第100話 どうしてこうなった
しばらくしてから、ローランドは瘴気がうっすらと漏れている箱を抱えて部屋に戻って来た。
「【
ライトが箱の瘴気を消滅させると、ローランドは箱の蓋を開きながら口を開いた。
「すまん、助かった」
「それは構いませんが、割と時間がかかりましたね。そんなに
「まあな。お蔵入りになったやつをまとめて持って来たぜ。早速見てくれ」
ローランドが箱の中身を床に並べ始めると、ライトは順番に<鑑定>を使ってそれらの効果を確かめた。
最初の
その名はラブルメイカー。
(ラブルって瓦礫だっけ? STRが2倍になるのは魅力的だけど、強くなったまま暴れ回る人が味方にいるのは困るよね)
1つ目の
ラブルメイカーの隣にあるのは、左腕だけのガントレットだった。
使えそうなら、イルミのガントレットとして貰えないか頼んでみようと思ったが、鑑定結果は産廃としか言い表せなかった。
その効果とは、VITの能力値が2倍になるが、これを使って10回殴ると装備が爆発して殴った対象が抱いた恨みを瘴気に変換させた状態で撒き散らすものだったからだ。
(10回しか使えないし、爆発しようものなら使用者どころか周囲一帯が悲惨なことになるじゃん)
ライトに使えないと認定されたこの武器の名は、タイムボマーという。
3つ目の
何故なら、タイムボマーの隣にあったのは、全体的に罅割れた大剣だったからだ。
あと1回でも振れば、今の形を保っていることができなくなりそうな見た目である。
ライトが<鑑定>を使ってみると、STRの能力値が2倍になる代わりに、1回振る毎に耐久度が10%落ちて10回振れば崩壊確実の大剣だった。
しかも、大剣をそれ以上振れるようにするために、耐久度が10%になった時にこの大剣の柄から仕込み針が出て使用者の血を吸い取って修復する。
この迷惑な自己修復をする大剣の名前は、ブラッドドランカーだった。
(これも酷い効果だ。そりゃ、倉庫行きになるって)
やれやれと言わんばかりに、ライトは溜息をついた。
「どうだ、ライト? 酷いもんだろ?」
「酷いですね。これだったら、実験に使っても問題なさそうです」
ライトが<鑑定>で3つの
ライトも使える
「んじゃ、やっちゃってくれ」
「わかりました。【【【
<
すると、ラブルメイカーとブラッドドランカーは、プレッシャーを感じさせない鋼鉄製の
その一方、タイムボマーだけが聖気をゆっくりと消化するように馴染ませていき、馴染み終わると仄かな光を放つ銀色のガントレットへと変わった。
その上、拳の部分が犬歯の長い人の頭蓋骨を模ったものに変わっており、腕を守る部分にはうっすらと赤い分岐線が浮かび上がっていた。
(この感じ、ダーインスレイヴとちょっと似てるかも)
そう思ったライトは、自分の右手首に嵌まるダーインスレイヴに目をやった。
銀色に紅い分岐線という特徴は、確かにダーインスレイヴとタイムボマーだったものに類似していた。
とりあえず、ライトは<鑑定>で結果を確認することにした。
いくら自分の考えだけで物事を考えても、正確な情報がなければ自分の願望に歪んだ結論に至るからだ。
その結果、ラブルメイカーとブラッドドランカーはアイアンハンマーとアイアンクレイモアへと名前が変わっており、
それに対して、タイムボマーだけがそれらとは異なる結果が出た。
(どうしてこうなった)
ライトの感想はこれに尽きた。
タイムボマーだったものは、その名前がナグルファルに変わっていた。
ナグルファルの効果も、当然変化している。
爆発するようなデメリットはなくなっており、VITが元々の能力値の1.5倍になる代わりに、使えば使うだけ眠くなるというものだ。
(これだったら、イルミ姉ちゃんでも使えるよね)
そう思ったライトは、ローランドに結果を伝え始めた。
「叔父様、
「そうか・・・」
「
「訳がわからない」
ローランドは言葉を失い、ヘレンはブツブツ言いながら思考し始め、ギルバートは思考を放棄した。
そんな中、ヒルダはライトに変化の詳細を訊ねた。
「ライト、どんな効果になったの?」
「VITが元々の能力値の1.5倍になる代わりに、使えば使うだけ眠くなるんだって」
「元々はどんな効果だったの?」
「VITの能力値が2倍になるけど、これを使って10回殴ると装備が爆発する。しかも、殴った対象が抱いた恨みを瘴気に変換させた状態で撒き散らすっていう迷惑なオプション付き」
「元々がゴミみたいな効果のせいもあるけど、かなり改良されたね。流石はライト」
ヒルダの目がキラキラと輝くが、ライトとしてはどうしてナグルファルだけが【
そんなことは気にしないと言わんばかりに、ヒルダはライトを抱き着き始めた。
どうやら、一緒にいるのにライトが構ってくれないせいで寂しくなったらしい。
殺人衝動が湧く前に、積極的にそれを阻止する建前でライトに抱き着いている。
若干、シリアスな雰囲気が薄れ始めたところで、ローランドが口を開いた。
「強化の成功確率が1/3じゃ、ティルフィングに【
「そうね。もっとサンプルが必要だわ。ライト君、ナグルファルの輝きからして
「そうですね。これは
ヘレンもローランドに賛成し、ティルフィングに【
そして、少しでも強化成功の条件を絞り込もうとして、自分の目で見て気付いた情報をライトに確認した。
ライトもヘレンに回答することで、
「ローランド、他に倉庫に
「あることにはあるが、実験に使えるようなゴミみてえな
「そう・・・。仕方ないわ。この実験だけに時間を割いてる訳にもいかないし、スケジュールを調整するのも大変だわ。この件は、隙間時間を使って試しましょう。ライト君、協力してくれるかしら?」
「わかりました。それと、僕からも1つだけお願いがあるのですが」
ヘレンに協力を受け入れる代わりに、ここぞとばかりにライトはお願いがあると申し出た。
「ライト君からのお願い? 珍しいわね。何かしら?」
「ナグルファルを貰えませんか? イルミ姉ちゃんに使わせたいのですが」
「イルミちゃんの右手のガントレットの効果を考えると、攻めの右腕と守りの左腕の方が良いってことね?」
「話が早くて助かります。それに、僕の近くで使われるならば、デメリットを軽減できますから」
「【
「防げます。以前、僕自身で試したことがあります」
「良いわ。許可してあげる」
「お、おい、俺に相談してくれよ」
自分に相談することなく、ヘレンが自らの裁量でナグルファルをライト経由でイルミに渡そうとするので、ローランドが待ったをかけた。
「ローランド、ナグルファルをデメリットなしで使える方法を思いつく?」
「そりゃ思いつかんが」
「なら、私の考えに従ってもらうわ。良いわね?」
「けどよ」
「良 い わ ね ?」
「はい」
(叔父様、なんかごめん)
ヘレンに押し切られるローランドに心の中で謝り、ライトはヘレンから布で巻かれたナグルファルを受け取った。
それから、ライトとヒルダはローランドの部屋から退去し、1ヶ所寄り道してからイルミ達が待つ生徒会パーティーに貸し出された部屋に向かった。
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