第108話 金剛は砕けねえよ
討伐にもっと時間がかかると思っていたのに、ライトがもしかしてと思って行動した結果、あっさりとゲイザーを倒せてしまった。
ヘレンから遅れて正気に戻った面々は、ライトの異常性を改めて思い知った。
「俺達、役に立てたんだろうか?」
「流石はルクスリア様の再来だ」
「言うなれば、聖者ならぬ小聖者」
(小さい言うなし)
ライトは声に出しはしないものの、ムッとした表情になった。
だが、それにレイドメンバーは気づくことなく、ゲイザーを無事に倒せた高揚感で話がどんどん進んでいく。
「確か、ルクスリア様の弟ってライト様と同じぐらいの背丈でマーリン様って言うんじゃなかったか?」
「じゃあ、ライト様の二つ名は
「良いね、
「「「・・・「「
突如起こった
(止めてくれないかな。
《ライトの二つ名が、
現実は非情だった。
(神は死んだ。いや、生きてるけど)
急に手持ち無沙汰になった
しかし、ヘルは転生する際に休む暇なんてなさそうなぐらい多忙に見えたので、純粋にある程度の数の者に認知されると、二つ名が自動で設定されてしまうのだろうと結論付けた。
「ライト、立派な二つ名だね!」
「う、うん」
ライトが身長を気にしているのはわかるが、ルクスリアの弟としてダーイン家を大きくしたマーリンの名を二つ名に得たことで、ヒルダはとても喜んでいた。
身長がなかなか伸びないことを気にしていても、ヒルダが今しがた決まった
「良いなぁ。お姉ちゃんも二つ名欲しい」
「イルミ姉ちゃん、時に純粋な羨望が人を傷つけることを知ろうね?」
「どういうこと?」
「うん、ごめんね。イルミ姉ちゃんには難しかったね」
「そうだよ。って、あれ、なんでお姉ちゃん馬鹿にされてるの?」
「自分で考えてみようね」
「お姉ちゃんを子ども扱いしないでよ」
「そういうことは、ヒルダみたいにヒット&アウェイがしっかりできてから言おうね」
「フフン」
「むぅ、解せぬ」
ヒルダがドヤ顔でアピールしたことで、余計にイルミは悔しそうな顔をした。
3人が話していると、ジェシカとメイリンが近づいて来た。
「お疲れ様です、ライト君、ヒルダ、イルミ」
「お疲れ」
「お疲れ様です、会長、副会長」
「ライト君がいると、レイドをレイドと思えませんね」
「聞いてたのと、違う」
5年生ともなれば、先輩の
自分達が教会学校を卒業し、レイドに参加するために早いうちから先輩方に話を聞きに行く者が多いからだ。
ところが、今までに聞いてきた先輩方の話では、今日みたいに被害のないレイドなんて聞いたことがない。
だから、今日のレイドをレイドと思ってはいけないのだとジェシカとメイリンは考えるようにした。
生徒会メンバーで話しているところに、ヘレンが目と鼻、口の部分だけ穴の開いた白い仮面を持って来た。
「ライト君、話してるところ悪いんだけど、この仮面の効果を確かめてもらえない?」
「わかりました」
戦闘が終わっても、後処理は残っている。
その後処理をするのは、レイドリーダーのヘレンの役目だ。
ローランドや教会に所属する者達への報告のため、<鑑定>を持ったライトに
ヘレンに頼まれたライトは、<鑑定>により白い仮面の効果を確認し始めた。
(マスカレードって仮面は1つしかないじゃん。いや、そういうことか・・・)
仮面の
それでも、マスカレードの効果を見てすぐにそのネーミングに納得した。
マスカレードには、装着した時と場所によってランダムに1つスキルを会得できる効果があった。
ただし、そのスキルが使用者と相性の良いものでなければ、外した際に失われる。
だから、狙ったスキルを必要に応じてガンガン使えるようにするというのは厳しいだろう。
スキルを条件付きで会得できる反面、マスカレードの使用者はマスカレードの顔が装着するごとに変わり、装着中はその表情のままで居続けなければならない。
その上、マスカレードを装着する回数が増えれば増える程、装着中に強制されて表情を作る反動で、装着していない時の表情が能面のようになり、それにつられて感情が薄くなるというデメリットもあった。
スキルを得られる可能性があっても、表情や感情を犠牲にするというのだから、犠牲が少ないとは言えない。
ライトが鑑定結果をヘレンに伝えると、ヘレンの表情は険しいものになった。
「表情や感情なんてどうでも良いから、スキルを欲する者にしか使えそうにないわね」
「そうですね。デメリットが状態異常ではありませんから、僕の<法術>でも治せませんしね」
「そうよね。これは教会の倉庫の肥やしになるしかないかしら」
折角手に入った
すると、東門に
その御者台にはローランドがおり、ライト達の前に
「おう、お前等も倒したか」
口を開く前に、一瞬だがローランドの表情が痛みに歪んだのをライトは見逃さなかった。
「叔父様、落ち着いてますけど普通に怪我してますよね。治療しますか?」
「おう。頼むわ。感覚的なもんだから確実じゃねえが、体のあちこちの骨が折れてるし、HPもたぶん3割切ってる」
「・・・大怪我してるじゃないですか。【
自己申告通りなら、結構な大怪我をしていたので、ライトは<鑑定>で素早くローランドの状態を確認してから必要な処置を施した。
汚れが目立ったので、まずは清潔にするのを最優先にしてライトは【
それが終わってすぐに、【
「ありがとよ。流石はライトだな。痛みが嘘みてえになくなったぜ」
「ローランドってば、また無茶をしたのね」
ニカッと笑みを浮かべるローランドに対し、ヘレンは呆れた表情になった。
「そうは言うが、ギルバートを酷え目に遭わせた奴には、きっちりお礼参りしなきゃなんねえだろ」
「それはそうだけど」
「叔父様、無茶はいけません。僕がここにいなかったら、最悪の場合は適切な治療ができないまま時間が経過して、体を今まで通りに動かせないことだってあり得たんですからね?」
「
(元ネタは知らないんだよね? わざとじゃないんだよね?)
ローランドの二つ名が
無論、本人に深い意味はない。
自分の体の頑強さをアピールしているに過ぎない。
「かっこつけてないで、その御者台にある大剣について説明して」
「おっと、そうだった。グラッジが使ってた大剣だ。グラッジを倒したらそのまま残ってな。ライトに見てもらおうと思ったんだ」
「わかりました。見てみましょう」
ライトは御者台に置いてあるティルフィングとは異なる大剣に近づき、<鑑定>を発動した。
(グラッジメーカー、ねぇ。嫌な名前に嫌な効果だよ、まったく)
その大剣の名前はグラッジメーカーと言い、当然のことながら
その効果は、使用者の抱く負の感情の強さに応じてSTRの能力値が上乗せされるというものだった。
だが、力を得るには代償が必要だ。
グラッジメーカーを使い続ければ、使用者のLUKが減っていく。
そして、LUKの数値が0になった途端、不幸が形を持って使用者に降り注ぐ。
優しい結末で五体満足な死で、状況によっては骨の欠片すら残らない死を迎えることになる。
グラッジメーカーの効果を確認した後、ライトはそれをローランドとヘレンに伝えた。
「よし、わかった。倉庫行きだな」
「同感ね」
「んじゃ、難しい話はさておき、門の中に入って勝利を祝おうじゃねえか。野郎共、宴会だ! 今日は俺が奢るぜ!」
「「「・・・「「ゴチになります!」」・・・」」」
月食が起きた11月で、間違いなく今日が山場だったと思ったからか、今日を乗り越えたことをローランドは祝いたいと東門で戦ったレイドメンバーに声をかけた。
奢りとなれば、嫌がる者はいない。
ヘレンは報告書をまとめるため参加しなかったが、ローランドがレイドメンバーを率いて教会御用達の飲み屋に向かった。
生徒会メンバーは、15歳になっていないライトとヒルダ、イルミだけジュースで乾杯した。
宴会中、ローランドはライトの二つ名が
夜も更けて眠くなってくると、そのまま飲み屋にいれば悲惨な朝を迎えると察知し、ライトは適当なタイミングで生徒会メンバーを連れて退席した。
ちなみに、ローランドを含む大人組が翌朝二日酔いだったのは言うまでもない。
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