それから数分後には両手で数えられるぐらいになった。


 しかし、そこで新たな問題が生じた。


 なんと、スカルウルフに騎乗したスケルトンライダーの軍勢が援軍としてやって来たからだ。


「ウチもやるで! 【雨矢レインアロー】」


「僕もやるよ。【氷雨アイスレイン】」


 ミーアとアズライトにより、援軍としてやって来たスケルトンライダーの数が減った。


 このままでは、スケルトンライダーが全滅するのも時間の問題だろうと思ったので、ライトはカタリナに訊ねた。


「カタリナ、スケルトンライダー欲しい?」


「う、うん。初めて見たから、使役できるなら使役したい」


「了解。【聖戒ホーリープリセプト】」


 カタリナの意思を確認すると、ライトは狙いをつけやすくするために1体だけスケルトンライダーを光の鎖で拘束した。


「ありがとう、ライト君。【絆円陣リンクサークル】」


 ブォン。


 カタリナが円陣を起動すると、それがスケルトンライダーを閉じ込める結界となった。


 結界が明滅しながら収縮し始めたのを確認して、カタリナは手を前に伸ばしてからグッと握った。


 カタリナは使役に成功したとわかると、すぐに次の行動に移った。


「【送還リターン:スケルトンライダー】」


 シュイン。


 カタリナが技名を唱えると、スケルトンライダーが消えた。


 これでカタリナの使役したスケルトンライダーが、フレンドリーファイアでやられることはなくなった。


 そうなってしまえば、誰も遠慮することはなくなり、スケルトンとスケルトンライダーは5分も経たずに全滅した。


「【範囲浄化エリアクリーン】」


 アンデッドが大群でやって来たせいで周囲が瘴気まみれになってしまったため、ライトはすぐに瘴気を浄化した。


「皆さん、お疲れ様です。事情が変わりましたので、ここから撤退します」


「撤退ですの?」


「撤退です。詳しくは言えませんが、この洞窟の危険度はG2-1で対処できるレベルではない可能性があります」


「その判断根拠は教えて下さらないんですの?」


「禁則事項です。お答えできません」


「そうですの。では、仕方ありませんわね」


 シスター・アーマが折れないとわかると、エルザがこれ以上質問することはなかった。


 そして、G2-1は急いで洞窟から撤退することになった。


 しかし、洞窟の出口まであと少しという時、ライトは悪寒がして振り返った。


 それはアンジェラとの戦闘訓練をする時、稀にそんなことがあった。


 アンジェラが自分の死角を突こうと忍び寄る時、直感的にライトは背中がぞわっとするのだが、今もそれと同じ感じがしたのだ。


 ライトが振り返った時、割れたマスカレードを被った何者かがナイフを振り下ろす直前だった。


「【防御壁プロテクション】」


 間一髪、光の壁が襲撃者のナイフを防いだ。


 高音が洞窟内に響き渡り、それによって他の者達も自分達が襲撃されていることに気が付いた。


「私が気づけなかった? いや、それは後ですね。小聖者マーリン、方針はどうしますか?」


 数々の実戦をこなしてきた自負はあったが、シスター・アーマは襲撃者に気づけなかった。


 それを悔いる気持ちはあったが、その前にG2-1の生徒達を守る方が優先なので、ライトの意思を確認した。


 重騎士アーマーナイトの自分では、盾で守り切れる人数には限界がある。


 だから、こうして今光の壁で自分達を守ってくれているライトの指示に従った方が、守れる人数は多いと判断してのことだ。


「シスター・アーマは洞窟の出口方面を警戒して下さい。アルバス、ザック」


「なんだ?」


「何?」


「シスター・アーマに協力して、皆の護衛を頼むよ」


「わかった」


「諾」


 ライトですら気づくのがギリギリになったことから、今の自分達では助力しようにも却って足手まといになると判断してアルバスとザックは頷いた。


 光の壁の出現により、暗殺に失敗した襲撃者は大きく後ろに跳躍した。


 しかし、撤退しないところからして、暗殺に失敗しても襲撃を成功させる自信があることがわかる。


 ライトはカースブレイカーを手に取ると、襲撃者のナイフに<鑑定>を発動した。


 (ノーバディノウズ、誰も知らないか。嫌な呪武器カースウエポンだ)


 ライトがそう思ったのは、襲撃者の手に持つナイフの効果がわかったからだ。


 この呪武器カースウエポンによって、使用者は任意のタイミングで存在感を消すことができる。


 その代わりに、使えば使う程自分が認識されなくなり、最終的には誰にも認識されなくなるという悲しいデメリットがある。


 暗殺者アサシンにとっては垂涎の呪武器カースウエポンかもしれないが、暗殺者アサシンはほんの少しでも認識されなければ存在意義がなくなる。


 暗殺者アサシンがいるから抑止力となり、依頼者は暗殺者アサシンがいるから誰を始末しろと依頼できる。


 無論、感情が希薄で殺すことだけが生き甲斐の暗殺者アサシンが存在すれば、ノーバディノウズは何物にも代えがたい武器になる訳だから、ライト達を襲った者がどう思っているのかが肝心だ。


 【防御壁プロテクション】を解除すると、ライトは守りに入らず攻めに移った。


「【参式:火寅ひどら】」


 シュボッと燃える音がした少し後に、襲撃者がライトの突きをどうにかノーバディノウズで受けたときに発生した金属音がその場に響き渡った。


「【伍式:辰巻たつまき】」


 ライトがカースブレイカーを体の正面で曲芸に相応しい速度で回転させると、ライトの正面に立つ襲撃者を轟音と共に渦巻く暴風が襲った。


 まともにそれを喰らったら不味いと判断したのか、襲撃者はその暴風を大袈裟に避けた。


 だが、それこそがライトの狙いだった。


 襲撃者が避けるのを見越して、ライトは次の攻撃に移っていた。


「【弐式:丑鳴うしなり】」


 ブモォォッ!


 風を切る音が牛の鳴き声のように聞こえ、その音に気を取られていると、左から右への横薙ぎと右から左への横薙ぎの2連撃が襲撃者に放たれた。


 それでも、ライトと違って襲撃者の方が近接戦闘の経験が多く、ノーバディノウズでどちらの攻撃も防いだ。


 その瞬間、ノーバディノウズが砕け散った。


 ライトの狙いはここにあった。


 カースブレイカーには、呪武器カースウエポンを3回攻撃すれば壊せる効果がある。


 この効果を利用し、襲撃者の戦力を一気に削った訳である。


 まさか、自分のとっておきが壊されるとは思っていなかったらしく、襲撃者は驚いて一瞬だけ動きが止まった。


「【聖戒ホーリープリセプト】」


 その隙をライトは逃さない。


 光の鎖が襲撃者の体を縛り、身動きを取れなくした。


「ロゼッタ、眠らせるの手伝って!」


「は~い。【熟睡眠花スリープウェルフラワー】」


 ライトの求めに応じ、ロゼッタが襲撃者の近くに白く輝いた花を咲かせ、そこから粉が噴き出させた。


 その粉をマスカレードの割れた部分から浴びてしまい、襲撃者は一瞬で眠ってしまった。


 ロゼッタの<森呪術>は、聖水による強化で<森聖術>に変わった。


 以前は【睡眠花スリープフラワー】だった技も、先程の【熟睡眠花スリープウェルフラワー】になって威力は跳ね上がり、襲撃者は絶賛爆睡中である。


「ロゼッタ、ありがとう」


「どういたしまして~」


 ロゼッタにお礼を言うと、ライトはカースブレイカーでマスカレードを3回叩いた。


 すると、ピキピキッと罅割れる音がして、マスカレードは粉々に砕けた。


 その奥には、ライトにとって予想外の顔があった。

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