第44話 俺がシールドだ!

 昼休みが終わり、ライトのパーティーとG1-2のパーティーがグラウンドの中央に揃った。


 G1-2のパーティーを率いているのは、ゼノビア=パイモン。


 ゼノビアは大陸の東端を守護するパイモン辺境伯の三女である。


 ちなみに、G1-1に所属するミーアのアマイモン辺境伯家もそうだが、大陸の東西南北の端を守護する辺境伯家は四大公爵家が起源の血筋である。


 東端のパイモン辺境伯家は、ドゥネイル公爵家の血筋。


 西端のアリトン辺境伯家は、ドゥラスロール公爵家の血筋。


 南端のオリエンス辺境伯家は、ダーイン公爵家の血筋。


 北端のアマイモン辺境伯家は、ドヴァリン公爵家の血筋。


 つまり、ゼノビア=パイモンはアルバスと遠い血縁にあるということだ。


 家柄からしても十分に教育を受けているだろうことは予想できるので、油断してして勝てる相手ではないだろう。


 それはともかく、両パーティーが揃って時間が来るとシスター・マリアが口を開いた。


「これより、午後の決勝トーナメントを始めます! 第一試合、ダーインパーティーVSパイモンパーティー、始め!」


「アルバス、手筈通りに!」


「任せろ! 【重斬撃ヘヴィスラッシュ】」


 開始早々、ライトの指示を受けたアルバスがパイモンパーティーに向かって【斬撃スラッシュ】よりも威力と射程のある斬撃を飛ばした。


「ロドス! 防ぎなさい!」


「俺がシールドだ! 【城壁ウォールオブキャッスル】」


 キィィィン!


 ロドスと呼ばれた少年がタワーシールドを体の正面で構えて技を発動し、アルバスの放った斬撃を防いだ。


 【重斬撃ヘヴィスラッシュ】は【斬撃スラッシュ】よりも威力と射程があるとはいえ、鉄を斬れる程の技ではない。


 いや、正確にはアルバスのSTRは斬鉄が可能な領域に達していないのだ。


「あいつ、何言ってんだ?」


「アルバス、ツッコみたい気持ちはわかるけど、今は試合に集中しろ」


「悪い」


 ロドスに斬撃を防がれたことよりも、ロドスの発言の方が気になってしまったアルバスはライトに注意されて気合を入れ直した。


「システィ、やりなさい!」


「任せて! 【火雨ファイアーレイン】」


「やらせないよ。【防御壁プロテクション】」


 雨のように降り注ぐ火の矢だが、ライトは微塵も慌てる様子がない。


 自分のパーティーを守るようにして光の壁を頭上に展開して防いだ。


「ザックとアリサで突撃。アルバスの射線に入らないように」


「了解」


「わかった!」


「ロドス、ジキル、迎え撃ちなさい!」


「任せろ!」


「了解!」


 ライトが指示を出せば、ゼノビアがそれに対応するように指示を出した。


 ロドスがタワーシールドを持つ盾役タンク騎士ナイトであるのに対し、ジキルは大剣を持つ重騎士アーマーナイトだ。


 守備はロドスが担当し、攻撃はジキルが担当することでザックとアリサが足止めされた。


「ルイド、フローラを倒しなさい」


「おっしゃ!」


 短剣を2本携えたルイドが、Aブロックの予選で活躍したロゼッタを倒すために攻め込んできた。


「ライト、俺がやる」


「いや、僕がやる。ザックとアリサが動けないから、アルバスはパイモンさんを」


「了解」


 アルバスはライトにルイドを任せ、自分はゼノビアを倒しに向かった。


 素通りさせられたルイドは自分が舐められていると思い、頭に血が上った。


「昨日優勝したからって、舐めやがって!」


「舐めてないよ」


「余裕ぶってんだろうが! 【十字クロス


「やらせないってば」


「がはっ!?」


 ルイドが技を出す前に、ライトがルイドの懐に入って剣の腹で殴り飛ばした。


 それは、昨日の個人の部を観戦していた者たちにとってデジャヴと言っても良いだろう。


 ルイドのやられっぷりは、Dブロックの予選でライトがオットーを倒した時と全く同じだったからだ。


「ルイド、何をやってるんですか、もう!」


 普段から頭に血が上りやすく、実力を出し切れないところがあるルイドだったが、今日もそれが現実となってゼノビアはイラついた。


 そんなゼノビアに対し、アルバスが攻め込んだ。


「そらよ! 【斬撃スラッシュ】」


「【斬撃スラッシュ】」


 アルバスの斬撃はゼノビアの斬撃によって逸らされた。


 ゼノビアの武器は槍だ。


 重量では大鎌に軍配が上がるというのに、ゼノビアが槍でアルバスの斬撃の方向を逸らしたのは、ゼノビアにそれができるだけのDEXがあるということに他ならない。


 予選では力を隠していたようだが、辺境伯家の名前は伊達じゃないらしい。


「ライ君~、私もやる~?」


「そうだね。僕はザック達をフォローするから、ロゼッタは敵の後衛を頼める?」


「は~い。【棘牢ソーンジェイル】」


「きゃっ!?」


「システィ!?」


 ロゼッタが技名を唱えると、人を1人しか閉じ込められないサイズの牢獄が地面から生えた茨によって形成された。


 ロゼッタの技によってシスティは少しでも動けば茨の棘が刺さってしまったので、行動不能な状態に陥った。


 これでゼノビアのパーティーで戦えるのは残り3人になった。


「ロゼッタ、グッジョブ!」


「イェ~イ!」


「さてと、次は僕の番だ。【防御壁プロテクション】」


「なんだと!?」


 ライトが射程範囲まで動いて技名を唱えると、ジキルが大剣を振り下ろす途中で光の壁が現れてジキルの振り下ろしを弾いた。


 そうなれば、咄嗟の出来事にジキルが体のバランスを崩す訳でマッチアップしていたアリサがその隙を見逃すはずがない。


「【怪力打撃パワーストライク】」


「ジキル!?」


 光の壁を横から回り込み、アリサの渾身の一撃がジキルの胴体を捉えた。


 ジャストミートした音と共にジキルの体は後方に吹き飛ばされた。


 地面に落下した時には、ジキルは気絶して動けなくなっていた。


 ジキルまでやられてしまい、ロドスはザックとアリサを相手にしなければならなくなって冷静さを失った。


 今までは冷静な判断ができていたから、ザックの攻撃を防戦一方ではあるもののまともに受けることなくやり過ごしていた。


 ところが、1対2という数的不利になれば、戦闘経験の浅い1年生のロドスではどのように対処して良いのか思考が行動に追い付かなかった。


 ここまで追い詰めてしまえば、ザックも攻撃を当てるのは容易だ。


 ドボルザークを2本の剣に分けると片方を盾で防がせるように攻撃し、もう片方で反対側から攻撃してロドスにダメージを与えた。


 ダメージを与えられたことで、盾役タンクとして無傷で防ぎきっていた自信が打ち砕かれてしまい、ロドスはあっさりとザックによって気絶させられた。


 こうしてゼノビアのパーティーはゼノビアだけになった。


「ライト、手は出すなよ?」


「はいはい」


を前にお喋りとは、余裕ですね!」


 キィン!


 ライトに声をかけるアルバスに対し、ムッとしたゼノビアは突きを放った。


 しかし、アルバスはそれを難なく弾いた。


「余裕? 違うな。これは意地だ。【回転蹴スピンキック】」


「ぐぁっ!?」


 大鎌を振りかぶってみせて、それを防ごうとしたゼノビアに対してアルバスが放ったのは回し蹴りだった。


 フェイントに引っかかって無防備だった反対方向からの蹴りを受け、ゼノビアの体勢がぐらついた。


「敵でも甚振る趣味はねえ。寝てろ。【突撃正拳ブリッツストレート】」


 アルバスの拳が命中し、ゼノビアは後ろに倒れた。


 体幹で比べれば、ゼノビアはエルザよりも上だ。


 エルザであれば、昨日の準決勝の時にアルバスの【回転蹴スピンキック】で後ろに倒れたのだから。


 それはさておき、ゼノビアが後ろに倒れてすぐにアルバスが大鎌をゼノビアの首筋に向けると、シスター・マリアが口を開いた。


「そこまで! 勝者、ダーインパーティー!」


 ゼノビアが倒されたことで彼女達が全員行動不能だと判断し、シスター・マリアは試合の終わりを告げた。


「あのパーティー、戦力層が厚いな」


「昨日の準決勝に出たのが3人だぜ? ヤバくね?」


「決勝戦が楽しみだわ」


 観客席の生徒達はライトのパーティーの戦力を改めて思い知った。


 もっとも、ライトはまだ【防御壁プロテクション】しか使っていないから、全然本気とは言えない。


 これに加えて【回復ヒール】や【疲労回復リフレッシュ】まで使ったら、まず間違いなく戦慄するだろう。


 何故なら、ライトのパーティーはライトがいる限りダメージを受けても治してもらえるし、疲れても疲れをなくしてもらえるのだから。


 自分が戦うとなれば持久戦まったなしであり、ライトの回復させられる量を上回るダメージを一瞬で与えなければならないなんてかなり厳しいに違いない。


 とりあえず、ライトのパーティーは決勝に駒を進めた。


 決勝戦に参加することが決まると、ライト達は待機場所のテントに移動してこの後のもう1つの準決勝で次の対戦相手をじっくりと観察することにした。

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