第115話 イルミ姉ちゃんがナチュラルに貴族扱いされてなかった件について

 クロエが次年度の生徒会会計に内定した翌日、ライトとヒルダ、イルミは生徒会室で話し合っていた。


 今日はジェシカとメイリンが別々の用事でいないので、3人だけしか生徒会室にはいない。


「庶務の選考方法はどうしよう?」


「会計と違って、特徴がないから困るね」


「流石のお姉ちゃんでも、ライトの後継者に心当たりはないよ」


「イルミ、ライトと同じぐらい働ける生徒なんているはずないよ。グレードダウンして良いから、心当たりはない?」


 グレードダウンという言い方は失礼な気もするが、探している人材はライトの下位互換となる者だろうから言いたいことは間違ってはいない。


「う~ん。そう言われても困るよ。お姉ちゃん的にはライトが万能だったから、グレードダウンさせると似たり寄ったりで選べないもん」


「いっそのこと、公募してみる? 生徒会長みたいに、いくつかお題を出して勝ち残った人を庶務にするのはどう?」


「それも良いかもね。私達が唸ってても、庶務にピッタリな人が浮かばない訳だし」


「賛成!」


 ライトの意見が通り、次期生徒会庶務は公募によって決めることになった。


「早速だけど、評価基準はどうする? 会計の時と同じなら、武力と庶務に相応しいスキルか技能を持った人?」


「武力なら、生徒会長選定と同じ方式で選べるから良いとして、問題は残りの基準ね。庶務って色んな業務を支えるから、知力は欲しいかな」


「お姉ちゃん、仲良くできる人が良いな」


「そうなると、知力と武力で篩いにかけて、最終的には面接で決める?」


「それが良いと思う」


「順番は学力テスト、模擬戦、最終面接で良い?」


「「賛成」」


「わかった。それじゃ、職員室に報告に行って来るよ」


「待って、私も行く」


「お姉ちゃんも行く。お留守番寂しい」


 (そんな年齢じゃないよね、イルミ姉ちゃん?)


 ヒルダはエクスキューショナーのデメリットがあるから良いとしても、イルミは単に寂しいからついて来るだけだ。


 ライトがイルミを子供っぽく思っても、仕方のないことだろう。


 結局、3人で職員室に行くと、ヒルダはシスター・エクシアを見つけて声をかけた。


「シスター・エクシア、ちょっと良いですか?」


「なんでしょうか?」


「次年度の生徒会のメンバー選定についてお話があります」


「わかりました。こちらに来て下さい」


 職員室の奥には、教師と生徒が座って話ができるスペースが設けられている。


 シスター・エクシアは、ライト達を連れてそのスペースまで移動した。


 ちなみに、どうしてシスター・エクシアに報告するのかだが、それは生徒会に固定の顧問が存在しないからだ。


 教会学校のクラブ活動の中で、生徒会は他のクラブとは一線を画しており、生徒の代表として生徒の模範となるようにある程度の権限を与えて自立させている。


 勿論、予算は教職員の方で用意してあるが、責任を取るのは生徒会に所属する生徒達自身なのだ。


 それでも、多くの生徒を巻き込む何かを行う際は、教職員の判断を仰ぐのが通例である。


 その場合、固定の顧問がいないので、報告に来た生徒の担任の教師が対応することが決まっている。


 だからこそ、シスター・エクシアがこうして対応する訳なのだ。


「それで、次年度の生徒会メンバーについての相談でしたね?」


「はい。次年度の生徒会メンバーですが、会長権限で副会長をライト、書記をイルミ、会計をM4-1のクロエ=ガルバレンシアにしました」


「なるほど。会計の人選は予想外ですが、それ以外は妥当な判断ですね」


 ここ数年では、コースを跨ぐ人選は行われてこなかったため、シスター・エクシアはヒルダの選択は想定していなかった。


 だが、本題はそこではない。


 それゆえ、ヒルダは話を先に進めた。


「話をしたいのは、次年度の庶務のことです」


「庶務ですか。確かに、今年度はダーイン君が庶務になったおかげで、生徒会の業務効率が著しく良くなってましたね。ということは、来年度も庶務のポストを用意するのですか?」


「その通りです。その選定方法について報告しに来ました」


「どうやって決めるつもりですか?」


「生徒会長選定のように公募し、3つお題を出します。それをクリアした者が庶務のポストに就きます」


「3つのお題とはなんですか?」


 イルミならともかく、ヒルダならばしっかり考えているだろうと予想して、シスター・エクシアは安心して質問した。


「知力、武力、人間性です。知力は学力テストで測り、学力テストの足切りラインを突破した生徒のみが、模擬戦に参加権を得ます。模擬戦の上位3名まで絞ったら、面接で庶務を決定します」


「良いでしょう。特に口出しすることはありませんね。公募はいつからにしますか? 全体のスケジュールを教えて下さい」


「公募は明日からでお願いします。学力テストは来週の火曜日の午後です。採点を考慮すると、模擬戦は同じ週の土曜日になりますね。面接は再来週の月曜日の午後で、火曜日には次期生徒会庶務を発表できるようにします」


「わかりました。そのスケジュールで進められるように、私が会場の手配をしておきましょう。学力テストの問題や模擬戦のルール、面接の採用基準は貴方達に任せて構いませんね?」


「問題ありません。では、会場の手配はお願いします」


「良いでしょう」


 話は終わり、ライト達は職員室を出て生徒会室に向かった。


 イルミはその途中、クロエを迎えにキャンプクラブの部室に立ち寄った。


 学力テストの問題や模擬戦の開催方式、面接の採用基準を話すにも関わらず、仲間外れにするのは良くないからだ。


 ライトとヒルダがお茶を飲んで待っていると、イルミがクロエを連れて生徒会室に戻って来た。


「お待たせ」


「ここが生徒会室ですか」


「もう、クロエったら口調が硬いよ。もっと砕けて良いんだよ」


「いや、イルミは良いかもしれないけど、ダーイン君も会長さんも貴族じゃん。しかも、4つしかない公爵家だからね?」


「私だってその公爵家だよ」


「あれ、そうだったっけ?」


「むぅ。これはO・HA・NA・SHIが必要だね」


「ごめんごめん」


 (イルミ姉ちゃんがナチュラルに貴族扱いされてなかった件について)


 おそらく、気安く話せる関係だからこそ、イルミも貴族であるという事実をクロエは忘れていたのだろう。


 そう思うことにしよう。


 もし、そうでないならばイルミが不憫である。


 ライトはほんの少しだけイルミに同情してから、話を先に進めることにした。


「イルミ姉ちゃんのことは置いといて、クロエさんも話しやすいように喋って下さい。良いよね、ヒルダ?」


「うん。同じ生徒会メンバー同士なのに、丁寧な言葉で話すのは距離を感じるよ」


「そうです、いや、そっか。わかったよ。よろしくね、ヒルダ、ライト君」


「ただし、ライトに色目を使ったら許さない」


「い、色目なんて使わないよ。だ、だから、その殺気は抑えてほしいな」


 クロエの口調が砕けた瞬間、ヒルダがクロエに脅しをかけたから、クロエは背筋を正して答えた。


 その額からは、冷や汗が流れ落ちてしまうぐらいクロエは緊張した。


 そんなクロエを見て、ライトは小さく息を吐いてからヒルダに声をかけた。


「ヒルダ、落ち着こうね。心配しなくても、僕はヒルダ一筋だから」


「ライト〜♡」


 ライトの言葉を聞き、ヒルダはライトに抱き着いた。


 それにより、クロエの冷や汗は止まったが戦慄した表情になった。


「1年間この激甘空間に耐えなければならない・・・だと・・・?」


 ライトとヒルダが、貴族の婚約者という関係にしては珍しく政略的ではなく、恋愛的な関係であることは教会学校でも有名な話だ。


 しかし、それがここまで自分の口から砂糖を吐き出させようとする力を持っているとは思っていなかったようで、クロエは早速その洗礼を受けることになった。


「あの2人、本当に仲良いよね~。お姉ちゃん安心したよ」


「うん、イルミはそのままでいてね」


「何が?」


「なんでもない。まさか、イルミに癒しを感じることがあるとは思ってもみなかったよ」


 イルミまで婚約者を連れ込むようなことになれば、クロエの心がささくれ立ってとてもではないがこの場にいられなかっただろう。


 だから、イルミに婚約者がいない事実がクロエを救った。


 イルミには悪いが、クロエは少なくとも自分が会計の任期の間は誰とも婚約関係にならないでくれと祈った。


 その後、ヒルダが落ち着いてから、ライト達は学力テストの問題や模擬戦のルール、面接の採用基準を決めてから解散した。

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