第114話 流石はイルミの飼い主ですね、ダーイン君
イルミに連れられて、ライトとヒルダはキャンプクラブの部室に移動した。
「ここだよ」
「キャンプクラブって、行商人を目指す
「そうね。商売のためなら、野営も辞さないって覚悟がある生徒ばかりだって聞いたことがあるよ」
「フッフッフ。ここにはね、2年前だけどお姉ちゃんを相手に攻撃できた子がいるんだよ。まあ、お姉ちゃんには勝てなかったけどね」
「何それすごい」
「知らなかったわ」
イルミは肉弾戦を得意とするので、いかにして近接戦闘に持ち込むかが戦うにあたって重要な要素となる。
得物のリーチが長ければ、イルミは間合いに入れずに攻撃する手段が限られるのだから当然だ。
そんな中、イルミの間合いになってもイルミに攻撃を仕掛けることができた生徒がこのキャンプクラブにいるとイルミが言った。
イルミに勝てなかったとしても、防戦一方にならずイルミに攻撃するだけの実力があるというのだから、大したものだと言えよう。
ドアをノックして入ると、野営に使う道具が整頓された部屋の中に、空気椅子をしながら本を読む生徒達の姿があった。
(筋トレ? 10人全員が空気椅子しながら本を読んでるってシュールだな)
部屋の中の様子を見て、ライトは予想外の光景に顔が引き攣った。
「あっ、いた。クロエ、やっほ~」
「イルミじゃん。やっほ~」
オレンジ色の髪を後ろにお団子にした女生徒が、空気椅子をしているというのににこやかに笑みを浮かべてイルミに挨拶を返した。
(ちょっと失礼)
心の中で断りを入れてから、ライトはクロエに<鑑定>を発動した。
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名前:クロエ=ガルバレンシア 種族:人間
年齢:14 性別:女 Lv:27
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HP:340/340
MP:330/330
STR:360
VIT:320
DEX:320
AGI:340
INT:300
LUK:270
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称号:ガルバレンシア商会次期会頭
鉄の胃袋
二つ名:なし
職業:
スキル:<器用貧乏><算術>
装備:アイアンスピア
仕込みナイフ×4
仕込み筆
ヘルハイル教会学校制服
備考:なし
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(仕込み筆って何!?)
それは当然のことで、仕込みナイフを制服の下に隠しているのは良いとして、筆を制服の下に隠す意味はないからだ。
ライトが<鑑定>を使っていることに気づくと、ヒルダはライトにこっそりと話しかけた。
「ライト、どんな感じ?」
「ステータスを見た限りでは、悪くないと思う」
「そうなんだ」
訊きたいことはまだあるが、ライトと内緒話をしているのはクロエに対して感じが悪いので、ヒルダは質問したい気持ちをグッと堪えた。
「クロエ、ちょっと話があるから時間貰える?」
「良いよ。ごめん、私出るね。戻らないかもしれないから、お先に失礼するよ」
「「「・・・「「お疲れさまでした!」」・・・」」」
(キャンプクラブって、体育会系なの?)
クロエに挨拶をした後輩らしき生徒達を見て、ライトはキャンプクラブに体育会系のノリに通じるものを感じ取った。
キャンプクラブの部室の外に出ると、イルミは口を開いた。
「お姉ちゃん、屋内の訓練施設の使用許可取りに行くから、先に行ってて。それじゃ!」
「イルミ姉ちゃん、廊下を走らない!」
ライトが注意した時には、既にイルミはライト達から離れていたが、ライトの声が聞こえたらしく走るのを止めて早足で職員室に向かって言った。
「流石はイルミの飼い主ですね、ダーイン君」
「飼い主ですか。否定できませんね。それはそうと、挨拶が遅れました。僕はライト=ダーインです。こっちは」
「ライトの婚約者のヒルダ=ドゥラスロールだよ。よろしくね、クロエ」
「あはは、噂の
自己紹介がまだだったと気づき、ライトとヒルダはクロエに名乗った。
ヒルダがライトは自分のものだと主張すると、クロエはヒルダに敵対するつもりはないことをアピールしてから名乗った。
「とりあえず、イルミ姉ちゃんもああ言ってましたし、先に行きましょう」
「わかりました」
ライト達は屋内の訓練施設に移動した。
その道中で、ライトはクロエについて色々と質問した。
新会計として一緒に働くかもしれないから、なるべく多くの情報を引き出すつもりだったのだ。
それにより、クロエがG1-2のテスラ=ガルバレンシアの姉であること、ガルバレンシア商会が代々行商を続ける商会であることを知った。
「お~い! 使用許可取って来たよ!」
「まさかとは思うけど、廊下を走って来てないよね?」
「は、走ってないよ」
「やましいことをしてないのなら、僕の目を見て言おうか」
「ごめんなさい。走りました」
「プッ、イルミってばマジでダーイン君には頭が上がらないんだね」
ライトに対し、頭を下げるイルミを見てクロエは笑いを堪え切れなくなった。
「笑うなんて酷いよ、クロエ」
「いやあ、ごめんごめん」
「もう良いもん。じゃあ、クロエはライトと模擬戦ね」
「えっ、なんで?」
「次年度の生徒会会計に相応しいかどうかのテストだよ」
イルミが突拍子のないことを言ってのけるので、クロエは飼い主のライトの方を向いた。
勿論、ライトも自分がいきなり模擬戦を焦られるとは思っていなかったので苦笑いである。
「あのさ、イルミ姉ちゃん。いきなり過ぎない?」
「善は急げって言うじゃん」
「間違った使い方教えたのは誰? どうせ教えるなら、報連相にしてよ」
「えーっと、私は次年度の生徒会会計候補なんですか?」
「あぁ、すみません。その通りです。イルミ姉ちゃんに、戦える
「なるほど。
イルミのやることに、筋道立てることを求めても仕方ない。
それがわかっているから、クロエは納得した。
クロエとしては、自分にやって来たチャンスを無駄にしたくないから、細かいことは気にしていられないのだ。
ライトが困っているのを見て、ヒルダが引き継いだ。
「クロエ、私と模擬戦をしよう。私の求める水準に達してたら、次年度の生徒会会計として迎え入れるよ」
「ダーイン君じゃなくて、次期会長さんとやるんですか?」
「次期会長として、実力を確かめるのは当然でしょ?」
「そうですね。では、手合わせ願います」
ライトが審判を担い、ヒルダとクロエはお互いの武器を構えた。
「僕かヒルダが止めるか、クロエが降参したら終了です。それでは始め!」
「先手は譲ってあげる」
「そりゃどうもです!」
<槍術>を会得していないにしては、鋭い突きがクロエから放たれた。
ヒルダはそれを難なく受け流し、もっと攻撃してみろと指で合図する。
「舐めないで下さい!」
今度は一撃に懸けた突きではなく、あらかじめ連続して放つことを想定した突きを披露した。
それもヒルダはあっさりと躱す。
この程度なら、スキルを使うまでもない様子だった。
すると、クロエは槍で突くのではなく、振り下ろしてみせた。
その振り下ろしの途中で、クロエは槍を手放し、制服の下に隠していた仕込みナイフを取り出してヒルダに投げつけた。
槍の振り下ろしを相手が受け止めたならば、その攻撃は有効だった。
しかし、ヒルダは槍の振り下ろしから避けていたので、クロエの槍に気を取られることなく、仕込みナイフもあっさりと躱した。
「面白い攻撃ですね」
「全く当たらないなら意味がないですけどね」
「いや、私はその手の攻撃をライトが使ってるのを見て慣れてるの」
「・・・あはは。困りました。手の内がバレてちゃ話になりません。降参です」
クロエは足掻くことなく降参した。
無駄なことはしないらしい。
次年度の生徒会会計になるのも無理だろうと思い、大きく息を吐きながら座り込むクロエに対し、ヒルダはニッコリと笑った。
「クロエ、次年度の生徒会会計に貴女を採用します」
「えっ、なんでですか? 模擬戦で手も足も出ませんでしたよ?」
「そもそも、クロエが私に一撃入れられるとは思ってないよ。日々アンデッドと戦ってる私達が負けたら笑えないもの。私が見てたのは、攻撃の筋や工夫、判断能力だから」
「私は御眼鏡に適ったと考えても良いんですか?」
「ええ。<槍術>がなくても、フォームはしっかりとしてたし、槍に拘らずに一撃入れようとするナイフの工夫は良かったと思うよ。というか、ライトと同じ戦法を地でやれるだけの才能があるなら、求めてた条件は満たしてるよ」
「あはは、良かったです。私のこれまでは無駄じゃなかったんですね」
その言葉には、クロエが<器用貧乏>によって耐えて来た苦労が滲み出ていた。
こうして、クロエは次年度の生徒会会計として採用されるのだった。
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