第112話 ナイスですね!

 12月3週目の火曜日の午後、ヒルダが生徒会長選定の学力テストを受けている頃、ライトはジャックが連れて来た生徒に会っていた。


「ライト君、来たっすね」


「待たせて悪かったね」


「良いんすよ。まだ集合時間前っす。こいつが早く集合場所に向かいたいって言ったせいっす」


「初めまして。ジャックと同じく、M1-1に所属しておりますカーム=コンラッドです。実家はクレイドル&コフィンという商会を営んでおります。カームとお呼び下さい。よろしくお願いします」


 ジャックの隣の灰色の髪の少年カームは、ライトに丁寧に自己紹介をした。


 ライトはジャックに対し、商人マーチャントコースに顔が利く生徒を連れて来てほしいと頼んでいた。


 まさか、ジャックが大陸の北の物流を牛耳るクレイドル&コフィンの関係者を連れて来るとは思わず、ライトとしては嬉しい誤算だった。


「こちらこそ、初めまして。ライト=ダーインです。料理大会では、クレイドル&コフィンと戦いましたね」


「覚えていただいて光栄です。私の姉がお世話になりました」


「カームのお姉さんは、灰色のサイドテールの方でしたか?」


「その通りです。燻製にはしてやられたと悔しがっておりましたが、その反面大いに刺激されたと言って姉は料理大会後は精力的に働いています」


「良い影響を与えられたなら良かったです。それで、今日お会いした用件ですが」


「待って下さい。そこから先は、私に言わせてもらえないでしょうか?」


「すまないっす。カームはこういう謎解きが趣味なんすよ。付き合ってやって欲しいっす」


 ライトに用件を言わせずに、自分が当てると言い出すカームを見て、ライトはそれでカームの心証が良くなるなら構わないと頷いた。


「整いました」


「どうぞ」


「ズバリ、生徒会長選定の投票の件ですね?」


「どうしてそう思いましたか?」


「これは私の予想に過ぎませんが、今日行われている学力テストではドゥラスロール先輩が1位になるでしょう。であれば、次の投票で得票数1位になれば、ドゥラスロール先輩が次の生徒会長になります。そのために、商人マーチャントコースでも顔が利く私が呼ばれたと見ました」


「なるほど、良い推理ですね」


 ドヤ顔で言ってのけるカームに対し、ライトはニッコリと笑いながら正解だと告げた。


「ありがとうございます。今日呼ばれた件について、私はドゥラスロール先輩への票集めに協力しましょう。クレイドル&コフィンは、ドゥラスロール公爵家にも贔屓にしていただいておりますから、これぐらいの恩返しはさせて下さい」


「助かります。ヒルダも喜ぶでしょう」


「その代わりと言っては何ですが、私からもダーインさんにお願いしたいことがございます。話だけでも聞いてもらえないでしょうか?」


「聞きましょう」


 (こっちから売り込むよりも、あっちの悩みやお願いを聞いた方が良さそうだからね)


 当初のプランでは、ライトが新商品のアイディアを提供する見返りとして、商人マーチャントコースの生徒にヒルダへ投票してもらおうとしていたが、ライトはカームの話を聞いて作戦を変更した。


「ありがとうございます。実は、とある貴族の家から変わった注文を受けたのです。それ自体は名誉なことなんですが、その要望に応えられそうなものが見つからなくて困っています。さて、その注文とはなんでしょうか?」


「・・・カーム、ライト君は謎解きをするために来たんじゃないっすよ?」


「失礼、間違えました。注文の内容をお伝えしますので、ご意見を伺えないでしょうか?」


 (頭を使うのも、使わせるのも好きなんだろうな・・・)


 相談をするというのに、まさか相談の核となる変わった注文の正体が何か当ててくれと言ってきたことにライトは静かに驚いた。


 ジャックがツッコまなければ、そのまま謎解きの要領で話を進められていただろう。


 ライトはこの場にジャックがいて良かったと思った。


「わかりました。それで、どんな注文を受けたんですか?」


「頭がT、尻もT、中身もTの物を持って来てくれと頼まれました。品質は、その家の格式にあった者で頼むと言われたのですが、思いつきません。ダーインさん、これが何かわかりませんか?」


 (これ、謎々じゃん。類は友を呼ぶってことかな?)


 カームの話を聞いた瞬間、ライトは答えを閃いた。


 それと同時に、カームが謎解き好きならば、その客にもそういった人が寄って来るのかと感心していた。


「カームの言葉を借りるならば、整いました」


「本当ですか? 話を聞いて数秒しか経っていませんよ?」


「カーム、ライト君の頭はキレッキレっす。常識で考えないでほしいっすよ」


「なんでジャックがドヤ顔なんだよ?」


「ライト君が頭の良さを発揮したから、オイラもちょっと嬉しくなったっす」


「まあ、良いや。カーム、答えはティーポットですよ」


「ティーポットですか? 理由も伺いたいのですが、よろしいでしょうか?」


 ジャックにツッコミを入れてすぐ、ライトはカームに回答を提示した。


 カームはライトの答えを聞いてもピンと来なかったので、ライトに説明を求めた。


「ティーポットの綴りはなんですか? それと、ティーポットに入れるものとはなんですか?」


「綴りはTea potです。中身もTeaです。あぁ、なるほど! そういうことでしたか! 素晴らしいです!」


 ライトの言いたいことに気が付き、カームは満面の笑みを浮かべた。


 ちなみに、ヘルハイル教皇国のティーポットは、電気の代わりに魔石がポットの内部を保温状態にしてくれる。


「謎が解けて良かったですね」


「ナイスですね! ありがとうございます! 約束通り、商人マーチャントコースのドゥラスロール先輩への投票の件はお任せ下さい! 商人マーチャントは信用第一ですから、権利義務関係にはきっちりしています!」


「よろしく頼みます」


 謎が解けてスッキリした表情になったカームは、ライトに頭を下げてすぐにティーポットを求めて教会学校の外に向かって歩いて行った。


 すると、その場にはライトとジャックだけが残り、ジャックが申し訳なさそうに口を開いた。


「ライト君、すまねえっす」


「もしかして、僕はカームに試された?」


「・・・流石はライト君っす。そこまで気づいたっすか」


「割と最後まで気づかなかったけど、ジャックがカームについて行かなかったから気づけた。もし、本当にティーポットを今から買いに行くなら、その貴族がどんなお茶を好むのかジャックがリサーチしないはずがないからね」


「お見事っす。オイラのこと、良く見てるっすね」


「まあね。それにしても、カームは口調が丁寧な割にキャラが濃いな」


「いや、それはブーメランっすよ」


 どの口が言うんだとジャックはツッコんだ。


「そうかな?」


「そうっすよ」


「それはさておき、カームは投票に協力してくれるかな?」


「その件は問題ないっす。ライト君が予想以上に賢かったから、カームも驚いてたっす。カームはライト君の方が自分よりも優れてるって格付けしたみたいっすから、言うことは聞いてくれるはずっすよ」


「それなら良かった」


 ひとまずの不安が解消され、ライトはホッとした。


 これで、学力テストを終えたヒルダに良い報告ができるからだ。


 ジャックと別れたライトは、生徒会室に戻ってヒルダが学力テストを終えて戻って来るのを待った。


 すぐにヒルダは帰って来なかったので、仕事をこなしながらヒルダを待っていると、ライトが帰って来てから1時間以上経ってヒルダが生徒会室に帰って来た。


「ライト、満点取って1位だったよ~!」 


 生徒会室に戻って来るなり、喜びを抑えきれないという様子でライトに抱き着いた。


 学力テストの結果は、後日発表という訳ではなく、わざわざその場で発表される。


 これは、後日発表にすると、発表されるまでの間に生徒会長選定の参加者とその後援者達が順位を気にして授業に集中できなくなるからだ。


 そうならないように、教職員が協力してその場で採点する方式を取ることになった。


 ヒルダは落ち着いてから、クレイドル&コフィンのカームが投票の協力をしてくれるとライトから聞くと、ライトの頑張りを労った。


「ライト、ありがとう」


「これぐらいどうってことないさ。それよりも、頭を使って甘い物が欲しいかと思って、蜂蜜レモンを用意したんだ。飲む?」


「飲む! ライト大好き!」


 次期生徒会長に王手をかけたヒルダは、ライトからの労いが嬉しくてライトに抱き着いたまましばらく離れなかった。

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